274 / 329
タイコの湖
274.名のある精霊
しおりを挟む
「えっと、それは···」
饒舌だったナレッジが、急に言い淀んでしまう。
「言いたくなかったら、別に言わなくてもイイんだぞ」
長い時間を生きる精霊には様々な過去がある。ましてや、ずっとアンクレットの中にいたのならば、それなりの理由があるのは分かる。
それに契約の効果は大きく、俺に不利益になることは出来ない。だから、ムーアが何も言わなければ特に気にするとこもない。
「このブレスレットとアンクレットを造ったのは、サージ様なんだよ」
「えっ、これはナレッジが造ったんじゃんなかったのか?」
「違うよ、僕はブレスレットとアンクレットの中に空間を造って、それを維持管理しているだけなんだ。素材や召喚については、サージ様しか分からない」
『“様”って呼ぶのは、名のある精霊ってことなのかしら?』
「そうだよ。サージ様は、僕に名付けしてくれたんだ」
ナレッジの言葉は、ムーアの表情を厳しいものに変えてしまう。
『ナレッジ、今も契約は生きているの?』
「安心して。サージ様がいなくなって、契約は終わってしまったよ。だから、今は僕がどんな名だったかも思い出せない」
いきなりの情報と分からない言葉に、俺は2人の話を理解することが出来ない。ただ、ムーアの表情と口調が緊迫した雰囲気を伝え、ナレッジは悔しさを滲ませている。
「ムーア、名のある精霊って何なんだ?それにナレッジが名付けされていたって、どういう意味なんだ?」
『カショウ、精霊には名がないのは知っているでしょ』
「ああ、知っている。だから、契約する時に名付けするんだろ」
『でもね、アシスには最初から名を与えられている精霊がいるのよ。原初の精霊や、それに近い一部の最上位の精霊達は、最初から名を持っているの』
「誰かの契約精霊って可能性はないのか?」
『それはあり得ないわ。名のない精霊は、他の精霊に名付けは出来ないの。名付け出来るのは、名のある者だけの特権なの』
そこで初めてムーアの顔が厳しくなった理由が分かる。
「契約が重複した場合はどうなる?」
『重複した契約出来ないわ。だけど、原初の精霊や最上位の精霊ならば、どんな力を秘めているか分からない。魔樹の森のキマイラよりも上位の精霊なんだから!』
「なかなか信用してもらえないかもしれないけど、僕の契約は終わってしまっているのは本当だよ」
『だけどサージ様が現れたら、ナレッジはどうするつもりなの?』
「···」
ナレッジは黙ってしまい、ムーアも厳しい態度を崩さない。
「ムーア、今そこまでは聞かなくてもイイんじゃないか?」
「いや、イイんだ。黙っていた僕が悪いんだよ。でもこれは、仮定での話でしかないんだ」
ナレッジはサージに名付けされ、ブレスレットとアンクレットの中に空間をつくった。しかし契約は解消されたが、サージが残したブレスレットとアンクレットの力は変わらずに残されている。
サージの存在が消滅すれば、契約は解消されブレスレットやアンクレットも力を失うはずなのに、今もブレスレットやアンクレットの力は失っていない。
「サージ様の身に何かあったに違いない。だけど、ブレスレットとアンクレットに力が残されているなら、僕はこれを守るんだ。それに、再びサージ様が姿を現してくれた」
『ナレッジ、でもカショウにしか姿を見ていないのよ。それにブレスレットに残された、サージ様の魔力の残滓のようなものかもしれないわ』
「それでもサージ様は、古の滅びた記憶を集める者が現れる事が分かっていたんだよ。それならば僕の使命は、このブレスレットとアンクレットの役目を果たす事だよ」
『ナレッジのする事は変わらないというわけね』
「それに、僕にムーアの契約を破る力はないよ」
恐らく一番の当事者である俺を置いてけぼりにされている、そして勝手に話が進み、落としどころまで見付けてから、ムーアは俺の方を向く。
「今さら何を言えばイイんだ?こっちが聞きたい事は山ほどあるんだけどな!」
『問題なかったならイイわ。それで聞きたい事って何かしら?』
「俺の前に姿を現したのは、少なくとも最上位以上の精霊でイイんだよな。それで、俺に言った事は信用出来るのか?」
「僕が保証するよ。サージ様は騙すような事はしない」
「でもな、あのウインクは真面目には思えないんだよな」
「···それは大丈夫だよ。あれがサージ様の大真面目なんだ」
饒舌だったナレッジが、急に言い淀んでしまう。
「言いたくなかったら、別に言わなくてもイイんだぞ」
長い時間を生きる精霊には様々な過去がある。ましてや、ずっとアンクレットの中にいたのならば、それなりの理由があるのは分かる。
それに契約の効果は大きく、俺に不利益になることは出来ない。だから、ムーアが何も言わなければ特に気にするとこもない。
「このブレスレットとアンクレットを造ったのは、サージ様なんだよ」
「えっ、これはナレッジが造ったんじゃんなかったのか?」
