7 / 20
あい
しおりを挟む「チャイロは愛されてたんだねぇ」
鍋に鶏つみれをそっと入れながら主人が言った。鉢の中の鶏の挽肉はぐちゃぐちゃで、狐であった頃は鶏肉などごちそうだったはずなのに、それを見ても一向に食欲がわかなかった。
ところが出し汁の入った鍋でくつくつ、ふつふつと煮上がったつみれを椀に入れられるとチャイロはよだれがでる。
今より前が愛されていたかどうかは、チャイロにはどうしようもない考えても仕方ないことに思えた。思い出したところで戻れない。しかもどうしてもそれを主人の口から聞くのか、それもチャイロには理解し難いことだった。チャイロがどうだったのか、主人が知るはずがないのだから。
そもそも愛というものが掴みどころが無くてチャイロには理解し難いものだった。
愛する、愛される、どちらも難しいもののように思える。
唯一わかるのは愛だけでは満腹にはなれないということだ。
「どうして愛されてたってわかるの?」
とりあえず尋ねてみると、主人は次のつみれを鍋につまみ入れながら、チャイロの足の間で大人しく伏せている白狐の仔を見下ろした。
まるで視線に追い立てられるかのように、きぃぁあんと鳴いて小さな鼻先をあぐらをかいたチャイロの膝裏に押し付けてしっぽをぷるぷると震わせる。どう見てもそこに隠れられる隙間はない。
「その白いのがねぇ、私に勝てないのを分かって何度でも向かって来たからね。チャイロを取り返したい一心で。邪魔だったけど、私はそういうのが嫌いじゃないんだよね。それに今もくっついて離れないだろう?身体が変わっても相手が分かるのは珍しいんだよ」
でもその身体と魂の結びつきが強くなるほど前の事は忘れてしまうから、もうその白狐の事をどう思っていたかチャイロは忘れてしまったかな?と聞かれた。
チャイロは答えに窮した。
覚えているような覚えていないような。ただ小さい姿は可愛く思えて、今もそうして白狐が怯えたように身体を震わせていると食事をするより、よしよしと撫でてしまう。
「チャイロはそのちびすけと山に戻りたいかい?」
「やだ、帰りたくない」
その言葉に誰よりも反応したのは白狐のほうだった。頭からしっぽまで毛が逆立ち二倍程に膨れた。ぎぃあゔゔと断末魔のような鳴き声でぐりぐりと頭をこすりつけてきた。
「鳴いても帰らないからな!」
チャイロは宣言し、主人が渡してくれる器にふぅふぅ息を吹きかけながらつみれをほおばる。山ではこんな食事もできないし。
「ちびすけ、お前が食べないんなら全部食べちゃうんだからな!」
主人が行った言葉を真似て白狐をちびすけと呼び、なんとなく違和感を感じながらもつみれに舌鼓を打つ。
帰らない。
帰らないぞ!絶対に。昔住んでいたのなら懐かしい気持ちが欠片でもあっても良いはずなのだが、火傷にも似たひりひりとした感じを押し殺しチャイロは食事をがっついた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説



例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる