精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
90 / 329
フタガの石峰のハーピー

90.霧の街道

しおりを挟む
崖から降りると、ソースイとホーソンはしょんぼりしている。ワームが動き出した時の振動で、岩峰の頂上で何かが起こった事を察知したようだ。そして振動が収まり俺達が降りてきた事で、その何かが終わった事を知る。

結界やワームの話をすると悔しがる2人。グラビティが活躍出来たと悔しがるソースイに、未知の技術を見れなかった事を残念がるホーソン。

「結界は1つじゃなくて、他にも幾つかあるらしいぞ」

「「本当ですかっ!」」

異口同音で、俄然やる気を取り戻す2だが、ワームと対峙した俺の事を心配している様子はない。心配し過ぎて、束縛や監視されるのは辛いが、少し複雑な気持ちではある。

その点は精霊達も同じで、好奇心だったり、ぼっちが嫌で仲間になる精霊も多い。主従、支配、従属と様々な関係性があるのだろうが、どれもが俺らしくない。より関係性が深くなるであれば、今はこれで問題ないとは思う。

「イスイの街に行った後だからな!」

「そうと決まれば、イスイに急ぎましょう!」

俄然やる気を出すホーソンに、黙って先頭を歩き出すソースイ。

最初はハーピーの襲撃に備える為の協力を得るの目的だったが、狙われてのはイスイの街である可能性が高い。そうなると、残されている時間は少ない。
タカオの街の襲撃を成功と判断すれば、直ぐにイスイの街を襲撃するかもしれない。
それにイスイの街から隊商や旅人が来ないという事は、間違いなくハーピー達の活動が活発になっている証拠になる。何事もなく、岩峰地帯を抜けれるとは思わない。

そんな事を考えていると、クオンがハーピーの羽ばたく音を探知する。

“ハーピー、多い”

「僕も、確認したよ。近付いてくる黒い塊はハーピーの集団だね」

ナレッジがシナジーの視界を、俺の頭の中で展開する。
今まで霧に覆われていた岩峰の頂が露になり、この事にハーピー達も気付く。もう少し近付いてくれば、結界が無くなりワームが倒された事も分かるだろう。

「急ごう!結界が壊された事を知れば、ハーピー達の警戒は厳しくなる」

俺の前に霧が集まり、ケモミミエルフが現れる。

「ごめんなさい。あなた達の足を引っ張るつもりはなかったんだけど迷惑をかけたみたいね」

「俺達に警戒して、イスイの街への襲撃が遅れるなら、その方が良かったよ」

「ありがとう。嘘でもそう言ってくれるなら助かるわ」

影からムーアが現れる。いつもはブレスレットの中だったから違和感を感じるが、精霊は召喚したままの方が魔力を消費してくれる。それも考慮したムーアの判断なのだろう。

『この人はね、効率とかムリ・ムダ・ムラとか言って、こだわりが多いのよ。だけど自分だけの事なら、タカオの街だけじゃなくイスイの街なんて関係ないわ。精霊を探して、さっさと次に行けばイイのよ。だけど、それが出来ない性格なのよ』

「お人好しなのね」

『少し優柔不断で悩みすぎるから、そこは尻を叩かないとダメよ』

「そういう事は、俺がいない所でする話じゃないかな?」

『あら、聞かれた方が効率が良いでしょ。1回でまとめて済ませれるんだから♪』

「分かったわ、私もそうすれば良いのね!」

“ハーピー、来る”

クオンが注意を促し、シナジーは霧へと戻り姿を消す。何だかムーアのような存在が増えたような気がしたが、今はそこまでは分からない。

「ジェネラルがいるよ!」

クオンの探知は、個体の重量や音質の違いで相手を判断する。その点、ナレッジは映像で識別名する為に、視認出来ればクオンの探知より判断が速い。

「シナジー、ハーピー達は霧の中には入ってこないんだよな」

「ええ、近寄ってもこないわ。どうするの?」

「予定通り、ハーピー達には結界が壊された事に気付いてもらう。その間に、なるべく先に進もう」

そして、ハーピー達は予定通り壊された結界に気付く。ハーピージェネラルが1人先行して飛んでいく。行きより帰りの方が明らかに速く飛んでいる事が、重大さを表す証拠になる。

少しは足止めになってくれる事を期待して岩峰地帯を進む。街道は全てが霧に覆われているわけではなく、所々で霧が晴れている。また霧もずっと一定の場所に留まっておらず、場所を移動したり高度を上げたり下げたりしているが、それは霧の精霊達の仕業でもある。
俺達が移動するのに合わせて、不自然がないように霧の位置や場所を変えてくれる。

そして岩峰地帯の終わりが見えた時に、再びクオンが気配を探知する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...