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西瓜の種2
しおりを挟む『うぎゃうわぉぇえええ』
おれは悲鳴をあげた。
マスター!ますたぁぁぁぁああ“!?
おれはマスターが手に持った物に悲鳴をあげたんだよ、マスターが怖いわけじゃないんだよ!?
おれは精一杯狭いガラス瓶の中で身をよじった。
マスターが手にしていたのは、昨日食べた西瓜の皮だった。
美味しくないと言って赤い実部分はおれにくれて、残りの皮は捨てたのだと思っていたのに。
マスターの白い指が掴む皮にはいっぱい、む、む、む、虫がぁぁぁあああ。甲のある虫が多いよぉ。
皮を虫寄せの餌にしたようだった。
いろんな種類の虫が一心不乱に西瓜を食んでいる。
うぁぁぁ。ますたぁぁぁぁ。やだぁぁぁぁぁ。どっかにぽいしてよぉぉぉぉぉぉ…。
おれは虫、嫌いだった。
だってもなにも、奴らおれの体を齧るんだもん。共生?無理だよ!完璧な敵対関係だよ。共存なんてありえなぁい、われは断固反対するぅ!おれは勇ましく両腕を突き上げた……ものの…しぉしぉとしおれた。
戦闘態勢だと思われたら、マスターは喜んで瓶の中に虫を入れるに違いなかった。
マスターが子供みたいな無邪気な笑顔で一匹の虫を摘んで、おれに見せつけるようにガラス瓶に近づける。
黒くてつやつやして、鋏を持ったような頭。鎧を着たように固そうだし、隙きのないこいつはきっと古代なんちゃら時代の重盾兵士か何かの生まれ変わりに違いなかった。
マスターがそれを別の空っぽのガラス容器に入れたのでおれはほっとした。
そうしておれを油断させて、マスターはまた別の虫を「ほら、こんなすごいのもいるぞ」とつまみ上げた。次の奴は一本角だった。
そいつも黒くてつやつやしている。黒くて一本角だからきっと、堕落した一角獣の生まれ変わりなんだろうな。
可哀想に、こんな丸っこくなっちゃって。たてがみもないし、足も短くなっちゃって…。
じゃぁ、手足のひょろ長いしわしわのおれは何の生まれ変わりだったんだろうと記憶を探るんだけど、思い出せない。
マスターが何度もおれを切ったりするから、そのたびに何か大事なものを失くしていってるような気がするよ。
おれは前にマスターとなにかすごく大事な約束をしなかった?
ずっと…
ずっとなんだろう?
その後に続く言葉が思い出せない。
マスターにとってその2匹の黒い虫は、他の虫とは違うようだった。
マスターは残りを皮ごと黒い鳥のいる鳥かごに入れてしまった。そしていそいそと戻ってくると満足そうに二匹の虫を眺めた。
そしてまた何か思いついたように立ち上がると鼻歌を歌いながら部屋を出ていく。
こんなに子供みたいに落ち着きなく、でも上機嫌なマスターは久々じゃないかしらん…。
戻ってきたマスターの手には白い皿が、そしてその上には切られた桃と西瓜の切れ端が。
おやつだ!
おれの喜びをよそに、マスターはそれをどちらも虫にやってしまった。
『マスター!おれのは??』
なんてこった。マスターの視線は二匹の虫に注がれ、おれが手を振るのに気がつかない。
む、虫にマスターの寵愛を奪われるなんて…。
あの虫達はもっと高貴な誰かの生まれ変わりなんだろうか…?そうでなければマスターがあんなに気にかけるはずないよね?
ねぇねぇマスター、こっちを見てよ。おれはぺっちぺっちとガラス瓶を中から叩いた。
あんなちっちゃな虫に焼きもちを焼くのは嫌なんだけど。
なんだか変な気がした。
お前はおれだけを見ていれば良いのだ…って言ったのはマスターじゃなかったっけ?
確かにおれだけを見ていて欲しいけど…。
あれれ…。
おれがちゃぷちゃぷと溶液を揺らすのがうるさかったのか、マスターはまた黒い布を取り出した。
あんな虫にはおれの大好物の桃をあげるのに、おれには黒い布だけだなんて…。ひどいよマスター。
ガラス瓶は黒い布で覆われてしまい、おれはしばらくの間暗闇のなかでもにょもにょと蠢いていたけれど、残念ながらその日布が取られることはなかった。
昨日みたいにおやすみの言葉さえなくて、おれは寂しくてさみしくて、どうにかなってしまいそうだった。
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