上 下
10 / 10

第10話 転移魔法陣の向こう側

しおりを挟む
「レヴィン、第6ダンジョンが健在って本当なの?」

 天界では、第6ダンジョンは10階層を残して壊滅したことになってる。残された10階層も禍々しい魔力に汚染され、完全封鎖されている。
 その煽りを受けたのがブランシュなのだから、もし第6ダンジョンが健在なら、誰か暗躍している天使がいると疑ってしまう。

「先輩っ、オレっち達もダンジョンが無事だとは思わないっす。あの衝撃じゃ、無事なんかでは済まないはず」

「この転移魔法陣はな、双方に魔法陣が描かれていて初めて機能するんだ」

「知ってるっすよ。あっちの魔法陣が生きてるって言うんすか」

「そうだな、マリク。まず試しに、何か魔法陣に入れてみろ」

 そしてマリクが魔法陣に投げ入れたのは、不要となった第6ダンジョンの身分証。投げ入れた瞬間に、フッと消えて失くなってしまう。

「ほらな、魔法陣は生きている」

「でも、レヴィン。転移先が安全な保証はないでしょ」

「そうっすよ、ブランシュさんの言う通り。転移した瞬間に、待ち受けるのは死。そうじゃなくとも地獄かもしれないっす」

「第6ダンジョンの魔法陣はな、俺が新しくつくった魔法陣なんだよ」

 俺が総員退避させ、最後にノートパソコンに仕込んだのは、始まりのダンジョンへの転移魔法陣。もちろん、部屋の中の環境もモニタリングさせている。

「レヴィンったら、何を考えてるの。第6ダンジョンが破綻したって聞いて、私がどれだけ心配したと思ってるのよ」

「そう言うなって。これは、万が一の備え。もし第6ダンジョンの下層が無事なら、物資だって持ってこられる。悪いことはない」

「でも、誰が先に魔法陣に入るんすか? 絶対にオレっちは嫌っすからね。幸せな家庭すら持ってないのに、死ぬのはゴメンっすよ」

「仕方ない、俺が仕掛けた……。ちょっと待て、魔法陣が」

 途中まで言いかけて、転移魔法陣の変化に気付く。何かが、起ころうとしている。

「転移だ、何かが転移してくる」

 しまったとしか言えない。

 第6ダンジョンの下層は、マリクやカシューによって総員退避が完了している。誰も残っていないと思っていた。
 しかし、何かが産み出される可能性を失念していた。破綻したダンジョンでは、誰も生きることが出来ないとだけ思い込んでいた。

 転移魔法陣から感じられる魔力は大きい。

「来るぞ、戦いに備えろ!」

 マリクが、ブランシュとラナを守る為に前に出る。しかしブランシュは熾天使であり、俺達よりも秘めた魔力は多く、上位の魔法を幾つも行使出来る。眠ってはいるが、ラナもマリクを一瞬で倒す力を見せた。

 この中で一番弱いのは、残念だがマリク。でも、今はマリクの男気を立てる為に、あえて何も言わない。

 転移魔法陣から感じる魔力は、さらに増大する。確かに強い。だが、感じたことがある。どちらかといえば、想定内の強さ。

「おうっ、レヴィン。無事だったドラか」

「はあぁ、何やってんだバカ。こんな所で!」

 思わず大きな声が出てしまう。転移魔法陣から現れたのは、地竜のミショウ。

「いやな、その……マリクの身分証が魔法陣から出てきたから、覗きに来てみたドラ」

 あまりの場違いな雰囲気に、誰も言葉が出ない。

「ははーん、そういうことか。ザキさんの所に避難するのが嫌で、ダンジョンの中に隠れてたんだな」

「ちっ、違うドラ。お主のことが心配で、ここでずっと待っておったドラ」

「まあ、今はいい。第6ダンジョンの中はどうなってるんだ」

「あっ、ああっ、多少の衝撃で中は散乱しておるが、30階層から60階層までは特に問題はない。だがその上は無理ドラ」

 転移魔法陣から第6ダンジョンの指令室へと転移すれば、ミショウの言葉通り多少散乱してはいるが、何時もと変わらない光景。シャットダウンされたパソコンも再起動し、各階層の様子を映し出している。どこにも異常を示す警告すら出ていない。

 そして俺とミショウを追いかけ、マリクとブランシュも転移してくる。

「ほらな、言った通りだろ。第6ダンジョンは健在なんだ」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

黒子の天使の異世界創造~幼馴染み熾天使はダンジョンマスター~

さんが
ファンタジー
 3対6枚の翼を持つ熾天使。地上に降りることを許された天使であり、神の天啓を伝える。また、勇者を見定めて加護を与え、共にダンジョンの奥に潜む魔物を討つ。  そんな嘘で塗り固められた世界キョード。  本当の熾天使の姿は、ダンジョンマスター。全ての力の源となる魔力は、大地の奥深くから湧き出し、その魔力を吸い上げる為の装置がダンジョン。  ダンジョンを大きくする為の唯一の方法は、冒険者を疲弊させダメージを与え、ダンジョンに生命力を吸収させること以外にない。だからこそ、熾天使は冒険者をダンジョンの奥へと誘う。  そして、そのダンジョン管理の役目を担うのが黒子天使とよばれる、頭上に黒い輪を持つ裏方の天使達。  ただ、神々であってもダンジョンには未知が多く、禁忌事項の『需要魔力が供給魔力を超えてはならない』ということしか分かっていない。  禁忌を犯した場合の代償は大きく、原因となった者やダンジョンマスターには災厄が降りかかり、ダンジョンは崩壊する。  だから、神々は熾天使にダンジョンマスターを任せる。  そんな事は、黒子天使の俺には関係ないし、どうでも良かった。幼馴染みの熾天使ブランシュが、新設された第13ダンジョンのダンジョンマスターにされてしまうまでは!  決して表に出ることのない裏方の黒子天使の物語が、今ここに始まる。 ※ファンタジー世界の裏側は意外と現代的。大真面目だけどクスッと笑える。そんな世界観です。 なろうに追いつくまでは毎日更新。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

サラリーマン符術士~試験課の慌ただしい日々~

八百十三
ファンタジー
異世界から侵攻してくる『魔物』の脅威に脅かされる日本。 既存の兵器が通用せず、魔法を行使することも出来ない地球人たちは、超自然の力を紙に記して行使する『護符』を生み出し対抗していた。 効果の高い護符や汎用性の高い護符はすぐさま量産されて世に出回るため、より売れる護符を開発しようと護符をデザインする『工房』が国内に乱立。 それぞれの工房はある時は互いに協力し、ある時は相手を出し抜きながら、工房存続とシェア獲得のためにしのぎを削っていた。 そんな日々が続く2019年4月。東京都練馬区の小さな工房『護符工房アルテスタ』に、一人の新入社員が入社してくる―― ●コンテスト・小説大賞選考結果記録 HJ小説大賞2020後期 一次選考通過 第12回ネット小説大賞 一次選考通過 ※カクヨム様、ノベルアップ+様、小説家になろう様、エブリスタ様にも並行して投稿しています。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889891122 https://novelup.plus/story/341116373 https://ncode.syosetu.com/n3299gc/ https://estar.jp/novels/25628437

処理中です...