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第10話 レヴィンの功罪

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 目を覚ませば、窓もドアもない部屋の中にいる。ここは天界の牢獄。

 黒子天使となり一度地上に降りてしまった者が、天界に戻る方法は2つしかない。1つは、ダンジョンの司令官となり、天界での役割を与えられること。もう1つは、犯罪者となり裁かれること。

 ブラックアウトを起こしたダンジョンの副司令官が、司令官に昇格するはずがない。だから、残された可能性は犯罪者となり裁かれること。

「おい、監視してるんだろ。放置するなら、全力で逃げ出すぞ。これ以上は悪くならないなら、何をやっても構わないだろ」

 一度収監されてしまえば、もうどうすることも出来ない。しかしベッドしかない部屋で、黙って過ごす気にもなれず、嫌がらせの一つも言いたくなる。

 すると、壁からコンコンコンッとノックの音が聞こえる。まさかリアクションが返ってくるとは期待しておらず、慌ててベッドから飛び起きる。
 ノックは形式的なものでしかなく、俺の返事も心の準備も待たずに、何も無かった壁に入口が現れる。

 そこに現れたのは、プラチナブロンドの髪色に碧眼の瞳を持ち、最も神々に近い存在の熾天使筆頭ラーミウ。第1ダンジョンのダンジョンマスターでもあり、その魔力獲得量は他の全てのダンジョンを合わせた魔力量を凌駕し、天使の中の頂点に立つ存在。
 ただ、仮面の熾天使とも言われ、綺麗な顔ではあるが感情が欠落している。

「ラーミウが……何故?」

「ラーミウ様だ、様を付けろ。相変わらず礼儀をわきまえん愚か者めが!」

 ラーミウの後ろから出てきたのは、第1ダンジョン司令官の黒子天使イーフ。この2人が出てくるということは、俺に懲戒処分が下される。それも、処分は重いものになることが確定している。

「そんなことは、どうでも良い。イーフ、早く用件を済ませなさい。時間は貴重です」

 しかし、ラーミウは逆にイーフを叱責する。ラーミウは徹底した合理主義で、一切のムダを嫌う。表情をつくることさえもムダの一つでしかなく、意味のないことは徹底的に排除される。
 だからラーミウにとっては、俺がどんな言葉遣いであろうが会話が成立すれば問題ない。

 地上で見せるラーミウの柔和な表情は、人々の心を惑わす為の計算されたビジネススマイルでしかなく、噂ではあるが人々を魅了するプラチナブロンドの髪色や碧眼の瞳は、自らの体を改造したものとも言われている。

「貴様の処罰が確定したから、伝えに来てやったのだ」

「ブラックアウトの責任か」

「残念だが、それはフジーコ様とラーキの責任だ」

 第6ダンジョンは、完全にブラックアウトを引き起こしはしなかった。21階層以降には災厄が訪れ、跡形もなく破壊されたが、20層までは無傷で残されている。
 ブラックアウトを起こした張本人である司令官補佐ワイーザには禁忌による災厄が訪れ、存在事態が消滅してしまった。それでも、未だにワイーザの悲鳴が聞こえるらしいが、幸いにも熾天使フジーコと司令官ラーキも生き残った。とはいっても、元の姿が分からないくらいに形が変わっている。
 ただイーフにとって重要なのは生きていることであって、生きていれば責任は取れる。

「じゃあ、何の責任を取らさせられるんだ」

「他人事みたいに言いやがって。お前が引き起こしたんだろ、スタンピードを!」

「スタンピードか。考えてなかった……かな」
 
 ダンジョン内だけの話であれば、俺は無罪だった。しかし、俺の決断はダンジョンの外に大きな影響を与えていた。
 黒子天使と使い魔だけをダンジョンから待避させたのであれば問題なかったが、全ての魔物に避難命令を出した。
 緊急時には、下層の魔物はヒケンの廃ダンジョンの地下へと転移する計画となっていた。それは俺が事前に準備していたもので、俺の権限が及ぶのはあくまでも下層の30層でしかない。

 しかし、ワイーザの管轄の上層の魔物達は違う。大半が第6ダンジョンの外へと逃げるしかなかった。

「第6ダンジョンでスタンピードを起こした罪は大きい。副司令官より最下位へ降格、及び1万年の減俸・休暇の剥奪、そして所属を第1ダンジョン預かりとする」

 1万年といっても、それは永遠を意味する。難癖を付けられて期間が延びるか、耐えれずに俺が死んでしまうかの不本意な2択でしかない。

「黒子天使筆頭のリーフの決定を受け、熾天使筆頭として最終決定を下す。第6ダンジョン副司令官レヴィン、ただ今をもって第13ダンジョン司令官に任ずる」
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