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第35話 魅惑の宝箱
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ブランシュによってダンジョンの方針が決められた。第13ダンジョンを攻略する魔王の存在のような大義名分は必要なく、冒険者が来たくなるようなダンジョンをつくること。
「マリク、これから忙しくなるぞ」
「何がっすか。慌てなくても、ゆっくり行きましょうよ。監視の目もないんすからね」
「ドロップアイテムだけじゃ、ダンジョンの魅力に欠けるだろ」
「えっ、それって宝箱がっすか?もっと先でもいいっすよ」
ダンジョンの魅力といえば、魔物のドロップアイテムと、どこからともなく現れる坪や宝箱。
一度開けて空っぽになった宝箱でも、気付けばまた何か入っている。そんな便利なものが、この世にあるはずがなく、全てが黒子天使の仕業。
勇者は正義で、魔王は悪という固定観念は熾天使がつくったものだが、ダンジョンは不思議なものという固定観念は黒子天使によってつくられた。
ご都合主義ともいえるが、簡単な道のりではなかった。長い年月をかけて少しずつ刷り込み、それを当たり前にした、黒子天使の汗と涙の結晶でもある。
「宝箱の中身っすよね。どこまで準備するんすか?まだ、ダンジョンの上層階なら大したものも入れれないっすよね」
「違う。宝箱自体を用意するところから始まるんだ」
「えっ、宝箱からっすか……」
第6ダンジョンは先人の黒子天使によって、すでに宝箱がつくられていた。だが、第13ダンジョンは新しく出来たダンジョン。誰かが用意しなければならない。
「第6ダンジョンの宝箱を使いまわしたらダメなんすか。十分使えるし、在庫だって十分にありますよ」
宝箱には種類があり、低ランクのものは木の宝箱。それから、銅・銀・金・白金・虹とランクが上がってゆく。
一般的には、最初に出現する宝箱は木と銅の宝箱から始まる。20階層毎に宝箱のランクが上がり、60階層の第6ダンジョンは、金の宝箱までが出現し、宝箱自体は白金の宝箱まで準備されている。
「そんなの、ダメに決まってるだろ。ダンジョン毎に宝箱は全て形や模様が違うんだ。第6ダンジョンの宝箱なんて出現させてみろ。ここの存在がバレてしまう」
宝箱やの柄については、特に決まりはなく各ダンジョンに一任されている。ゼブラ柄やキリン柄といった宝箱もあり、いかに冒険者のテンションを上げさせるかの工夫がある。今では、宝箱自体をコレクションしているマニアも少なからず居て、未開封の宝箱自体が売り買いされている。
「宝箱のデザインから始まるんだ」
「そんなの、やったことないっすよ。それに絵心なんてないっすよ」
「俺だってないさ。でも、一人だけ心当たりがある」
俺の視線は、ブランシュの肩に止まるザキーサに向く。鉄貨のブランシュに似た熾天使サージを描いたザキーサなら、宝箱についても知っているはず。
「ザキさんっすか?」
俺とマリクの視線が向けられる前から、ザキーサは俺が何を考えているかを知っている。そして、少しだけ嫌そうに聞いてくる。
「どっちだ。良い方と悪い方がある」
「俺の考えはお見通しだろ、もちろん悪い方だ」
「ふん、時代が変わっても相変わらず、芸術が何かを理解せんやつがおる。どちらも出してやるから、良く見て決めろ」
アイテムボックスから取り出されたのは、2つの木の宝箱。鉄化と同様に、熾天使サージが掘られた宝箱と、簡略化されたデザインの熾天使が焼き印されて宝箱。
「スゲ~っすよ。これ」
「ああっ、見るまでもない。悪い方の宝箱で決まりだな」
一番低ランクの量産品の木の宝箱のだが、明らかに芸術性が高すぎる。宝箱の中身よりもも遥かに、宝箱の方が価値がある。
「先輩っ、でもこの宝箱目当てで、冒険者を呼び込めるんじゃないっすか?」
「じゃあ、聞くがな。この宝箱を誰が作るんだ?」
マリクが、シーマの顔を凝視する。
「残念だけど、僕の担当はマジックアイテムだよ。特殊な仕掛けがないなら、管轄外だね」
