精霊のジレンマ

オオザの崖のゴブリン

44.崖の上のハンソ

「何やってんだ？」

「えっと、えっと、えっと･･･」

「落ちないように岩を押さえてるのか？」

「うんっ、押さえる！」

「頑張れっ！」

引き換えそうとする俺を、ムーアが止める。

『ちょっと可哀想よ。もっと相手してあげなさいよ！』

「頑張ってる奴を邪魔しちゃダメだよ。しっかり応援してやったし、これ以上はないだろ！」

『これが、セイレーンだったら同じ事をするの？』

「助けて欲しいって言われれば助けるよ」

ムーアがゴーレムの横に行く。

『あんた、助けて欲しいの？』

「んとっ、、疲れた、助けて」

ムーアが俺の方に向き直って、ニヤッと笑う。

『助けて欲しいって♪』

「･･･････」

『た･す･け･て欲しいって♪』

「助けるだけだぞ、助けるだけ！」

大切な事なので、しっかりと２回繰り返し、ゴーレムもどきに近づく。

「なあ、手を放してみな」

「えっと、えっと、えっと、危ない」

「ソースイ、こっちに来て岩を持ってくれ！」

あまり表情を見せないが、若干何で？という顔をしている。

格好だけで大丈夫だからと説明して、岩を押さえさせる。

「これで大丈夫だから、放してみろ！」

不安そうな顔。それでも持つ事に疲れたいうよりは、嫌になったのだろう。

パッと手を放す。

俺がソースイに合図を送ると、ソースイも手を放す。

「ダメーッ･･･あれっ？」

「どうした？」

「えっと、えっと、えっと」

「落ちないだろ」

「うん」

しっかりと仕事はやったし、問題はないはず。踵を返して二段目の崖に向かう。

『見てるわよ、あなたの事。どうするの？』

振り返ると、じっとこっちを見ている。両手は胸の前に出して、右手で左手の人差し指を摘まんでいる。

「俺に責任はないだろ。精霊じゃなくても、自立してるなら歓迎するけど、あれは無理だろ。面倒を見るだけの余裕はないぞ！」

『それなら、召還しなければ大丈夫でしょ。選択肢は多い方がイイわ。盾役にもなれるでしょ！』

「後で他の精霊達から苦情が出ても知らないからな！その時は、責任は取ってもらうからな」

再度ゴーレムもどきの前に行く。

「どんなスキルがあるんだ？何が出来る？」

「んとっ、色んな岩出せる」

「ストーンバレットが使えるのか？」

「エトッ、エトッ、エトッ」

ゴーレムもどきの両手から、３０cmくらいの岩がモコモコっと出てくる。

これは凄いかもしれない。弾丸じゃなくて砲弾レベル。
しかしゴーレムもどきは、これ以上動かない。

「これで終わり？この岩は飛ばないのか？」

すると、おもむろに岩を持ち首ともに当てる。そして、手で押し出すように投げる。

砲弾じゃなくて砲丸か･･･。まあ、距離は凄いよ。１００mは飛んでるよ、世界記録だよ！

「そうか分かった、お前の名前はハンソだ」

その瞬間に、ゴーレムもどきがブレスレットに吸い込まれる。そして、リズとリタのうなされる声が聞こえたような気がする。

『嫌ならリズとリタも早く復帰してくるわよ』


とりあえずハンソの問題は置いておく。

崖の上からゴブリン達の様子が見える。
巨石の下には洞窟の入口があり、洞窟の入口を護るようにゴブリンジェネラルが控える。
そしてゴブリンジェネラルが率いる１００体を囲むように、気の柵や堀が作られている。

正確には作っている最中で、作っているのはゴブリンキャプテンの群れ。ゴブリンジェネラルの群れは指示を出すだけで、全く動く気配が見られない。

「この岩が落ちたら、面白いよな！」

『偉そうなゴブリンジェネラルだから、キャプテンは喜ぶわね』

「それじゃ、期待に応えてやろうか♪」

ソースイを呼んで、ハンソを召還する。

「グラビティ」

巨石の崖から飛び出した方に、重力操作を行う。
巨石の片側だけに少しずつ重量が加わり、少しずつ巨石のバランスが崩れ始める。
少しずつ巨石のが浮き上がり、地面との間に隙間が出来る。

「エト、エト、エト」

ハンソに、巨石と地面に出来た隙間に楔を打ち込ませる。

次第に巨石の重心が崖の外に移動していく。
僅かではあるが石が砕け、崖の下へと落下していく。

ゴブリンジェネラルは、落下してきた石で何かの異変に気付くが、何かは分からない。

今まで微動だにする事のなかった巨石のが動くとは思わない。

そして完全にバランスを崩した巨石のは崖を滑り落ちる。

そして巨石の無くなった空間に、今度はハンソが岩を投げ込む。

「エトッ、エトッ、エトッ」