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第3話 ダンジョンの禁忌

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 勇者タームが放ったペルセウス流星剣は、強烈な閃光と共に地竜の鱗を切り裂き、鮮血が舞い上がったように見えた。

 だが、実際に起こった事とは大きく異なる。黒子天使カシューが勇者ターム憑依し、加減されて放たれた攻撃は竜鱗に掠り傷を付けた程度でしかない。
 舞い上がったように見えた鮮血や、切り裂かれた地竜の皮膚に絶たれた骨。それら全てが、他の黒子天使によって作られた幻影。

「幻影発動」

「幻影発動確認。地竜ミショウを、ダンジョン待機空間に転移します」

「転移確認し次第、ドロップアイテムの転送開始します」

「地竜ミショウの消失確認。ドロップアイテム転送確認。ミッション完了、ミッション完了」

 各部署の黒子天使から、作戦実行の結果報告が次々と届けられる。勇者達は地竜が消滅し、残されたドロップアイテムを見て、地竜との戦いに勝ったと信じ込んでいる。

「おい、レヴィン! 何故カシューの攻撃を加減したんだ。もっと本気の攻撃をせねば、ワシは満足できんぞ。何の為にダンジョンに引っ越してきたと思っとるんだ」

 ミッションの達成報告が続くなかで、最後に苦情の報告が届く。モニターに映し出されたのは、地竜ミショウの不満げな顔。

「加減しなければ、勇者の体が持たん。それに必要以上の傷は、回復魔力の消費が大きすぎる。それくらいは分かってるだろ」

 ダンジョンを運用するに当たり、絶対に破ってはならない禁忌事項がある。

 需要魔力が供給魔力を超えてはならない!

 魔力は、ダンジョンの中の戦闘だけで消費される訳じゃない。ダンジョンの中を映し出しているモニターやパソコン・照明の全てが、ダンジョンの魔力で賄われている。それに転移魔法やドロップアイテムを作るにも、魔力が必要になる。
 それは、勇者だけの戦いではなく、他の冒険者達にも同じことが行われている。ただ、勇者の生命力が最も強く、効果があるというだけの違いでしかない。

 だから熾天使が加護が与えた者には、特別編成された黒子天使のチームにより監視が行われる。いかに勇者にダメージを与え、生命力をダンジョンへと吸収さるか。いかに効率よく、ダンジョンを大きく成長させるか。
 得られる魔力が増しても、それ以上に無駄な魔力を消費し続けては意味がないのだから!

 それでも、モニターに映る地竜ミショウの不機嫌な顔は変わらない。

「ブラックアウトしたらどうなるか分かってるだろ。古代竜だって助からないんだ」

 ブラックアウトとは、需要魔力が供給魔力を超えた時に、ダンジョンに訪れる破滅を云う。魔力の制御が一切コントロール不能となり、暴走した魔力が次々に破壊を引き起こす。大抵の場合はダンジョンマスターの熾天使の死から始まり、ダンジョンが次々と崩壊してゆく。

 今までに崩壊したダンジョンの数は8つ。

「相変わらずケチ臭いヤツじゃ。たまにはお主がワシの相手をしにこい。それならば、今回は我慢してやる」

「ああ、分かったよ。時間がある時にな」

 そして、モニターには再び勇者達の姿が映し出されている。ドロップアイテムは、地竜の魔石もどきの欠片に、数枚の地竜の鱗。
 地竜のブレスによって、勇者達の装備は腐食し使い物にならなくなった。しかし、ドロップアイテム使えば腐食耐性のある武器や防具がつくれる。
 全滅する寸前で悲壮感が漂っていたが、今は笑みさえ浮かべている。次に戦うときは、今よりも勝てる可能性が高くなる。無理ゲーとは思わせない配慮が必要になる。

「先輩の思い通りっすね。調子に乗せず、かといって心も折ってもいけない」

「ああ、これで勇者タームはドラゴンスレイヤーの称号を手に入れたからな。でも勘違いしてもらっては困る。後々俺達が大変になるんだからな。それに」

「ああ、分かってますよ! さっさと勇者の肉体改造を終わらせろって言うんですよね」

「分かってるならイイ。暫くは中層で装備を整える為に資金集めするはずだから、時間は十分にある。上手く行けば久しぶりに休みが取れるって訳だ」

「はいはいっ、さっさと済ませましょう」
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