精霊のジレンマ

さんが

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オヤの街のハーフリングとオーク

231.オヤの街の領主

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湿原からの異臭に解放され、差し迫ったオークの驚異も感じられないが、ムーアとウィプス達は外に出たままの状態でいる。
ムーアの意見を受け入れて、ハーフリングを相手に俺達の有用性を示すには手っ取り早い。召喚している状態を維持するだけでも魔力を消費するのだから、何の役割もなく精霊を召喚し続けることは普通ならあり得ない。

そして見えてくるハーフリングは、姿こそ小さいが体型は小太りで頭頂部まで禿げ上がっている。もう少し痩せていて俊敏な感じを想像していたが全くの正反対で、ゆっくり近付いてくる姿は全力疾走なのかもしれない。

「ハァ、ハァ、ハァ、黒い靄がかかったので来てみたら、冒険者の方ですか?オヤの街に、なっなっ何か御用でも?」

そして、ハーフリングは必死に話しかけくる。この必死に歪む顔もハーフリングの計算なのだろうか。

「オークに興味があって見に来ただけで、特にオヤの街に用があるわけじゃない。俺達はすぐに去るから気にしないでくれ」

「ハァ、ハァ、待って下さい」

そう言ったきり、ハーフリングはしばらく喋れなくなってしまう。頭からは大粒の汗が流れ落ちて、着ている服も体にへばりつき色が変わっている。演技では出来ないように思えるが、その中でもチラチラとウィプスやムーアを品定めするように見ている。

「迷いの森を通って来られたのでしょう。かなりの実力がないと出来ない事ですよ。それこそ、興味本位だけでは辿り着くとこは出来ません」

『初めて会うハーフリングに、そんな目で見られるのは気に入らないわね』

「そんなつもりは無かったのですが、お許しください。私はオヤの街の領主ケイヌと申します」

「領主が、こんな所に1人で現れるのか?見た所、護衛の姿も見えないようだけど」

「領主といっても、偉いわけじゃないですよ。領主は有力な商人が持ち回りでする1年交替の当番みたいなものです。何の権限もあるわけではないのに、ただ自分の商売にかける時間を制限される。そこに輪をかけて人権費をかけて護衛を雇うような馬鹿はいません」

「そんな事で1人で様子を見にきたというのか?今だって、何も起こらないという保証はないだろ」

「上手く負傷すれば、領主の任期はそこで終わりとなります。それで納得頂けますでしょうか?」

『領主を嫌々そうにしている割には、その観察するような視線は何とかならないのかしら。言ってる事とやってる事が違うわよ』

「いやいや、本当にそんなつもりはないのです。雰囲気的にもかなり力のある精霊様に見受けられましたので、ついつい見とれてしまいました」

ムーアの不機嫌さを隠さないあからさまな態度に、ケイヌは動揺した素振りを見せる。しかし、ケイヌから聞こえる感情は冷静そのもので全く変化がない。

『そう、見とれてたなら許してあげるわ。私は酒と契約の精霊ムーアよ。そして、こっちが私の契約者であるカショウ』

『ほう、酒と契約の精霊様ですか。話にしか聞いた事はありませんな。そんな姿を拝見出来るとは、私の幸運も捨てたもんじゃありませんな』

そして、ケイヌの視線がムーアから俺へと移るが、正確にはウィプス達を見ている。

「もしかして、これはウィル・オ・ウィプスですかな?」

『そうよ、ウィル・オ・ウィプスよ。何か問題でもあるかしら?』

「いえいえ、そうじゃありません。私どもは地下に街を造っておりますので、灯りの役割としてウィル・オ・ウィプスも居るのですよ。しかし、姿形は全く違いますので驚きました」

そこで始めてケイヌは、俺の存在を意識する。中位精霊と契約出来て、ウィル・オ・ウィプスを進化させる事の出来る人物に興味が湧く。
確かに闇属性のオニ族、学者肌のドワーフ、トンボの蟲人族の中にヒト族が混ざれば目立たない存在になる。しかし、ここで始めて迷い人の指輪に気付く。

「ほう、迷い人でしたか。それはそれは珍しいですな。でも、迷い人ならば納得出来ますな」

にこやかに微笑む顔とは裏腹に、その目の奥は鋭く厳しい。

『一方的に、詮索するつもりかしら?あなたは草原の地下にある街の領主であって、オークの棲息する草原を治めているわけではないでしょ。それに私達はエルフ族の依頼を受けて、フタガの岩峰から逃げ出したハーピーの調査をしているのよ。領主であるあなたなら、ハーピーの事は聞いているでしょう』
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