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7話 ダンジョンですよぅ
しおりを挟むあばばばばばば。やべべべべべ。絶叫のバリエーションなんて増えなくていぃぃひぃー!
死んでた、今魔王が側にいなかったら内蔵ぶちまけて死んでたよ。
洞穴にちっちゃい羽虫とかいてもおかしくないだろ?それがむわって集まってる場所があって暗いからよく見えなくて。羽虫が目鼻にぶつかってくるから目ぇ閉じるし払おうと顔の前で手ぇ振るじゃん。そしたらいきなり天井からスイングする大鎌が!
魔王にぷらりんこされて回避。
大鎌のサイズが半端ない。殺る気満載だ。
『よもやダンジョン入り口で新鮮モツパーティーを行おうなどと粋な計らいを…』
しねぇから!
白モツ好きだけど喰えなくなるじゃん。次は羽虫に注意しようって思って魔王から特別に松明出してもらった。何気に便利だな、魔王。
次に羽虫が出たら焼き払ってやる!なんて息巻いていたら、羽虫いたよ。
俺が羽虫ファイヤー!!なんて松明を勢い良く近づけたら、奴ら焼夷弾よろしく弾けて燃えながら落ちてきた。
俺の髪が、髪に火が。
「アチャチャチャチャチャチャッ」
台詞はホクトなのに髪型がボーボボになる。
『…ティンよ最近流行りの謎解き主人公が丁度お前のような髪型をしていたぞ』
やめろ、魔王がトレンド語るな…。
あぁ俺の髪が…激しくボロボロのちりちりになってる。
( ´•̥ω•̥` )ユーヴュラが撫でてくれた髪が。俺がちょっとめそっと萎れてしまうと魔王は仕方のない奴め、と俺の髪を治してくれた。
え、魔王…。
蘇る俺の髪。
お前息するように凄いことしてないか?ハンドパワーにスーパーミノキシジルEX配合かよ。全ワールドの抜け毛と戦う戦士とハゲに泣いた歴戦の男達の救世主になれるんじゃないか。潤艶サラ髪を求める傷んだ髪の乙女からも崇拝されちゃうんじゃない?
『…面倒くさいことを申すな』
…む、確かに。一人二人じゃないもんな。でも後でやり方習っておこう。教えてくれたらだけど。
気を取り直して足を踏み出した先の床が踏み抜けてしまい、落とし穴が出現する。
魔王の手が俺の襟首を掴んでいた。ぷ、プリーズぷらりんこフォーエバー…。足元からは冷たい風が吹き上がりその先は暗黒に染まり全く見えなかった。
「こ、これ落ちたらどうなるの…?」
『恐らく登攀具を持った熟練者でなければ登れないだろうな。落ちれば即死の可能性が高い。仮に生きていたとしても手足の骨を折っているのではないかな。ティンティンが落ちたとすると天井からプリンを落とした時のようにこう、くちゃっと…』
いゃぁぁぁぁ。やめて。そんな具体的な表現怖いからやめて。ていうかダンジョン怖い。これ俺のダンジョンなの?怖いよ。
登攀具がどんなものか良くわかんないけど、俺はそんなものよりハンバーグ弁当でも持って野原にピクニックが良いよ。ダンジョン攻略しようって思っている奴等の気がしれない。
『そこはな、ティンティン、ダンジョンで見つけたお宝で一攫千金を夢見たり、制圧することで世界に名声を広めたりと、だいたいが富と名声目的が多いな。だが最も厄介なのはそんな者達よりも命の駆け引きを楽しみたいと云うような中毒者だぞ』
えー。そういう中毒者がうちに来ませんように。俺が手を合わせて祈っていると魔王は呆れたように俺を見おろした。何か言いたそうだけど、俺から突くのはやめておこう。
魔王にプラリンハンガーされながらダンジョン見学は進んだ。
一面が湖みたいなフロアもあって俺はダンジョンの不思議に驚きの連発だよ。これより下の階が水浸しにならないのかな。湖の縁には古びて錆た剣や半壊した鎧、なんだかわからない雑貨が沈んでいる。
え。
俺のダンジョンって死者いないはずなんじゃ?それなのにもう何十年も放置され続けた感がある。
どういうこと?誰の?
