ボクは胸騒ぎスキルで、この世界を駆け抜ける!

さんが

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第1話 ぼっちのルクール

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「まだ、追いかけてくる。最初から3匹も現れるなんて、何があったんだ?」

 ここには、ボクしか居ない。それでも、声に出してしまうのは、いつも“ぼっち”でいるボクの不安なのか、それとも仲間への憧れなのかもしれない。

 今、ボクを追いかけてくるのは、バーゲスト。狼のような獣だが、歴とした魔物。下位の魔物だが、この森に侵略してくる斥候で、一度バーゲストが住み着いてしまうと、急激に数を増やす。
 ここは、イスイのエルフの森。森の精霊によって守られているが、それは村だけの話。広大な森全体が精霊によって守られておらず、村の外は安全な場所じゃない。

 この世界を襲った災厄。魔王との戦いで、アシスの世界は荒廃した。ボクの両親は、産まれたばかりのボクを守り、戦いの中で命を落とした。もちろん、他にも多くの犠牲者が出たらしいが、まだ産まれたばかりのボクには記憶なんてないし、大昔の御伽噺でしかない。ただ、ボクには親が居ない。それだけは知っている。

 そんな御伽噺では、魔王との戦いで傷付いたエルフ族は、イスイの森に逃げ込み、森の精霊から守護を得た。しかし、森の精霊も大きく力を落とし、守護の対価として、エルフ族はこの森を守ることになる。それが、イスイのエルフ族と呼ばれる始まり。

 今、ボクがギルドから受けている依頼はバーゲストや他の魔物が、この森に住み付かないようにすること。
 親のいない一人ぼっちのボクでも、生きていく為には生計を立てる必要がある。精霊の力を宿していれば、子供であっても精霊の力を借りて戦うことも出来るし、生産系の仕事だって出来る。

 しかし、ボクには精霊の力は宿っていない。

 それは、ボクの髪を見れば分かる。ボクの髪はほどんどが黒く、まばらに白髪が混ざっている。良く言えばロマンスグレーだが、子供のボクには似合わない。しかもこれは、エルフにはあり得ない髪色で、精霊からも嫌われる髪色らしい。精霊から直接聞いた訳でもないのに一方的に決めつけられ、“そんなの信用出来ない”って反発もしたこともあるし、僅かな望みを捨ててはいない。
 だが、今の今に至るまでボクには精霊の声は聞こえないし、それが事実を物語っている。

 だから、ボクが生きていく為の手段は、薬草の採取だったり、魔物を見つけたら村へと連絡する簡単な仕事のみ。もう少し大人になれば、体格や筋力も増す。そうすれば、もう少し出来る仕事だって増える。だが、それは直ぐに解決できる問題ではない。今は、黙って地味な仕事を毎日コツコツとこなしている。



 ただ、今回は少し違う。いつもバーゲストは単独で現れる。それなら、ボクだって追い払うことくらいは出来る。しかし、今回現れたのは3匹で、バーゲストが集団になった場合は、大きく驚異度が増す。それだけじゃなく、先頭の1匹は一回り大きい。だから、ボクは戦うことはせず、村のギルドへ連絡を優先する。それが、ボクがギルドから受けている本当の依頼なのだから。

「ダミアの木を右に曲がって、次はアモンの木まで」

 勝手知ったるイスイの森は、目を瞑ってでも移動出来る。しかし、独り言を呟きながら、音でも自身の思考を確認する。間違っても、誰も気付いてはくれないのだから、何回繰り返しても損はない。

 追われる中でも、なるべく花を避けるように気を遣う。そんなボクの想いとは関係なく、バーゲストは乱暴に草花を舞い散らせて、ボクを追いかてくる。

 徐々に、バーゲストの足音は近くなり、距離は縮まってきている。少しだけ振り返れば、暗い森の中でもバーゲストの姿がハッキリと視認出来るまで迫っている。森の草木があっても、姿がハッキリと分かるし、魔物特有の妖しく輝く瞳がボクをシッカリと捉えている。

「上位種か、思ったより速いな。また、アージさんに怒られるよ」

 少し振り返っただけだが、それでも僅かに逃げるスピードが鈍る。そのチャンスをバーゲストは見逃さない。僅かに縮まった距離をさらに詰めようと、バーゲストが大きく跳躍してくる。

 ボクは、アモンの木の下の茂みに潜り込むが、バーゲストの爪が微かに体を掠める。

 間一髪で回避したが、茂みごしでもバーゲストの姿が見える。茂みの隙間からは、漏れる妖しい光。それは、バーゲストにとってはゼロに等しい距離。この距離まで詰められれば、ボクがバーゲストから逃げきることは出来ない。それをバーゲストも分かっているのか、先頭の一体が勝ち誇ったように大きく咆哮を上げてくる。

「大丈夫」

 小さく呟くと、腰に差した2本の短剣の柄に手を触れる。それは、ボクの両親の形見の短剣。右に差した黒い柄の短剣は父の形見で、柄と同様に剣身も黒い。左に差した白い柄の短刀は母の形見で、刀身が淡く光る。今はまだ柄に、手のひらを軽く当てた程度。

「うん、落ち着いてる。そのまま」

 ゆっくりと、腰を落とし右足を後ろに引く。

「ボクの勝ちだ」

 ボクの言葉を理解したのか、それに反論するようにバーゲストが唸り声を上げてくる。

「じゃあな、勝負はまた今度」

 しかし、ボクは捨て台詞を残して、バーゲストに背を向けて駆ける。戦いを確信していたバーゲストは、意表を突かれ反応が遅れるが、ボクはそんなのは気にしない。
 そして、背後から怒りの咆哮が聞こえる。多少の距離を稼ごうとも、バーゲストにとっては気にする必要がないくらいに近いのだから。




「ほらね、ボクの勝ちだったろ」

 茂みを突き破り、最短距離で狙った獲物を仕留めるはずだったバーゲスト。しかし、バーゲストは茂みの中から出てこられない。先頭の一体こそ、辛うじて頭を出しているが、後ろの2体は完全に茂みの中に埋もれている。

 バーゲストが突っ込んだのは、ラーキの茂み。葉に隠されているが、枝には無数長く鋭利な棘があり、それがバーゲストの突進を阻む。棘には幾つもの返しがあり、バーゲストがもがけばもがく程、より深くへと食い込み、その動きを封じる。

「残念だったな。ここは精霊の森。簡単に足を踏み入れて大丈夫な場所じゃないんだよ。精霊様を守るのは、ボク達だけじゃないんだからね」

 今度こそ、黒柄の短剣を抜く。まだボクの力は弱い。それに、何時も相手にしているバーゲストよりも一回り以上大きい。一撃で仕留める為に、両手で柄を握る。

「一撃で終わらせる」

 渾身の力を込めて、バーゲストの首元へと突き立てると、鈍い感触とドロッとした血が溢れ出しててくる。

「そんな目で見るなよ。ボクの力じゃ、これが精一杯なんだ」

 暫くは目を見開いていたが、次第に妖しく光る魔物の瞳から輝きが消える。それは、魔物の死を意味する。
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