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終わりない波
しおりを挟む柏手を打つ手の音が聞こえたように思えた。誰が祈っているのか。
神に祈る人などとうの昔に絶えてしまったはずだ、と言ったのは誰だったのか、それは祈りではなくもっと生々しい肉感的な感じがした。手を合わせる音ではなく肉がぶつかる音だとよく聞けばわかるはずだった。海の波が休まず穿っていくように繰り返し洞の中を侵食する。
これを知っている。
きつく抱きしめられて、中で太くて硬いものが奥へ奥へと入ろうとする。ずるずると引き抜かれまた勢いよく中に突き入れられる。中で痙攣しどろりとしたものが広がり、行き場のないそれを塗り込めるようにまた繰り返される。
ぬちゅっぬちゅっぬぷっぬぷっ
…あ…っあ…っあ……あっ…ひっあぁぁぁ
「あっあっあっ…やぁ…」
両膝の裏に手をあてがわれて、朽木は仰向けに寝ていた。すぐそこに苦しそうに顔を歪めた岩館の顔があった。凛々しい眉がきつく寄せられ、額と削げた頬から汗がゆっくりとしたたり、乾いた朽木の唇にかすめて落ちる。
朽木の体は、休みなく揺れていた。揺らされていた。
ぴったりとくっついていた場所がゆるゆると離れてゆき、繋がっている部分にぬらぬらとした黒いものがあった。優しい岩館のものとは思えないようなそこだけ別の意思を持った生き物のような。一番太い傘のような部分は朽木の中に挿入ていた。
朽木の身体は素直に異物を身体から押し出そうときゅうきゅうと締め上げた。
「…くっ……悪い子だ朽木」
やっやっ…どうしてわるいこじゃないわるいこじゃないよいわだて、あ…っあ…
口に出すより先に黒いものがまた身体のなかにすっかり収まり二人の身体が重なり、岩館の重みに押し潰されるように身体を揺らされて朽木は、甘い悲鳴をあげた。
「いわだて、だめぇだめぇいやぁぁぁ…」
「朽木はこれが嫌?それとも俺が嫌なの?」
重なった腰を淫らに押し付け突き上げながら膝裏から滑らせた手で朽木細い腰を掴みより深くに身を沈めた。朽木の背が反り返る。
やわやわと優しく揺らされて朽木は岩館に何か言おうとして、何を言って良いのか分からなくなった。口から出る音はもう言葉にならず、岩館の硬い切っ先で中身をかき回される音色になっていた。
狩りの獲物の息の根を止めるような深い重い突きで朽木は穿たれ、岩館が激しく肉体を震わせる。朽木の中で更に大きく膨れ上がったものがゆっくりと弾け、朽木は強く抱き潰された。
「朽木、朽木、わたしの可愛い朽木、どうせ全て忘れてしまうのだから、ほら」
唇が重なったまま、中を揺すられた。
「だから。もう少しいいだろう?」
岩館に強請られて朽木は混乱した。
岩館が欲しがるものなら全てあげたかった。時間がかかっても自分の手で探して、いつも優しく髪を撫でてくれるあの大きな両手の上に載せてあげたかった。
いつも困らせているから、喜んで欲しかった。岩館の微笑む顔を見てみたかった。
ただ横たわり、訳もわからず揺らされ突き上げられて、朽木は何もしていない。
朽木は途方にくれた。
これをどうやったら忘れるというのだろう?
岩館は朽木の返事を待ってはくれなかった。熱を持った塊が既に朽木のなかでまた硬く反り返りつつある。
「朽木、これはいや?」
岩館は混乱する朽木の身体を淫靡に弾き甘い曲を奏でさせた。岩館に抗う事を考えない素直な身体は岩館の思うがままに乱れる。
ただ肉欲のまま貪るのではなく気を良くなじませ、黒く爛れ焼けた部分癒し、欠けた右手をも繋がったまま新しくつくりこんでゆく。枯れた喉もかすれた声も、繰り返し癒される。
細い指も、薄い爪も、やわらかな指の間を舐めると朽木は感じるあまり震えてしまった。
欠けた手が甦り、焼けた肌が生まれた時のように水を弾くようなまっさらな瑞々しさを持つ。
「ねぇ、朽木、傷んだ実も摘んでしまおうね」
篝が焼いた手も、腕も、その痕跡を残さぬようにに岩館は作り、篝があの時赤く染めた朽木の花芽や花芯の粒も自ら赤く染め直す。
優しく恭しく胸の尖りが岩館に齧り取られ、痛みを訴える僅かの間に岩館の唇と歯と舌に包まれて淡桃色の乳首がぷるんと生まれた。
両足の間の花芯の粒を丹念に愛撫し、ふっくりと腫れたそこを岩館は口の中に収めた。口の中でさくらんぼうの枝を結ぶように舌を這わせめぐらせ、赤く充血した粒を素早く摘み取り、気をこねた真新しい真珠の粒をそこに据える。
篝の痕を消し去り、岩館は目を細める。
篝の残した痕を消し、自らが朽木に施したことも、淫らなことも、全て朽木の中から消し去るのだ。
あともうひととき、狂わせる蜜を滴らせた洞を味わった後に全て。
「いわだて、まって、まってこわいからぎゅっとして」
岩館がするとに全く気持ちも体もついていけない朽木は新しい手で岩館にすがりついた。
厚い胸板に頬をすりつける。
そこは世界で一番安全な、朽木の心が休まる場所だった。
岩館の硬い胸にも、小さな突起があった。朽木の涙で濡れた瞼がそこをこする。そこにそんなものが有ることに初めて気がついたように、朽木は唇を寄せた。
岩館の唇がしたように、小さな突起を唇で挟んで赤子のように啜った。その些細な行為が岩館の雄をなお一層漲らせる事になるなど、初心な朽木が知るはずもない。
そして淫らに繋がる時間を悪戯に伸ばし、二人は何度も果てた。
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