きつねのこはかえりたくない

小目出鯛太郎

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あい

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「チャイロは愛されてたんだねぇ」


 鍋に鶏つみれをそっと入れながら主人が言った。鉢の中の鶏の挽肉はぐちゃぐちゃで、狐であった頃は鶏肉などごちそうだったはずなのに、それを見ても一向に食欲がわかなかった。
 ところが出し汁の入った鍋でくつくつ、ふつふつと煮上がったつみれを椀に入れられるとチャイロはよだれがでる。

 今より前が愛されていたかどうかは、チャイロにはどうしようもない考えても仕方ないことに思えた。思い出したところで戻れない。しかもどうしてもそれを主人の口から聞くのか、それもチャイロには理解し難いことだった。チャイロがどうだったのか、主人が知るはずがないのだから。


 そもそも愛というものが掴みどころが無くてチャイロには理解し難いものだった。
 愛する、愛される、どちらも難しいもののように思える。

 唯一わかるのは愛だけでは満腹にはなれないということだ。


「どうして愛されてたってわかるの?」
 とりあえず尋ねてみると、主人は次のつみれを鍋につまみ入れながら、チャイロの足の間で大人しく伏せている白狐の仔を見下ろした。


 まるで視線に追い立てられるかのように、きぃぁあんと鳴いて小さな鼻先をあぐらをかいたチャイロの膝裏に押し付けてしっぽをぷるぷると震わせる。どう見てもそこに隠れられる隙間はない。

「その白いのがねぇ、私に勝てないのを分かって何度でも向かって来たからね。チャイロを取り返したい一心で。邪魔だったけど、私はそういうのが嫌いじゃないんだよね。それに今もくっついて離れないだろう?身体が変わっても相手が分かるのは珍しいんだよ」

 でもその身体と魂の結びつきが強くなるほど前の事は忘れてしまうから、もうその白狐の事をどう思っていたかチャイロは忘れてしまったかな?と聞かれた。


 チャイロは答えに窮した。


 覚えているような覚えていないような。ただ小さい姿は可愛く思えて、今もそうして白狐が怯えたように身体を震わせていると食事をするより、よしよしと撫でてしまう。


「チャイロはそのちびすけと山に戻りたいかい?」
「やだ、帰りたくない」

 その言葉に誰よりも反応したのは白狐のほうだった。頭からしっぽまで毛が逆立ち二倍程に膨れた。ぎぃあゔゔと断末魔のような鳴き声でぐりぐりと頭をこすりつけてきた。

「鳴いても帰らないからな!」

 チャイロは宣言し、主人が渡してくれる器にふぅふぅ息を吹きかけながらつみれをほおばる。山ではこんな食事もできないし。

「ちびすけ、お前が食べないんなら全部食べちゃうんだからな!」
 主人が行った言葉を真似て白狐をちびすけと呼び、なんとなく違和感を感じながらもつみれに舌鼓を打つ。

 帰らない。
 帰らないぞ!絶対に。昔住んでいたのなら懐かしい気持ちが欠片でもあっても良いはずなのだが、火傷にも似たひりひりとした感じを押し殺しチャイロは食事をがっついた。
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