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番外編
番外if おしょうがつ
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「せいやー」
「どっせぇーい」
「そいやー」
「うぇっしゃぁぁあ」
野太い叫びが冬空に響く。チャイロは尻尾をくるりと丸めて主人の腕と脇のあわさいに顔を突っ込んでいた。
大きな音や叫びが苦手なチャイロにとっては目の前で繰り広げられる事は自分に害が無いと知っても恐ろしかった。
主人の同僚という人達がぞろぞろと訪れたのだ。
異形の者、面をつけたもの、同じ顔をした者が二人、表情のまるで無い人形のような者、体が小山のように膨れ上がった厳つい男。
その面々を見て、主人は新しい着物の裾に泥がはねた時のような顔をした。
すなわち、いやだなぁという顔を。
「悪路、遠路をようこそおいでくださいましたと言わないか、三面」
主人はどーんと仁王立ちした。
「誰一人招いた覚えはないぞ、帰れ。それから三面と呼ぶな」
チャイロはうぬ?と目の玉をくるりとさせた。今の今まで主人の名前を知らなかったからだ。
「ぼたん鍋にしようと肉を持ってきた」
「魚と貝を少々」
「砂糖と」「蜂蜜だ」
「皆で喰う餅を用意したとも」
それぞれが荷を差し出した。厳つい男は黙って大きく重そうな酒樽を前に押し出した。
「ふむ、皆少しは学習したようだな。良いだろう」
良いだろうと言いながら主人は客人を家には入れずに庭に行かせた。
「おうちにいれてあげないの?」
チャイロは尋ねた。
「そうだ。チャイロも正月に家が壊れるのは嫌だろう?」
主人の言葉に首をかしげつつ暖かな屋敷が壊れるのは嫌なので頷いた。
何故か主人がそう言ったのかはすぐにわかった。
客人達は庭で勝手に料理を始めたのだ。
庭木が引き抜かれて薪にされ、どこから出したのかどでかい包丁が猪の首をはね、同じくどこに隠していたのか身の丈を超える魚が中空で捌かれ薄い石の上に並べられる。
その石も、もとは大きな庭石だったはずだが…。
刃物を構えた客人達の目はどこか血走っているようにチャイロには見えた。
「…お料理って本当はこうなの?」
「…違うよチャイロ。真似しなくて良いからね。あいつらは前に薪にすると家の柱を折ったり、まな板がいると一枚板の机をぶった切ったり屋敷をめちゃくちゃにしたからね」
だから家には上げたくないんだよ。すごく良い机だったのに…。と主人は珍しく愚痴っぽくこぼした。
「だいなみっくぼんばぁぁあ!」
雄叫びをあげて、面をつけた者が着火した。
ずどぉぉんと地響きをあげて火柱があがる。
音に驚いたチャイロは主人の腕の中でころりと気絶した。
目が覚めた時にはもう料理はほとんど出来上がっていた。
良い香りが、ぷんと漂う。
何故か主人ではなく心配そうに自分を見つめている山神と目があった。いつの間にやら山神の黒いもふもふとした毛の中に埋もれていた。
あんまり心配そうに見つめるので『あのだいなみっくぼんばぁぁあってのはちょっと格好良いよね?』等と言える雰囲気ではなかった。
言ってしまえば最後、やる気に満ち満ちた山神が屋敷をずどんと燃やしかねない。
「山神も一緒にごはん食べてく?泊まっていく?」
山神は黙ってこっくりと頷いた。年が明けようと暮れようと山神にあまり関係がなくチャイロが無事であればあとはどうでも良いのだ。
チャイロもまた、今日のご飯が美味しくて主人と山神が近くにいてくれればとりたてて何も言うことはないのだ。
チャイロの心のうちを知れば食事と自分どちらが大事なのかとかき口説いたかもしれないが。
酒と肴と愉快な仲間に囲まれて、ぬくぬくと包まれてチャイロは幸せだった。
「どっせぇーい」
「そいやー」