「違うよ、僕はブレスレットとアンクレットの中に空間を造って、それを維持管理しているだけなんだ。素材や召喚については、サージ様しか分からない」
『“様”って呼ぶのは、名のある精霊ってことなのかしら?』
「そうだよ。サージ様は、僕に名付けしてくれたんだ」
ナレッジの言葉は、ムーアの表情を厳しいものに変えてしまう。
『ナレッジ、今も契約は生きているの?』
「安心して。サージ様がいなくなって、契約は終わってしまったよ。だから、今は僕がどんな名だったかも思い出せない」
いきなりの情報と分からない言葉に、俺は2人の話を理解することが出来ない。ただ、ムーアの表情と口調が緊迫した雰囲気を伝え、ナレッジは悔しさを滲ませている。
「ムーア、名のある精霊って何なんだ?それにナレッジが名付けされていたって、どういう意味なんだ?」
『カショウ、精霊には名がないのは知っているでしょ』
「ああ、知っている。だから、契約する時に名付けするんだろ」
『でもね、アシスには最初から名を与えられている精霊がいるのよ。原初の精霊や、それに近い一部の最上位の精霊達は、最初から名を持っているの』
「誰かの契約精霊って可能性はないのか?」
『それはあり得ないわ。名のない精霊は、他の精霊に名付けは出来ないの。名付け出来るのは、名のある者だけの特権なの』
そこで初めてムーアの顔が厳しくなった理由が分かる。
「契約が重複した場合はどうなる?」
『重複した契約出来ないわ。だけど、原初の精霊や最上位の精霊ならば、どんな力を秘めているか分からない。魔樹の森のキマイラよりも上位の精霊なんだから!』
「なかなか信用してもらえないかもしれないけど、僕の契約は終わってしまっているのは本当だよ」
『だけどサージ様が現れたら、ナレッジはどうするつもりなの?』
「···」
ナレッジは黙ってしまい、ムーアも厳しい態度を崩さない。
「ムーア、今そこまでは聞かなくてもイイんじゃないか?」
「いや、イイんだ。黙っていた僕が悪いんだよ。でもこれは、仮定での話でしかないんだ」
ナレッジはサージに名付けされ、ブレスレットとアンクレットの中に空間をつくった。しかし契約は解消されたが、サージが残したブレスレットとアンクレットの力は変わらずに残されている。
サージの存在が消滅すれば、契約は解消されブレスレットやアンクレットも力を失うはずなのに、今もブレスレットやアンクレットの力は失っていない。
「サージ様の身に何かあったに違いない。だけど、ブレスレットとアンクレットに力が残されているなら、僕はこれを守るんだ。それに、再びサージ様が姿を現してくれた」
『ナレッジ、でもカショウにしか姿を見ていないのよ。それにブレスレットに残された、サージ様の魔力の残滓のようなものかもしれないわ』
「それでもサージ様は、古の滅びた記憶を集める者が現れる事が分かっていたんだよ。それならば僕の使命は、このブレスレットとアンクレットの役目を果たす事だよ」
『ナレッジのする事は変わらないというわけね』
「それに、僕にムーアの契約を破る力はないよ」
恐らく一番の当事者である俺を置いてけぼりにされている、そして勝手に話が進み、落としどころまで見付けてから、ムーアは俺の方を向く。
「今さら何を言えばイイんだ?こっちが聞きたい事は山ほどあるんだけどな!」
『問題なかったならイイわ。それで聞きたい事って何かしら?』
「俺の前に姿を現したのは、少なくとも最上位以上の精霊でイイんだよな。それで、俺に言った事は信用出来るのか?」
「僕が保証するよ。サージ様は騙すような事はしない」
「でもな、あのウインクは真面目には思えないんだよな」
「···それは大丈夫だよ。あれがサージ様の大真面目なんだ」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
騎士団に入る事になりました
セイラ
恋愛
私の名前はレイラ・エバーガーデン。前世の記憶を持っている。生まれは子爵家で、家庭を支える為に騎士団に入る事に。
小さい頃から、師匠に鍛えられていたレイラ。マイペースで無自覚な性格だが、悪戯を企む時も。
しかし、周りから溺愛される少女の物語。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。
ヤンデレ彼女は蘇生持ち
僧侶A
恋愛
ヤンデレは暴走するとすぐに相手の体を刺してしまう、何とも大変な恋人の事である。
そんな女性と俺は知らずにお付き合いすることになった。
でも、彼女は蘇生が使える。だからいくら刺されても生き返らせてくれます。
やったね!ヤンデレと付き合っても生存ルート確定。
つまり自分の事をひたすら愛してくれるただの良い女性です!
完結まで毎日14時に更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる