精霊のジレンマ

さんが

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タイコの湖

315.ゴルゴンの願い

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 ゴルゴンは、ゆっくりと立ち上がりこちらを振り向く。しかし、そこで力尽きたのか体がガクッ落ちて膝を付いてしまう。髪の毛代わりだった蛇達は、ほとんどが半ばから千切れてしまっているが、前屈みになった姿勢からではゴルゴンの顔は見えない。

 俺達の姿が見えたことで僅かに残された蛇達が、威嚇するように牙を剥いてくる。しかし、威嚇の音をたてる度に頭からは血が流れ出し、全身を深藍色に染めてゆく。

 そして、地面へと流れ落ちた深藍色の血は、キラキラと消滅を始める。コールと融合しても尚、その存在を保つことは難しい。

『どうするの?あなたの責任よ!』

「えっ、俺の···」

 最初は倒すどころか殺そうとしていたのだから、別に消滅してしまっても気にする必要はない。頭の傷は俺達と戦った時に出来たもので間違いないだろう。それでも一度は助けようとしたせいなのか、妙な罪悪感がある。

「なあ、大丈夫か?無理して立たなくてイイぞ」

 ゴルゴンに言葉が通じるとは思わないし、消滅しかけている相手に声を掛けて、状況が改善する訳がないのも分かっている。それでも、そうする事しか思い付かなかった。

『何言ってるの?』

「そんなの、俺だって分かってるよ!」

『あなたのやった事なんだから、もう少し真剣に考えたどうなの?』

 ムーアの言っているのは、ゴルゴンの致命傷となっている全身の傷のことになるが、何時から付いていた傷なのか分からない。俺たちがダンジョンに飛ばされた時から付いていたものかもしれないし、障壁を破壊した時に巻き込まれて出来たものかもしれないが、今となっては証明のしようもない。

「でも俺が関係するなら、ムーアだって関係しているだろ?」

『あのね、私達まで巻き込まないで欲しいわね。あなたの責任は大きいでしょ』

「だってな、皆で···」

 途中まで言い掛けて、言葉を飲み込む。結界の破壊は皆関係しているかもしれないが、感情に任せて結界を破壊しゴルゴンを助けようと決めたのは俺じゃないか。
 ここまで激しい怒りを感じた事はなかったし、俺が決めたことに精霊達は逆らわなかった。精霊達にとっては最悪を避けるために、最善を尽くしたに過ぎない。

「そうだな、俺が決めたことの結果でしかないな」

 といっても何をしたら良いかは分からず、ゴルゴンに近付くことしか出来ない。

 存在は消滅しかかっているのに、頭に残された数少ない蛇は、近付く俺にさらに激しく威嚇の牙を剥く。それがゴルゴンの体にさらに負担をかけ、さらに消滅が加速する。

「大人しくしてろ。死にたいのか?邪魔をするなら、先にお前達を殺すぞ!」

 その言葉が通じたのか蛇達は大人しくなるが、俺の声に反応したゴルゴンが再び立ち上がろうとする。しかし、立ち上がったのは一瞬だけで、体は崩れ落ちてしまう。
 膝が折れ曲がり腕は力なく垂れ下がるが、今度は地面へと倒れ込むことなく不自然な位置で静止する。

「コールか?」

 返事はないが背中に生えたコールの羽が、ゴルゴンの体を持ち上げているが、項垂れた状態では依然として顔は見えない。

「お願い、殺して欲しいの」

 顔を俯け小さく弱々しい声ではあるが、ハッキリと聞き取れる声。そしてコールとよく似た声が、一瞬だけドキリとさせる。

「その声は、コール···じゃないよな?」

「コールってスライムのこと?そうなら、ウチはスライムじゃない。力は借りてるけど」

 そして、ゴルゴンはコールの羽の力を借り、足を引きずるようにして俺の前までやってくる。

「無理して動くな。消滅が早まるぞ!」

「もう避けることは出来ないわ。お願い、殺して欲しいの」

 再び、同じ言葉を繰り返す。俯いて見えなかったゴルゴンの顔が持ち上がると、そこにはコールとソックリの顔がある。

「君に殺されれば、僕は解放される。そして、君の中で生きれるのでしょ?」

「なぜ、そう思う?そんな事は、有り得ないだろ」

 ゴルゴンの目は潰されて、完全に見えていない。それなのに、俺の体や顔の位置を知っているように、正確に俺の顔のある場所を見てくる。

「隠すことは出来ないよ。スライムは、僕の妹みたいなものだからね」

「魔力の質か。お前の魔力を糧にして成長したなら、妹じゃないだろ」

「僕は、まだしてないよ。だから妹なの、気に入った?」

 ゴルゴンの感情の声も自身に満ち溢れ、とても消滅しそうな奴の言うことじゃない。

「また面倒なのが···」
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