精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
296 / 329
タイコの湖

296.魔物との契約

しおりを挟む
 勝手に“地”の力をダンジョンとしたが、それはただの憶測でしかない。
 “地”という言葉だけから連想しただけで、地下から溢れ出してきたスライムが関係ないかと言われれば否定出来ない。

『あら、あなたの仕出かした事から比べたら、至極まっとうな考えだと思うけど』

 今まで汚れる事があっても、チュニックは傷付くことはなかった。それだけでなくチュニックに付着した汚れでさえも、気付けば綺麗になってしまう程に優れた性能を持っている。
 しかし今は外に羽織ったローブで隠してこそいるが、中に着ているチュニックは辛うじて服としての体裁を保っている。その損耗度合いは激しく、とてもローブを脱いで見せることは出来ない。そして幾ら俺がチュニックの事を隠そうとしても、影の中に潜む精霊達にとっては一目瞭然で分かってしまう。

「発想は悪くな···」

 途中まで言いかけたが、影の中から強い視線を感じて、最後まで口にすることは出来ない。チュニックは少しずつ修復を始めていて、それが無事に済んだという証拠でもあり救いでもあるが、毎回これが続くとは限らない。

「ああ、分かってる」

今は何を言っても無駄なのは分かっているので、短く最小限の言葉で返事する。しかし、そんな俺の気持ちをムーアは見透かしていくる。

『ホントにそう思っての?2度と魔物を体内に寄生させようなて考えないでね!』

「次に同じことをしようとしても、このチュニックも許してくれないさ」

俺としては複数でブロックされるというつもりだったが、人任せで自覚がないと捉えたムーアの機嫌はさらに悪くなる。

『やっぱり、コアにもキツく躾しておいてもらわないとダメね!チュニック任せなんて、事の重大さを全く理解していないわ』

 とにかくマズい予感がして、慌ててスライムの契約の話に戻す。

「でもな、スライムに名付けして契約しても大丈夫なのか?スライムが凶悪な存在だったらどうする?」

『それは言えば、ハーピーやオークだって一緒よ。凶暴なハーピーの中でも、武闘派のロードとだって契約しているのよ。それでも問題はないでしょ!』

「問題にはなってないけど、今度の相手はスライムだぞ。俺の魔力で暴走したりしないよな?」

 俺の中の凝縮された魔力だったとはいえ、暴走したスライムと契約を結ぶのには多少なりとも不安がある。もし暴走するようなことがあれば俺の体も、軽石みたいにボロボロになった魔石のようになるかもしれない。

『失礼ね!誰かのスライムを寄生させようとしただけの、安直な方法と一緒にしないでもらいたいわ。契約の力は、あなたの中に凝縮された魔力から必要な分だけを取り出せるくらいに強い制約と力を持つのよ』

 俺が話を逸らしたことを理解しているのが、ムーアは契約の力を疑われたとあっては黙っているとこは出来ない。さらにムーアの言葉を援護するように黒翼が大きく広がる。

「その様子だと、契約にラガートも賛成なのか?」

「幾ら暴走したといっても、あの魔力は特殊過ぎる例外であろう。スライムの持っていた力は、我らに引けをとらない。それに契約して力を示しさえすれば、魔物と呼ばれる我らの地位向上にも繋がる」

「魔物の地位向上って?派閥をつくるつもりじゃないだろうな?」

「言葉は正確に使って欲しいぞ。“魔物と呼ばれている”、我らの地位向上だ!」

 魔物と呼ばれているが、ラガートにとってハーピーとスライムは全くの別物の存在になる。勝手に“魔物”という括りで纏められているだけで、自らを魔物と名乗っているわけでもない。それに俺達がハーピーを見て魔物と認識するのと同じで、ハーピーもスライムを見て魔物と認識している。

「ラガートはスライムの事を知っているのか?」

「存在は知っているが、詳しくは分からん。ただ、こんな巨大な力を示す存在と契約出来れば、役に立つかもれしれん」

「そこは、役に立つと断言しないんだな!」

「それは契約者の能力が試される。残念ながら、そればかりは我では力になってやれん」

 元々スライムを体の中に寄生させて魔力を消費しようと考えはラガートも理解しているようで、契約者の能力次第という言葉が耳に痛く響く。

「ムーア、本当にイイのか?魔物と呼ばれる存在を集めることは、精霊にとって悪いことじゃないのか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...