精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
310 / 329
タイコの湖

310.契約の障害

しおりを挟む
「クソッ!」

 結界の障壁から溢れ出す魔力は、粘り気が強く纏わりつくような気持ち悪い感触だけだと思ったが、気付けば両腕はコンクリートで固められたかのようになり、ピクリとも動けなくなってしまう。
 どんなにマジックソード抜き差しようと思っても、肝心の腕自体が全く動かせないのだから、これ以上障壁にダメージを与えることは出来そうにない。

 そして、精霊達の冷たい視線を感じる。

「ダメージを与えれることは分かった。それに魔力は吸収されていない···」

『だけど、あなたも動けなくなってるわよ♪』

 少しだけ強がってみせたが、ムーアの笑いを噛み殺した声が胸にグサリと突き刺さる。
 結界がしたことは単純で、魔法を無力化するならば、魔力を抜いてやれば良い。しかし、魔法でない相手ならば動きを封じてやれば良い。今は、何とかホイホイに掛かった虫の気持ちが少しだけ分かる気がする。

『ソースイに頼んで、もう1度だけ召喚ハンソを試してみましょうか?』

 コンクリートのように固まった魔力ならば、今度こそ岩属性である召喚ハンソの真価を発揮出来るかもしれない。
 その言葉に反応してなのか、万全を期してマジックポーションを飲んでいるソースがいる。幾ら魔力量が少ないソースイでも、もう1度だけ召喚ハンソを行使するくらいならば問題はない。

「ソースイ、ちょっと待てっ!」

「カショウ様、他に方法はないかと思います」

「魔力が尽きるまで、召喚ハンソを試すつもりじゃないだろな?」

「ご覚悟を!」

 そう言いながら再度黒剣を翳して、召喚ハンソの態勢に入る。魔力が集まり冗談でなく、本気で召喚ハンソを打とうしている。

「待て、ソースイ!」

「召喚ハンソ!」

 ソースは何の躊躇いもなく黒剣を振り下ろす。しかし途中で魔力が飛散してしまうと、中途半端に召喚されたハンソがソースイの前へと落下してくる。

「エトーーーッ、エトッ」

 頭から床へと落下したハンソが起き上がると、ソースイの厳しい顔が見える。そして、キョロキョロと周りを見渡し、ソースイの黒剣が俺を指していることに気付く。

「エトッ、エトッ、エトッ」

 ソースイの思い描いたことを実現する為に、俺へと向かって全力で走り出すが、その瞬間ハンソの召喚は解除されて消えてしまう。

「残念です。やはり契約の影響でしょうか?」

『そうね、召喚ハンソは契約者に害を与えると取られたのね。それならば、カショウに向かって魔法を打つことも難しいかもれないわ』

「ギリギリを狙って、外すと念じれば!」

 再度ソースイが召喚ハンソを行使するが、それでも結果は変わらず、上からハンソが落ちてくる。

『困ったわね、他にはどんな方法があるかしら?』

「両腕を落としても、カショウなら死ぬことはなイワ」

 今度は、両手にポーションを持ったブロッサが現れる。ムーアだけなら冗談半分と思えるが、ブロッサはそんなタイプではなく一気に雰囲気が変わる。

『そうね、少しくらい腕を落とす場所を間違ったとしても、絶対に死ぬことはないわ。カショウと融合している精霊もかなり上位の精霊のはずなんだから』

「それにポーションもあるわ。これなら害を加えることにならないはずヨ」

 そこでブロッサの本気度を思い知らされる。ソースイが勝手にマジックポーションを飲むわけがない。間違いなく、ブロッサがソースイにマジックポーションを渡して飲ませていのだと!

「ブロッサ、もっと他に方法があるかもしれない!安全で確実な方法があるはずだ!」

「時間がないノ。このままの状態が続くとは限らなイワ。体全体が飲み込まれてしまえば、もっと状況が悪化すルワ」

『心配しないで!無くなった腕は、ナルキが代用してくれるわ』

 ブロッサの意見に、ムーアも賛成意見を重ねてくる。このままでは、本当に俺の腕が切り落とされてしまう。

「待ってくれ。こんなのはどうだ?」

 何も言わなければ、このまま事が進んでしまう。思わず口に出してしまったが、スライムの吸収で暴走しそうになった後だけに、俺が思い付く方法は敬遠されるかもしれない。

『時間が無いかもしれないから、1つだけ聞いてあげるわよ』

 ムーアの言葉は、俺の意見を1つは聞くという譲歩でもあるが、1つだけという最終通告でもある。それでも、傾きかけた流れを変えれるかどうかは俺次第。

「結界が魔力を吸収したいなら、好きなだけ魔力を吸収させてやればイイ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天照の桃姫様 ~桃太郎の娘は神仏融合体となり関ヶ原の蒼天に咲く~

羅心
ファンタジー
 鬼ヶ島にて、犬、猿、雉の犠牲もありながら死闘の末に鬼退治を果たした桃太郎。  島中の鬼を全滅させて村に帰った桃太郎は、娘を授かり桃姫と名付けた。  桃姫10歳の誕生日、村で祭りが行われている夜、鬼の軍勢による襲撃が発生した。  首領の名は「温羅巌鬼(うらがんき)」、かつて鬼ヶ島の鬼達を率いた首領「温羅」の息子であった。  人に似た鬼「鬼人(きじん)」の暴虐に対して村は為す術なく、桃太郎も巌鬼との戦いにより、その命を落とした。 「俺と同じ地獄を見てこい」巌鬼にそう言われ、破壊された村にただ一人残された桃姫。 「地獄では生きていけない」桃姫は自刃することを決めるが、その時、銀髪の麗人が現れた。  雪女にも似た妖しい美貌を湛えた彼女は、桃姫の喉元に押し当てられた刃を白い手で握りながらこう言う。 「私の名は雉猿狗(ちえこ)、御館様との約束を果たすため、天界より現世に顕現いたしました」  呆然とする桃姫に雉猿狗は弥勒菩薩のような慈悲深い笑みを浮かべて言った。 「桃姫様。あなた様が強い女性に育つその日まで、私があなた様を必ずや護り抜きます」  かくして桃太郎の娘〈桃姫様〉と三獣の化身〈雉猿狗〉の日ノ本を巡る鬼退治の旅路が幕を開けたのであった。 【第一幕 乱心 Heart of Maddening】  桃太郎による鬼退治の前日譚から始まり、10歳の桃姫が暮らす村が鬼の軍勢に破壊され、お供の雉猿狗と共に村を旅立つ。 【第二幕 斬心 Heart of Slashing】  雉猿狗と共に日ノ本を旅して出会いと別れ、苦難を経験しながら奥州の伊達領に入り、16歳の女武者として成長していく。 【第三幕 覚心 Heart of Awakening】  桃太郎の娘としての使命に目覚めた17歳の桃姫は神仏融合体となり、闇に染まる関ヶ原の戦場を救い清める決戦に身を投じる。 【第四幕 伝心 Heart of Telling】  村を復興する19歳になった桃姫が晴明と道満、そして明智光秀の千年天下を打ち砕くため、仲間と結集して再び剣を手に取る。  ※水曜日のカンパネラ『桃太郎』をシリーズ全体のイメージ音楽として書いております。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...