上 下
17 / 53

第17話 黒子天使の暴走

しおりを挟む
「先輩、何かおかしいっすよ」

「何がおかしいんだ、報告は明確にしろって言ってるだろ!」

「地上の黒子天使達が、魔物に襲いかかってます」

 第13ダンジョンに集まって来た、黒子天使達は約5千5百人。しかし、ダンジョンの中に入れた黒子天使達は2千人。残りの黒子天使達は、まだ地上に溢れている。

 黒子天使の能力は、ダンジョンの中でのみ大きな力を発揮する。地上での暴走を防ぐ為に、黒子天使のスキルは魔力を大量消費する。だから、常に良質な魔力で満たされた、ダンジョンの中でしか十分な力が発揮出来ない。
 だから地上に出た黒子天使は、翼のある人族程度の力しか発揮できない。それに姿が見えないのは、地上の人々にだけであって、魔物には黒子天使の姿がハッキリと見えている。

「カシュー以外にも、猛者がいるのか?」

「違うんすよ。カシューの出番はないというか……。信用出来ないと思うから、見た方が早いっすよ」

「分かったよ。モニターに映せ」

 モニターに映し出されたのは、一方的に魔物を追い詰める黒子天使達の姿。第13ダンジョンのあるヒケンの森には、魔物が多く棲息している。数だけなら黒子天使よりも遥かに多い。

 現在稼働しているダンジョンではなく、廃ダンジョンで街からは遠く離れている。その魔物達の森を大勢の黒子天使が抜けてくるのだから、魔物達にとってみれば格好の獲物でしかなく、少なくない犠牲が出ている。
 もちろん黒子天使も人族と同じで、鍛練次第では能力を伸ばすことは出来る。地上で活動する黒子天使の中には、地竜ミショウとも渡り合える猛者もいるが、それは一握りでしかない。

「他はどうなってる?」

「まだ定点カメラはこれだけっすよ」

 黒子天使の中には、傷付き怪我をしている者の姿も見える。しかし、前線で戦う者は全身に返り血を浴び、魔物達を明らかに圧倒している。

『おい、中で遊んでいるんなら、暴走を止めに来い』

 そして、外の黒子天使達を守るために地上へと送ったはずのカシューからは、全くの逆の連絡が入る。

「どれだけ人手が居る?俺だけでイイのか?」

『ミショウとローゼを連れてきてくれ。ミショウは人型だぞ。外は、黒子天使で溢れてるんだからな。それと、足手まといだがマリクも連れてきてくれ』

「足手まといは余計じゃないっすか?それはイイんっすけど、どうします?」

 珍しくカシューに文句を言い返さないかと思えば、マリクの視線の先にはブランシュが居る。ブランシュがダンジョンマスター代理であり、あくまでも黒子天使の仕事はダンジョンの維持管理になる。
 第6ダンジョンは、熾天使フジーコも司令官ラーキもダンジョンに居ないが為に、自分達の好き勝手にやってきた。

 でも、今は違う。

 ダンジョン自体が初めての経験のブランシュであるが、このダンジョンの責任者はブランシュ。俺達が勝手に、意思決定や行動を決める権限はない。

「私も行きます!」

「でも、危ないっすよ。外じゃ、何が起こるか分からないっす。黒子天使の中にも、何が混ざり込んでいるか分からないっすよ」

「ダメです。それでも、私も一緒に行きます!」

 しかしブランシュの決意は固く、マリクの反論を許さない。

「先輩っ」

「私“も”なんだ。悪くはないだろ。ダーマさんに連絡だけしておいてくれ。上手くやってくれるだろ」


 地上へ転移すれば、カシューの報告通りに黒子天使達が、イスイの魔物を圧倒している。守るというよりは、一方的な虐殺に近い。組織だった行動はなく、見つけた魔物を追いかけまわし、死んでも尚攻撃し続ける猟奇的な光景。

「何だ、この魔力は……」

 ただ驚いたのは、猟奇的な光景にじゃない。

「やっと来たか。地上もダンジョンの一部だ。早くしなと、森から一斉に魔物が逃げ出すぞ」

「ああ、ダーマさんには連絡した。最悪は回避してくれる。でも、どうするんだ?」

「ミショウに暴れさせる。それくらせんと、コイツらは止まらん」

「待ってください。ここは、私がやります」

 そう言うと、ブランシュが翼を広げ空中へと舞い上がる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...