精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
253 / 329
オヤの街のハーフリングとオーク

253.夫婦の契り

しおりを挟む
 上位スキルが暴走しないようにモニタリングするのは対症療法でしかなく、原因の解決にはならない。何が原因でスキルの制御を失い暴走したのか、それを突き止めなければ同じことを繰り返すというのは理解出来る。

「だけど夫婦の契りって何なんだ?分かち合う事でスキル暴走を止めれるのか?」

『夫婦の契りを結べれば、スキル暴走を止めれるとは言わないけど、原因が分かる可能性は十分にあるわよ』

「でも急に、夫婦の契りと言われてもな···」

 アシスとういう世界の常識が分からない。夫婦や婚姻関係とは、どういう意味合いや効力があるかも知らない。

『そうね夫婦の契りは、契約の種類の名前だと思って。今はコアとは主従関係なんだから、それが対等な関係へと変わるのよ。あなたにとっても悪い話じゃないと思うわ』

 俺と精霊やコア達とは主従関係になる。俺が魔力やスキルを与える代わりに見返りが発生する。あくまでも俺が与える側になり、それが逆転する事はない。特に精霊や、名付けされたソースイとの関係性は絶対といっていい程に強い関係性となる。

 それが夫婦の契りとなると大きく変わる。俺が一方的に与える関係から、お互いが与え合う対等な関係へになる。元の世界での夫婦であったり婚姻関係とは全く違う、契約の種類の呼び名。
 その契約が成立すれば、喜びであろうが哀しみであろうが互いの感情を共有し、それに触れる事さえ可能になる。俺がなぜ暴走したのか、覚えていない記憶や深層心理にも触れれば、それはスキル暴走を防ぐ手掛かりなる。

「それは俺のスキル暴走を、コアにも共有させるって事だよな?」

『簡単に言えば、そういう事ね。あなたが制御出来なかった部分を、コアが受け取ってくれるだけでも、スキル暴走はし難くなる。それに原因を探るには、あなた自身の記憶に触れる必要があるわ』

「それは、一方的すぎじゃないか。そんな契約は、俺にだけメリットがあって、コアにとってはデメリットでしかない」

『そうかしら、エルフ族の抱えてきた秘密や闇も深いわよ。コアの知っているだけでも何百年もの秘密があるわ」

 そう言われれば、たかだか数十年しか生きていない俺と、数百年を生きているコアでは比べ物にならない。

『もちろん契約なのだから、お互いに対等でなければならないわ。それに契約のことは分かってるわよね、コア』

「はい、ムーア様。それなりの覚悟があります。それに夫婦の契りは、成立しない可能性の方が高い事も十分承知しております」

『それじゃあ聞くわ。まず夫婦の契りを交わすためには、コアは何を差し出すのかしら?』

「私の寿命ではどうでしょうか?」

『カショウの膨大な魔力に対して、長寿のエルフ族の寿命なら問題ないわね』

「何言ってるんだ、そんなのダメだろう。俺の押し付けられて持て余した魔力と、コアの寿命なんて釣り合うわけがない!」

「ご主人様、そんな事はありません。千年以上の寿命がある長寿のエルフ族にとって、数年程度の寿命は誤差の範囲内です。それに寿命を対価として精霊を召喚するのも、エルフ族としては一般的な方法ですよ」

 それならば、ムーアの言ったそれなりの覚悟とは何の事なのだろうか?

「それなりの覚悟って?」

『そんな目で見ないで。夫婦の契りで一番難しいのは、あなた達の相性よ!』

「俺達の相性?」

「はい、私達の相性が合わなければ、契約の契りは結べませんの···」

『だから、夫婦の契りって言われてるのよ』

 今さらながらに、覚悟の意味を知ってしまう。相性が悪いとなれば、今後の関係性も変わってしまう可能性がある。

 もちろん夫婦の契りには他の精霊達にも異論はないようで、半ば強制的に契約が行われる。夫婦の契りといっても格式ばった儀式はなく、ムーアが簡単な呪文を唱えると僅かではあるが俺とコアの魔力が抜き取られ、それが1つに混ぜ合わせられる。

 強ばっていたコアの顔がほころび、食い入るように左手の薬指に現れた指輪を見るつめている。

『コア、良かったわね。契約成立よ』

 そして、俺の指にも指輪が現れている。コアと相性が良いと言われて、嫌な気分はしない。しかし、周りの精霊達の目が気になる。

「コア、良かったね」

 クオンが、コアに声を掛ける。

「ありがとうございます。クオン様」

「ダメよ。もうカショウと対等な関係なのだから、様は付けないで。従属される関係も、ご主人様と呼ぶのも卒業ね♪」 

「えっ、そんな···」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界転移したら……。~色々あって、エルフに転生してしまった~

伊織愁
恋愛
前世で勇者召喚に巻き込まれ、友人たち共に異世界転移を果たした小鳥遊優斗。 友人たちと従魔と力を合わせ、魔王候補を倒し、魔王の覚醒を防いだ。 寿命を全うし、人生を終えた優斗だったが、前世で知らずに転生の薬を飲まされていて、エルフとして転生してしまった。 再び、主さまに呼ばれ、優斗の新たな人生が始まる。 『【改訂版】異世界転移したら……。』『【本編完結】異世界転移したら……。~瑠衣はこういう奴である~』を宜しければ、参照してくださいませ。

★★★★★★六つ星ユニークスキル【ダウジング】は伝説級~雑魚だと追放されたので、もふもふ白虎と自由気ままなスローライフ~

いぬがみとうま
ファンタジー
■あらすじ 主人公ライカは、この国始まって以来、史上初の六つ星ユニークスキル『ダウジング』を授かる。しかし、使い方がわからずに、西の地を治める大貴族である、ホワイトス公爵家を追放されてしまう。 森で魔獣に襲われている猫を助けた主人公。実は、この猫はこの地を守護する伝説の四聖獣『白虎』であった。 この白虎にダウジングの使い方を教わり、自由気ままなスローライフを求めてる。しかし、待ち構えていたのは、度重なり降りかかる災難。それは、ライカがダウジングで無双していく日々の始まりであった。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

処理中です...