精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
196 / 329
再構築

196.アモンの実

しおりを挟む
俺に向けられる視線の先を、リッターが照らすと赤い目が浮かび上がる。しかし目は2つではなく、顔中に幾つもの目が付いている。

ナルキから引き剥がしたトレントは完全にレーシーに融合され、合一の大樹で会った時とは明らかに違う進化した姿となっている。

しかし、背中から生えた20本の腕は相変わらずで、少し残念な姿は変わっていない。地上では、背中から生えた腕がバランスを崩し、ひっくり返りクモのような姿になる事で安定を求めていた。しかし顔は逆さになり、腹は剥き出しとなっている。明らかに弱点をさらしている格好は、とても良い姿とはいえない。
それが残念な姿の理由だが、今は木々の間に張り巡らせた蔦に捕まり、空中に浮かんでいるように見える。

「見~つけた」

ニタニタと笑いながら、獰猛な笑みを見せるレーシー。

「人違いじゃないか?俺はそんな顔は見たことがないんだけどな」

「おやおや、忘れたとは言わせないぞ。こっちは、しっかりと覚えてるんだよっ!」

周囲の木々や地中から蔦が伸びて、俺達を閉じ込めるようにして囲み始める。そして、蔦にはクルミのような実が次々と現れ始める。

「俺がやられたように、時間をかけてゆっくりと痛めつけてやる。簡単に死なせはしないから、安心して楽しんでくれ!」

そして地面以外の全方向からクルミのような実が飛んでくるが、時間をかけて痛めつけると宣言した通り、一斉にではなく前後左右と方向を変えながら2·3発ずつしか飛んでこない。

「踊れ、踊れ、踊れ」

興奮気味のレーシーの叫び声が森の中に響く。

パァンッ、バシッ、バンッ

しかしレーシーが放つ実は、かなりの余裕を持って、ウィプス達のサンダーボルト、ダークの紫紺の刀、ナルキのマジックソードで打ち落とされる。

最初こそ、ウィプス、ダーク、ナルキと均等だった役割が徐々にウィプス達が主となり始める。特にリッチ戦で出番のなかったウィプス達の気合いは相当なもので、存在を主張しているようにも感じる。

ナルキは最初こそウィプス達が落とせなかった実が飛んで来る事を想定して、マジックソードを構えていた。しかし、それがそれから徐々に素振りへと変わり、今は全く関係ないスイングを確認するような動作になっている。

そして全くする事のない状況に暇をもてあましたようで、飛んでくる実の解説を始める。

「あれはアモンの実っていうんだよ。ボクのダミアの実と似ているけど全くの別物。ダミアの実の方が硬くて美味しい。アモンの実は、食べれない事はないけど食べない事をお勧めするよ」

「ダミアの実って、食べれたのか?」

「そりゃモチロンだよ。ボク達と動物は共存関係にあるんだ。不味かったら厳しい森の中の生存競争を、生き抜いていけないよ!」

「でも、ダミアの実は硬いんだろ!どうやって食べるんだ?」

「う~ん···。だから、アシスではレア種で···」

バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ

アモンの実の攻撃は次第に激しさを増しているが、小気味良い音が迎撃に成功している事を教えてくれる。

アモンの実は、予備動作もなく急に弾かれたように放たれる。どれが放たれるかを目視で見分けることは不可能に近い。
しかし、イッショの魔力探知スキルは、僅かではあるがアモンの実に魔力が流れるのを見つける。恐らくは風魔法のような一種で、空気を圧縮する事でアモンの実を弾いているのだろう。
タネが分かってしまえば後の対処は簡単で、イッショの指示に従ってアモンの実を打ち落とすだけの簡単な作業になる。だから、俺も特別にする事はない。

そんな余裕を見せる俺達に、遂にレーシーの怒りが頂点に達する。

「調子に乗って、くっちゃべってんじゃねーぞ。吠え面かかせてやる!」

「手加減した攻撃を仕掛けてきて、そう言われても困るんだがな。こっちからも、やり返せば良かったのか?」

「口の達者な奴だ。それなら本気を見せてやる!」

「ルーク、メーン、カンテ、聞いたな。加減しなくて本気を出してもイイぞ」

俺達を取り囲むアモンの実に一斉に魔力が流れ始める。時間をかけて痛めつける事を諦め、一斉攻撃で殲滅させる事を選んだみたいだが、やっと出番が回ってきたソースイやミュラー、ナルキの士気は上がる。

「そうだったな、皆の分も残してやってくれ」

「ほざけ、腹いっぱい食わしてやるぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...