精霊のジレンマ

さんが

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タイコの湖

276.地と天

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「アシスで、“地”と“天”って何処になるんだ?」

 ブレスレットとアンクレットを知り尽くしているナレッジや、イッショの魔力探知スキルでさえも見付けることが出来ないくらいに、サージのメッセージは巧妙に隠されていた。
 それくらいに秘匿されるべき情報なのかもしれないが、肝心の“地”と“天”が何処を場所を指すのかが分からない。

 しかし俺の疑問には誰も答えてくれずに、沈黙だけが流れる。

「ナレッジ、何か知っていることはないのか?精霊サージを知っているのはナレッジだけなんだし、手掛かりになることを覚えてないのか?」

 アシスは神や精霊が造り出した世界。ここで生きるならば、必ず神々や精霊に繋がれる方法や手段があり、どこかに祀られていたり象徴となる場所があるはず。それにアンクレットの中のナレッジが、何らかの鍵を握っているに違いない。

「う~ん、そうだね···。あっ、思い出したよ!」

 ナレッジの声に力がこもったかと思えば、クックックッと思い出し笑いを始める。

「サージ様らしいとしか言えないな。こんな事も忘れそうになってたのか」

「それで、どこを示してるんだ?」

「何のことだかさっぱり分からない!サージ様だからね。きっと雰囲気を大切にしたんだと思うよ。こんな言い方をしたら格好いいとか、様になるにはどうしたイイって拘った感じだね。僕もブレスレットをつくる時に、サージ様の話を理解するのに苦労したもん!」

「えっt、最上位以上の精霊だぞ···。何やってんだ、暇なのか?」

 最上位以上の精霊が、俺を助けてくれようとしているのは分かる。それが魔樹の森の上位精霊キマイラよりも格上の存在で、俺達が全く敵わないと思わせるだけの実力は持っているだろう。しかし、思考回路だけはレベルダウンしてしまう。ナレッジが好意を寄せている精霊ではあるが、思わず本音が漏れてしまう。

『カショウ、ナレッジの言うことは間違ってはないわよ。神々の我が儘から比べたら、まだ“地”と“天”って言葉が出てきただけでもイイほうよ。あいつらの天啓なんて、全くもって理解できないわ!』

「メッセージだけでも喜ぶべきなのか」

『どこの世界の上位者も、所詮はそんなものよ。まともな存在の方が少ないわ』

 神々に捧げる酒を造ってるムーアが、そうだと納得するならば間違ってはいないのかもしれない。そして何故か、ムーアの言葉が妙に胸に響く。下にくる者がしっかりしていれば、大抵のことは上手くまわる。それは、どの世界にも当てはまる真理なのかもしれない。

「じゃあ、上位者じゃない俺達はどうする?ムーアは“地”と“天”に心当たりがあるのか?」

『そうね、“地”はダンジョンの事じゃないかしら?』

 以前にもダンジョンの話は出ていた。アシスにも幾つかの地下迷宮は存在している。その中でも魔物を排出するものだけが、ダンジョンと呼ばれている。

「魔物を排出するダンジョンなら、そこに棲む精霊は少ないよな」

『全く居ないわけではないけれど、数は少なくなるでしょうね』

「それならば、“天”の場所は?」

『そうね、浮島だったり迷いの森の大樹では、天と言うには少し物足りないかしら。やはり天に一番近い場所となれば、ゴセキ山脈を登るしかないでしょう』

 そして廃鉱のラミアのことを思い出す。確か、ラミアはダンジョンだけでなく、ゴセキ山脈の中層にも棲む魔物だったはず。

「今ならゴセキ山脈の中層まで行けるのかもしれない。しかし、ラミアの単体と集団となれば驚異度も変わる。それに上位種が出てこない保証はないか」

 ヒケンの森にある湖は、魔物のブレスの跡に水が溜まったもので、今でも湖に影響を与えている。ゴセキ山脈に登れば、そんな魔物が出てこないとは限らない。

 そして、どちらにも共通するのは魔物の巣窟となる場所であるという事。俺が生き延びる為の力に必要な力が精霊ならば、古の滅びた記憶に必要なのは魔物の持つ力なのかもしれない。

「ダンジョンがある街もあるんだよな」

『ええ、魔石を得るためにダンジョンを中心に街をつくっていることは多いわ。首都であるトーヤの街もそうだったはずね』

「それならば、少なからず管理されているダンジョンしかないだろうな」

 そこにチェンが戻ってくる。

「姐さんっ、旦那っ!大至急で、イスイの街に来て欲しいっす!バッファの隊長が、呼んでやすぜっ!」
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