精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
192 / 329
再構築

192.カショウ様とチェン様

しおりを挟む
俺の影の中が、どんな世界なのかは分からない。精霊達に聞いても、誰も影の中がどうなっているかは教えてくれない。教えてくれないという事は、あまり良い環境ではないような気がする。

影の中なのだから、何となく薄暗い洞窟の中を想像してしまう。大量のアイテムが保管してあったり、ブロッサとガーラが影の中で何かを開発しているのだから、真っ暗闇ではなく少しは明かりがあるか薄暗い環境なのだと思う。

影の精霊であるクオンや、陰の精霊であるフォリーとマトリは何の問題ない。ブロッサも長い間を地中で過ごしてきたのだから、暗い中の生活は問題ないのだろう。コミットはワームに飲み込まれていたのだから、それから比べると影の中は快適かもしれない。

しかし、そうでない者が長時間を暗闇の中で過ごすのは、かなりのストレスになるはず。そしてクオンが、コアピタンスを影の中に連れていったのは、まずこの厳しい環境を教えるためなのだろう。師たるクオンは常に影の中にいるのだから一緒にいる為には、まずこの厳しい環境に耐え抜かなければならない。

しかし、友達を家に誘うかのような軽い感じでコアピタンスを影の中に連れていった。意外とクオンはスパルタなのかもしれない。それでも、コアピタンスの表情は変わらず笑顔のままで契約を受け入れた。

「ご主人様、ご主人様、ごーしゅーじーんーさーまっ!」

答えのない思考のスパイラルを、“ご主人様”と呼ぶ声が現実へと引き戻す。

「ご主人様って、誰だ?」

「私の目の前には、ご主人様しかいませんわ。だって皆、そう呼んでますもの」

クオンとブロッサが、しまったと気まずそうな顔をしている。隠れて俺の事を“ご主人様”と呼んでいるような気はしていたが、これで確信に変わる。後でしっかりと指導しておかないと、今後に悪影響が出る!

「コアピタンス、その呼び方は良くない。もしエルフ達が、エルフ族族長に俺の事をご主人様と呼ばせていると勘違いしたら、きっと大変な事になる。だから、ご主人様は絶対にダメだ!」

「えっ、でもここに居る私はもう族長ではありません。族長はあそこで倒れています。それに何とお呼びすれば宜しいのですか?ご主人様?」

ムーアとチェンは、ニタニタと笑っている。チェンに至っては、笑みを隠そうともしていない。

「コアピタンス、俺の事は“カショウ”って呼び捨てでイイんだぞ。精霊達も同じで、皆対等な関係なんだ」

「呼び捨てなんて出来ないです。私はご主人様の扶養となる身なのですから。それに私の事は“コア”とお呼び下さい」

契約を結ぶ事で、俺と融合した精霊の力がコアピタンスに影響を与え、食事や睡眠が不要となる。しかし、それを扶養と呼ぶのは少し違う気がする。

「分かった“コア”と呼ぶから、その代わりに“カショウ”と呼んでくれ」

「それは···カショウ様ではダメですか?それがダメなら、ムーアさんのように“あなた”とお呼びします」

『「クックックッ」』

ムーアとチェンが、何とか笑い声を堪えようとしているが、堪えきれない笑い声が漏れている。ムーアとコアピタンスの使う“あなた”のニュアンスが、明らかに違いすぎる。

「分かった、“コア”と呼ぶから“カショウ様”にしよう」

「はい、人の要る場所では“カショウ様”とお呼びしますね、ご主人様、それともあなた?」

『「アッハッハッ」』

遂にムーアとチェンが我慢の限界を超えて、大声を出して笑い始める。俺の視線を感じた、ムーアは影の中に消えるとチェンだけが取り残される。

「あんまり大きな声を出すと、爺エルフが目を覚ますぞ!」

「ヒッーヒッーヒッー」

ムーアに逃げられて取り残された事で、チェンがしまったと気付く。必死に笑いを堪えようとするが、1度崩壊したものはそう簡単には回復しない。

「コア、後になって悪いんだが大切な話があるんだ」

「なんでしょうか、カショウ様♪」

「ソースイとホーソンは俺の従者なんだが、チェンだけは違うんだ」

「フタガの領主様ですよね?それは知っています」

「そう、だけどそれだけじゃないんだ。俺達は、完全にチェンの庇護下にあるんだ。自由に行動しているように見えて、全てチェンの許可を貰っている」

「えっ、そんなに凄い方だったのですか?」

「普段は軽く見られたいから呼び捨てにして呼んでいるが、誰もいない所では“チェン様”と呼んでいる」

「チェン様は、そうだったのですか。それは私もエルフ族も見抜く事が出来ませんでした」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...