精霊のジレンマ

さんが

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迷いの森の精霊

119.ユニコーン対バイコーン

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バイコーンの移動する速さは変わらないが少しずつ距離が縮まり、クオンの探知スキルも再びバイコーンを捉える。ユニコーンより身体能力が上がったバイコーンでも、俺達の方が移動速度は速い事になる。
そして移動していたバイコーンの動きが止まると同時に、クオンが複数の気配を感じとる。

“バイコーン、止まった。何か居る”

この縄張りの中にいる存在となれば、もちろんユニコーンしか居ない。それにガーラの事を後回しというなら、探している本命は元の仲間だったユニコーンだろう。

“始まった、戦ってる”

そして、ぶつかり合うような音を探知したクオンが、戦いが始まった事を教えてくれる。
バイコーンとなった事で身体能力が上がったかもしれないが、薬の精霊の力としての能力は失っている。しかも相手は複数のユニコーンで回復しながら戦われれば、厄介な相手になるは間違いない。時間のかかる持久戦になるかと思ったが、戦いの音は次第に小さくなり始める。

本当ならバレないように少しずつ近付いてきて様子を伺うところだが消えてしまいそうな音に、そんな余裕のある行動は取れない。

追い付いた時に、立っていたのはバイコーンとユニコーンが1体のみで、他の3体のユニコーンは横たわっている。
存在が消滅してしまうまでの状態ではないが、傷だらけで3体とも角が折られている。

「ブロッサ、頼む」

ブロッサは黙って何も言わずに、ユニコーンに近付きポーションで回復させる。傲慢で威圧的だったユニコーンにも、加減する事なく黙々と作業する。
しかし折れた角や欠損した部位を回復させる事は出来ない。

「コレハ貰ッテク」

ブロッサには辛いことをさせたのかと思ったが、最後に折れた角を回収した時は笑いを噛み殺していた。
この森に入った時も、ブロッサは色々な薬草やキノコを回収していたが、ユニコーンの角はその中でも最高峰のアイテムで間違いない。
ブロッサの収集癖の前では、過去に嫌な想いがあるユニコーンもレアアイテムを手に入れる道具として見ているのかもしれない。
もしかしたら、レアアイテムを狙ってユニコーンの近くに居たのかもしれない・・・。


そして、目の前で行われているのはバイコーンと残ったユニコーンの一騎討ち。

「邪魔をするな!」

ユニコーンの中でもリーダーとなる存在のプライドと仲間をやられた事への怒りが、俺達が近寄るのを拒絶する。
ユニコーンの1本角とバイコーンの2本角がぶつかり合い、甲高い音と共に周囲に衝撃が走る。しかし単純に1本と2本はどちらが強いかという問題になるのかもしれない。

ユニコーンは回復魔法だけでなく、十分な身体能力と魔法耐久がある反面、攻撃魔法は得意ではない。軽んじているわけではないが、不得手な攻撃魔法を使う必要は無かった。
進化する際にも、不得手な攻撃魔法ではなく身体能力を上げる事を願い、翼を手に入れた。それは得意能力を伸ばす事を傲りとは言えない。

しかし、同等以上の身体能力があるバイコーン相手には分が悪い。本来なら回復魔法を使いながら持久戦に持ち込むが、相手は元ユニコーンのバイコーンになる。角が無くなれば、回復魔法が弱体化する事を知って、集中して狙ってくる。

何度かの角同士のぶつかり合いで、微かに音が変わり始める。力を分散させて受ける2本角に対して、集中して受ける1本角。俺では分からない違いでも、クオンの聴覚は誤魔化せない。

“そろそろ限界”

クオンの判断でマジックシールドを、ユニコーンとバイコーンの間に割り込ませる。

“邪魔をするな!”と言っていた割には、邪魔をした時には何も言ってこない。劣勢で角が折られる寸前な事は分かっていたのだろう。距離を取り直して、再び攻撃する機会を伺っている。

『酔眼朦朧』

予期せぬ攻撃に、ユニコーンは立っている事が出来ずに伏せてしまう。

『あなたの方が邪魔なのよ!残念だけど、あなたと私達では実力が違うから、少し大人しくしててくれる』

「なあ、後回しじゃないとダメか?」

俺がバイコーンに投げ掛けると、少し後退りする。

『あら、あんな事言っておいて逃げようとしてるの?』

「逃がさない」

ガーラも何かを感じ取っているようで、背中にソースイとホーソンを乗せたままバイコーンを囲むように包囲する。ウィプスやブロッサにチェンも包囲に加わり、一瞬で逃げ場所をフサグ。
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