「うぇっしゃぁぁあ」
野太い叫びが冬空に響く。チャイロは尻尾をくるりと丸めて主人の腕と脇のあわさいに顔を突っ込んでいた。
大きな音や叫びが苦手なチャイロにとっては目の前で繰り広げられる事は自分に害が無いと知っても恐ろしかった。
主人の同僚という人達がぞろぞろと訪れたのだ。
異形の者、面をつけたもの、同じ顔をした者が二人、表情のまるで無い人形のような者、体が小山のように膨れ上がった厳つい男。
その面々を見て、主人は新しい着物の裾に泥がはねた時のような顔をした。
すなわち、いやだなぁという顔を。
「悪路、遠路をようこそおいでくださいましたと言わないか、三面」
主人はどーんと仁王立ちした。
「誰一人招いた覚えはないぞ、帰れ。それから三面と呼ぶな」
チャイロはうぬ?と目の玉をくるりとさせた。今の今まで主人の名前を知らなかったからだ。
「ぼたん鍋にしようと肉を持ってきた」
「魚と貝を少々」
「砂糖と」「蜂蜜だ」
「皆で喰う餅を用意したとも」
それぞれが荷を差し出した。厳つい男は黙って大きく重そうな酒樽を前に押し出した。
「ふむ、皆少しは学習したようだな。良いだろう」
良いだろうと言いながら主人は客人を家には入れずに庭に行かせた。
「おうちにいれてあげないの?」
チャイロは尋ねた。
「そうだ。チャイロも正月に家が壊れるのは嫌だろう?」
主人の言葉に首をかしげつつ暖かな屋敷が壊れるのは嫌なので頷いた。
何故か主人がそう言ったのかはすぐにわかった。
客人達は庭で勝手に料理を始めたのだ。
庭木が引き抜かれて薪にされ、どこから出したのかどでかい包丁が猪の首をはね、同じくどこに隠していたのか身の丈を超える魚が中空で捌かれ薄い石の上に並べられる。
その石も、もとは大きな庭石だったはずだが…。
刃物を構えた客人達の目はどこか血走っているようにチャイロには見えた。
「…お料理って本当はこうなの?」
「…違うよチャイロ。真似しなくて良いからね。あいつらは前に薪にすると家の柱を折ったり、まな板がいると一枚板の机をぶった切ったり屋敷をめちゃくちゃにしたからね」
だから家には上げたくないんだよ。すごく良い机だったのに…。と主人は珍しく愚痴っぽくこぼした。
「だいなみっくぼんばぁぁあ!」
雄叫びをあげて、面をつけた者が着火した。
ずどぉぉんと地響きをあげて火柱があがる。
音に驚いたチャイロは主人の腕の中でころりと気絶した。
目が覚めた時にはもう料理はほとんど出来上がっていた。
良い香りが、ぷんと漂う。
何故か主人ではなく心配そうに自分を見つめている山神と目があった。いつの間にやら山神の黒いもふもふとした毛の中に埋もれていた。
あんまり心配そうに見つめるので『あのだいなみっくぼんばぁぁあってのはちょっと格好良いよね?』等と言える雰囲気ではなかった。
言ってしまえば最後、やる気に満ち満ちた山神が屋敷をずどんと燃やしかねない。
「山神も一緒にごはん食べてく?泊まっていく?」
山神は黙ってこっくりと頷いた。年が明けようと暮れようと山神にあまり関係がなくチャイロが無事であればあとはどうでも良いのだ。
チャイロもまた、今日のご飯が美味しくて主人と山神が近くにいてくれればとりたてて何も言うことはないのだ。
チャイロの心のうちを知れば食事と自分どちらが大事なのかとかき口説いたかもしれないが。
酒と肴と愉快な仲間に囲まれて、ぬくぬくと包まれてチャイロは幸せだった。
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チャイロがとってもかわいいです。
山神は振られてかわいそうだけどしょうがないかなあ、ご主人エンドだなあと思っていたのですが、おや…?
作品登録しときますね(^^)
(๑´ω`๑)ノ登録ありがとうございまーす