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業の国

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 こがらしは、びちびちとのたうった。陸に釣り上げられた若鮎の如く転げまわり、顔を覆い、時に目を覆い、耳を塞いだ。
 
 恥ずかしさに身悶える。
 目を閉じても耳を塞いでもあまりに距離が近すぎて、二人に干渉できぬ身では終わるまで中空を転げまわっているしかなかった。

 凩が漂う下では武器屋のおやじと少年が互いを求めあっていた。

 
 凩は熱波しむんと束風が交わるのを見た時も羞恥でどうにかなりそうだったが、アディムとクルスの交わりはそこから離れることもできないために非常に生々しく、見てはいけないと思うが見えてしまうし、見てしまう。
 クルスの甘く高い喘ぎなど、耳を押えても聞こえてしまい、この声が聞こえる時はクルスが絶頂間近でアディムが遮二無二腰を振っている時だ…などと分かってしまう。びたんびたんと肉を穿つ音まで間に響く。アディムは確かに太っているが、竜の肝を塗りつけずとも十分な大きさの男根を持ち、塗った後は黒い棍棒のようなそれでクルスが求めるままに貫いた。

 
 おかしい。

 凩は転げまわる。

 この武器屋のおやじの口八丁手八丁嘘八百で結局はクルスが、ズオルトに乱暴され、アディムに手籠めにされたようにしか思えないのだが、当のクルスは今は仔猫のようにアディムに甘え、抱いてくれと求めている。


 凩は闘技場に二人が向かう前に一度このくそおやじ、クルスから離れろと拳で背中を叩いたこともあったのだが、二人が求めあっているのならば凩がなんら邪魔をすることもない。




 ただ、クルスの近くから物理的に離れられず、言うならばずっと間近で覗きを強制されるようなものだった。



 ただそうして近くにいると、アディムの目つきがまるで違うことに気がついてしまう。

 小狡く、いやらしく、少年を前にしても頭の奥で算盤と金貨を数えていそうな目つきだったのに、今はもう愛おしくてならぬ者を見る蕩ける目をしていた。
 瞬きをするのも惜しいような顔で、クルスが眠った時もずっと愛おし気に見つめている。

 この目つきだけは誤魔化しのきかぬもののように、凩には思えた。

 熱波しむんが束風をを見つめるのとまるで同じ目つきだった。目が片時も離れたくないと訴えている。どうして一つになることが出来ぬかと悩んでいる。今日も明日もそのずっと先まで夢想して、まだ起こってもいない未来の二人の姿を狂おしく想像している、そんな目だった。


 クルスが小さくなって、自分は王様の玩具おもちゃにされてもてあそばれ、男に抱かれて喜ぶ身体にされ去勢されてしまったこと。その乱れた心の平静を保つために闘技場で男らしい騎士を応援していたことをたどたどしく語り、自分の心を守るために男らしい鎧を買ってもいいか?とアディムに尋ねるの聞いて凩はせつなくなった。
 
 そして男であり続けようとするのに体が疼いてしまい、そんな僕でも抱いてくれる?と不安げに視線を揺らすクルスを見て胸が苦しくなった。


 だからアディムがその全てを受け入れて、ずっとここにいてくれ、ずっと抱きしめさせてくれとクルスを抱きしめる姿を見てほっとした。


 クルスが身につけたら似合いそうな、異国の王子が着るようなの銀色の素敵な鎧があったはずだから身体にあわせてみれば良いし、気に入らなければどんな物でも取り寄せるし、それでも気に入らなければ絵を描いて思い通りの物を作らせるとも…アディムはそう言ってクルスの額や瞼に口づけをして、あとはお決まりというかこれぞ竜の肝のなせるわざとでもいうのか、二人はまた凩の存在に気が付くこともなく抱き合い始めた。


 凩に出来る事と言えば、もう!もう!と言いながら二人が疲れて眠りに落ちるのを待つことだけだった。


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