「マリク、宝箱目当てに冒険者が殺到してみろ。デスマーチが始まるぞ」
ザキーサが無駄に能力と魔力を消費してつくった宝箱。それが、ブラックアウトを引き起こした原因の1つなのかもとさえ思えてくる。
「マリク、これから忙しくなるぞ」
「何がっすか。慌てなくても、ゆっくり行きましょうよ。監視の目もないんすからね」
「ドロップアイテムだけじゃ、ダンジョンの魅力に欠けるだろ」
「えっ、それって宝箱がっすか?もっと先でもいいっすよ」
ダンジョンの魅力といえば、魔物のドロップアイテムと、どこからともなく現れる坪や宝箱。
一度開けて空っぽになった宝箱でも、気付けばまた何か入っている。そんな便利なものが、この世にあるはずがなく、全てが黒子天使の仕業。
勇者は正義で、魔王は悪という固定観念は熾天使がつくったものだが、ダンジョンは不思議なものという固定観念は黒子天使によってつくられた。
ご都合主義ともいえるが、簡単な道のりではなかった。長い年月をかけて少しずつ刷り込み、それを当たり前にした、黒子天使の汗と涙の結晶でもある。
「宝箱の中身っすよね。どこまで準備するんすか?まだ、ダンジョンの上層階なら大したものも入れれないっすよね」
「違う。宝箱自体を用意するところから始まるんだ」
「えっ、宝箱からっすか……」
第6ダンジョンは先人の黒子天使によって、すでに宝箱がつくられていた。だが、第13ダンジョンは新しく出来たダンジョン。誰かが用意しなければならない。
「第6ダンジョンの宝箱を使いまわしたらダメなんすか。十分使えるし、在庫だって十分にありますよ」
宝箱には種類があり、低ランクのものは木の宝箱。それから、銅・銀・金・白金・虹とランクが上がってゆく。
一般的には、最初に出現する宝箱は木と銅の宝箱から始まる。20階層毎に宝箱のランクが上がり、60階層の第6ダンジョンは、金の宝箱までが出現し、宝箱自体は白金の宝箱まで準備されている。
「そんなの、ダメに決まってるだろ。ダンジョン毎に宝箱は全て形や模様が違うんだ。第6ダンジョンの宝箱なんて出現させてみろ。ここの存在がバレてしまう」
宝箱やの柄については、特に決まりはなく各ダンジョンに一任されている。ゼブラ柄やキリン柄といった宝箱もあり、いかに冒険者のテンションを上げさせるかの工夫がある。今では、宝箱自体をコレクションしているマニアも少なからず居て、未開封の宝箱自体が売り買いされている。
「宝箱のデザインから始まるんだ」
「そんなの、やったことないっすよ。それに絵心なんてないっすよ」
「俺だってないさ。でも、一人だけ心当たりがある」
俺の視線は、ブランシュの肩に止まるザキーサに向く。鉄貨のブランシュに似た熾天使サージを描いたザキーサなら、宝箱についても知っているはず。
「ザキさんっすか?」
俺とマリクの視線が向けられる前から、ザキーサは俺が何を考えているかを知っている。そして、少しだけ嫌そうに聞いてくる。
「どっちだ。良い方と悪い方がある」
「俺の考えはお見通しだろ、もちろん悪い方だ」
「ふん、時代が変わっても相変わらず、芸術が何かを理解せんやつがおる。どちらも出してやるから、良く見て決めろ」
アイテムボックスから取り出されたのは、2つの木の宝箱。鉄化と同様に、熾天使サージが掘られた宝箱と、簡略化されたデザインの熾天使が焼き印されて宝箱。
「スゲ~っすよ。これ」
「ああっ、見るまでもない。悪い方の宝箱で決まりだな」
一番低ランクの量産品の木の宝箱のだが、明らかに芸術性が高すぎる。宝箱の中身よりもも遥かに、宝箱の方が価値がある。
「先輩っ、でもこの宝箱目当てで、冒険者を呼び込めるんじゃないっすか?」
「じゃあ、聞くがな。この宝箱を誰が作るんだ?」
マリクが、シーマの顔を凝視する。
「残念だけど、僕の担当はマジックアイテムだよ。特殊な仕掛けがないなら、管轄外だね」
「マリク、宝箱目当てに冒険者が殺到してみろ。デスマーチが始まるぞ」
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