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第37話 想定外の苦情

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「先輩っ、苦情報告っす」

「何があった?」

 第13ダンジョンを管理するにあたって、広く意見を募集している。特に黒子天使は、第6・7ダンジョンに野良黒子と、急速に混ざり増員した。それだけに早目に問題を発見し、不満を解消してやる必要がある。だが現状は、要望であったり願望もあれば、ワガママに近いものも多い。

 そしてマリクの持つ書類には、提案・要望・苦情の全ての項目欄に、大きな赤丸が付いている。なぜ、これが苦情になるのかと言えば、苦情の文字だけが何重にも赤丸で囲まれている。

「”勝手に何してくれてるんだよ、絶対に呪ってやるからな”ってですね」

 ダンジョンマスターがフジーコの第6ダンジョンでは、誰からの不満も多かった。しかし、第13ダンジョンのダンジョンマスターはブランシュで、男女や黒子天使や魔物達といったことも一切関係なく、圧倒的な人気がある。
 だから今まで上がってきた意見は、少しでもブランシュに近付くための下心のあるものばかり。

「確かに苦情で間違いないが……」

「先輩、恨まれてんすよ。ブランシュさんと馴れ馴れしく接してるから」

「ただの幼馴染みだろ。それにダンジョンの司令官がやりたいなら、いつでも変わってやるからな」

「さあ、そんなことよりも、これを書いた奴を特定しましょう。ブランシュさんに危害を加える奴なら、即抹殺するっす」

「俺にだったら?」

「全力サポートするっす!」

 俺が突っ込みを入れる前に、マリクが報告書を分析装置にかけると、そこから人の姿が浮かび上がってくる。

「えっ、これってカーリー……じゃないか?」

 ヒケンの森で一番人気の洋菓子店ブ・ランシュの店長カーリー。元第6ダンジョンの聖女の一人であるが、今はブランシュの一番の信者でもある。ブランシュを崇拝こそすれど、恨むことなんて絶対にあり得ない。

「やっぱ先輩っすよ。カーリーにとっては、先輩はブランシュさんに集る虫なんすよ」

「それなら、俺よりお前の方が危ないだろ」

 マリクは俺の言葉を無視して、モニターに洋菓子店ブ・ランシュの映像を映し出す。

 店の開店時間は午前10時からで、まだ開店までには1時間以上ある。それなのに、店の周りを取り囲むように冒険者達の行列が出来上がり、若干殺気立ってすらいる。

「これはヤバいな。行列の数が異常だろ」

「以前見たのとは倍以上っすね。何かあったのは間違いなっすね」



 その原因は、木のレア宝箱に入れたブランシュお手製のクッキーにあった。ブランシュのクッキーを食べた者には幸運が訪れるらしい。
 幸運値は、俺の鑑定眼では把握出来ないパラメーターの1つであり、俺の能力基準でマジックアイテム化しているのだから、他の黒子天使達でも理解出来ない。

 単純にダンジョンでの幸運とは、クリティカル率やアイテムドロップ率の上昇に繋がる。そして、ドロップアイテム狙いで、第13ダンジョンを訪れる冒険者にとっては、必須のパラメーターともいえる。

「そんな、凄いのか?でもな、竜鱗のドロップなんて俺たちのさじ加減次第だろ」

「ちょっと、調べてみるっす」

「確かに、竜鱗のドロップ数は増えてますね。純粋にガルグイユ討伐回数も増えているんで、ドロップ率は規定値通りっすよ」

「じゃあ、クリティカル率か。それなら、ガルグイユの討伐回数が増えたことも納得出来るが」

 ブランシュに心酔するカーリーが、宝箱から発見されたクッキーを否定出来るわけがない。そして、カーリーのクッキーは熾天使ブランシュによって授けられたレシピになり、カーリーのクッキーにも多少の効果があると思われても仕方がない。

 その結果、ワンオペのカーリーは不眠不休で店の開店準備をしている。

「間違いないな。これは、俺の責任だ」

「先輩、どうしますか?助けてやらないと、過労死確定っすよ」

 第13ダンジョンに、ブランシュに任命された勇者や聖女がいれば、天啓を与えることが出来る。そうすれば、カーリーの店の人手不足を緩和出来るかもしれない。
 しかし、熾天使代理のブランシュには、勇者や聖女の任命権限がない。かといって、姿の見えない黒子天使が店を手伝ってやることは出来ない。

「ここは、使い魔しかないだろな」
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