精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
20 / 329
ヒケンの森のオニ族

20.変化と小さくて大きな一歩

しおりを挟む
オニ族の最後尾に追い付く。

追撃戦になる事も想定していたけど、ゴブリン達の追撃は無かった。ここでもクオン様々。
後方を気にする必要は無い安心感は、精神的負担を無くし移動速度を上げてくれる。

殿のソーイが気が付いて近付いてくる。俺の目の前に来ると、

「カショウ様、ご無事で!」

「別にお前の主君でもないだろ。俺の都合で行動しただけで、お前らには関係ない」

「しかし“オニ達の援護にまわる”と、ハッキリ仰ってましたので」

「気のせいじゃないか?俺は、名無しの盾オニに助けられたけどな」

「それは・・・」

「そんな事より、ゴブリン達は追ってこない。湖に留まったままだけど、どこまで進むつもりだ?ちょっと話があるんだがな」

「直ちに報告してまいります」

ゴブリン達の包囲を抜けたので、今後の方針はオニ族の村に戻る事になる。もちろん俺も報酬を受け取りにオニ族の村に向かう。
それまでに片付けたい事がある。
それは湖の水質悪化の原因となった、ブロッサの事。
ブロッサが悪いわけではないが、オニ族が危うい状況に陥った原因のブロッサには良い感情は持たないかもしれない。

ソーイがソーギョクとソーショウを連れて戻ってくる。ソーギョクとソーショウが話す前に、こちらから先制する。

「少し話があるんだが、大丈夫か?」

「もちろんです。こうして話が出来るのもカショウ様のお陰です」

「そういう無駄な話は無しで、本題に入る。ブロッサ出てこい」

俺の横に、黒と赤縞の蛙が現れる。
ブロッサは、ゴブリンとの戦闘時に見られている。舌を伸ばし枝から枝へと移り、毒の霧を撒き散らす蛙は、目立っていたはず。

「この蛙が湖の毒の原因だ!」

申し訳なさそうにブロッサが頭を下げる。

「ゴメンナサイ。ゴブリンニ、ツカマッテタ」

ブロッサはアシスでも古い精霊。アシスという世界が誕生した時からの精霊になる。

しかしブロッサは表舞台に出る事は、ほぼ無かった。生き物にとって、毒とは嫌う存在。そこにあるだけで、問題視されてしまう。
だから地下に潜り、ただただ隠れて過ごしてきた。地中に居る毒蛇や蜘蛛は、同族のような存在。近くに同族が居るだけで満足だった。
戦乱が起こり大地が荒れる度に、少数の蛇や蜘蛛を連れて棲みかを移し、たどり着いたのがヒケンの森。湖の側に穴を彫り、そこに隠れ棲んだ。

しかし何者かの罠に嵌まり、ゴブリンに捕らわれる。
表に出てこない事を利用し、穴の周りに結界を張り魔力の流れ込むのを止められた。
ほんの少しずつ徐々に徐々に魔力を失い、変化に気付けなかった。動けない状態になって初めて異変に気付く。

後はゴブリンに捕まり、強制的に湖に毒を吐かせ続けられる。これが事のあらましになる。

「経緯については分かりましが、私にどうしろと?」

「ゴブリンから解放して、今は俺と召還契約しているが問題は無いか?反発する者も出てくると思うが?」

「オニ族の恩人であるカショウ殿に言える立場ではないが、私としてはブロッサとやらがカショウ殿と一緒であればオニ族としも安心出来る」

「それなら、こっちも安心してオニ族の村に報酬を貰いに行けるな。どうだムーア?」

出てこないムーアを呼び出す。

「お前も、これでイイな」

『私とブロッサは同類よ。酒も過ぎれば毒にもなる。毒も程度問題では薬にもなる。ブロッサの事は他人事とは思えないわ。人前に出ず隠れてきたのも同じね』

「ぼっちは、ぼっちの気持ちが良く理解出来るって事だな」

『あなたも“ぼっち”でしょ!』

「喧嘩ヨクナイ」

『あんたが、一番ぼっちなのよ!だいたい古い精霊なら、普通は人型でしょ!』

「人型デ契約詐欺師ナラ、コノママデイイ」

『だいたい蛇のボスが蛙って、可笑しいでしょ?』

「そう言われたら、そうだな」

「カショウマデ、ヒドイ」

「示しが付きません!」

『「・・・・・・」』

ソーギョクの丁寧な言葉遣いに、ギクッとする。

「オニ族の族長としては、カショウ殿への報酬が短剣だけでは他に示しが付きません。」

「ブロッサ様も、ここに居るオニ達の命の恩人。反対するようであれば、私が責任を持って対応する!」

ブロッサも心なしか、安心した顔をしている・・・ような気がする。
まあ、引きこもりから外に出るわけだから、俺と契約した事も大きな決断だろうけど。

「そうだな、こっちの見せたくない手の内も見せてしまったしな。じゃあ追加の報酬は、盾オニに名前を付けさせてくれ!」

「・・・私としては、問題ないがカショウ殿は大丈夫なのか?」

『カショウ、名付けは強い意味を持つのよ。大丈夫なの?』

「そうだな、忘れてたな。盾オニが嫌がる可能性もあるな?聞いてみてくれ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

★★★★★★六つ星ユニークスキル【ダウジング】は伝説級~雑魚だと追放されたので、もふもふ白虎と自由気ままなスローライフ~

いぬがみとうま
ファンタジー
■あらすじ 主人公ライカは、この国始まって以来、史上初の六つ星ユニークスキル『ダウジング』を授かる。しかし、使い方がわからずに、西の地を治める大貴族である、ホワイトス公爵家を追放されてしまう。 森で魔獣に襲われている猫を助けた主人公。実は、この猫はこの地を守護する伝説の四聖獣『白虎』であった。 この白虎にダウジングの使い方を教わり、自由気ままなスローライフを求めてる。しかし、待ち構えていたのは、度重なり降りかかる災難。それは、ライカがダウジングで無双していく日々の始まりであった。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

処理中です...