『あれはお前の男が廃棄した装備だ。ここは一見普通の湖に見えるだろう。事実大半は普通の水だ。ティンティンこの水、お前なら飲めるか?』
ユーヴュラのアレをたくさんごっくんした俺も、流石にこの水はちょっと…。うぎゃ!尻をつねるのやめてぇ。
『冒険者がここにたどり着いてもこの水を飲みたいとは思わないだろうな。まぁ、この水には粘性酸が大量に沈んでいる。普通の水だと思って足を踏み入れ、粘性酸を踏むと装備も溶けるし運が悪ければ肉も溶ける。所々飛び石のように水面すれすれに見えているような場所は幾つかは普通の石だ。だが残りは粘性酸がまとわりついていたり、踏むと石槍が飛び出るぞ。この湖がひき肉入り肉汁酸辣湯になる日が来るかな、ははは』
ヒッ
魔王様離さないで。俺はセミよろしく魔王にしがみついた。湖には指輪や短剣なんかも沈んでいるんだけど、欲目をかいてあれを取ろうとするとじゅわーっと溶けちゃうとか…。ユーヴュラさん怖いよ、俺泣いちゃうよ。
『この湖を過ぎると、岩壁から清水が湧き出る場所がある。行くぞ』
魔王は歩かなくても飛べるからガイドには最適だった。次におろしてもらえた場所は安全地帯なのかどこかほんわかした雰囲気がある。地底のはずなのに木漏れ日が射したような光があり温室みたいに暖かでたくさんの草花が生えていた。楚々とした感じの白い花や人目を惹きそうな赤い花弁の連なった花も咲いている。なんだっけグラジオラスだっけ。
壁からは魔王が言ったようにさらさらと清水が湧いていた。
『飲んでも良いぞ』
叫んだり驚いたりで喉もぴりぴりするし、魔王が飲んでも良いっていうなら安全なんだろって俺は湧き出る清水に手を差し入れた。ひんやり冷たい。そして澄んでいる。
あらまぁ水には味なんてないだろうって思ってたけど美味しくてごくごくいけちゃいますよ。
一服して周囲に目をやると草陰にはキノコが生えているし。別の葉っぱの下には苺っぽい果実も見えた。
「ここは冒険者にとっとての安全地帯?」
よく漫画や小説とかだとダンジョンには魔物が襲撃して来ないスペースがあったりする。
俺のダンジョンは魔物いないから罠さえ無ければどこも安全かもしんないけどさ。
『安全地帯?あの男が冒険者のためにそんな場所を設けると思うか?』
え。
うう。
ユーヴュラだったら、冒険者がダンジョン制圧できないように色んな罠を張り巡らしそうだね。でもここに罠らしい罠らしいなんて見当たらない。
もし俺が冒険者だったら、困る事ってなんだ?
もしかしてあのキノコや苺はみんな毒で食べられないとか?ううんでも俺みたいな初心者が思いつくくらいだからもっと別にあるのか?
魔王は彫塑のようなすまし顔で俺を見ている。
うーん、わかんない、あんさーぷりーず。
『ダンジョンを探検して疲れた体に一時の安らぎを。発案は故:熟練冒険者ユーヴュラが提供と解説は魔王が行っています。清らかで冷たく、そしてほんのり甘いような喉元を通り過ぎるとハーブのような爽やかさがありまろやかで美味な水。地上でも銘水100選に推薦されそうな透明度。だがしかし強烈な緩下作用がありしばらくすると腹が痙攣し驚きの開放感があなたを襲います。大自然の扉を開けてgo and release』
ヒィ
チョトマッテ
ナンデナンデノンデカライウノ?
きゅっきゅっ、きゅるるんとお腹が可愛く鳴った。俺は腹でペットでも飼っていただろうか。いや、いない。きっと腹の中で元気なイルカを飼ったらこうなるんじゃないかって、きゅるるぴろろろって愛らしい音と、頭突きか尾びれで殴られたような衝撃が腹に!強烈すとまっくえいく!!ストマックは胃?腸は何ていうのぉ…。
ぶっふぉって口ではない場所からガスが抜け出た気がした。頑張れ俺の括約筋。ちょっと大活躍してくれぇ!!
俺は跳躍した。草陰に飛び込んだ。跳躍したと思っているのは俺だけで、へにょへにょ座り込んだように見えただろう。良いんだ!誰もいないんだから!!
イソガナイト
ンコマミレニナッチャウ
リリースリリーススーパーリリース
俺は肩で息をしていた。尻を拭く葉っぱがソフトな感触だったことだけが救いだった。これでヤスリみたいなのだったら泣いてたよ。
『はははヤスリか、それは良いな』
魔王は笑っている。コンチクシヨー
冒険者の装備がどれぐらいのものなのかはわかんないけど、湖で水の補給をしなかったらこっちで飲んじゃうかもしれないよな。冒険者の探求心がまみれになって(ならなくても)冒険意欲が削がれますように…。
俺の意欲は削げていたけれど魔王に連れ回されてダンジョン探索はまだまだ続いた。
壁を破壊しなければ出られない迷路だとか、ぬるぬるべとついてしかも臭い階だとか、針山を苦労して避けてたどり着いた場所にある宝箱(見かけはちょっと格好良い)が中身が空っぽだとか。
障害物や噴出されたり落下物を避けた足元の床がスイッチになって壁から更に刃物が飛び出したり、壁が崩れたり。
怖いのは崩れた壁がぐずぐず這い回ると生き物のように復元していく様子だった。キモいよー。
『お前が元気で生きていればダンジョンの内部は壊れても再生していく。捧魂も多かったからな』
ううん…。でもやっぱりダンジョンの中で冒険者に死んで欲しくないなぁって思っちゃう。強くなれなくても、ひっそりこの街でやっていくのはだめなのかなぁ…。
『もっと拡張してもらわなければならないぞ。ダンジョンに入居したいという者が多くてな。古参のミノタとケンタは必ず入植するし。その他も先日抽選を行ったばかりだぞ。しかもこちらに無断で先発隊が既に街の表層部に住んでいるという話だ』
え!?ミノタさんとケンタさんて誰よ。カースみたいな奴だったらいやだなぁ。
…って違う違う。
いつの間にそんな事になってるの。俺に無断で。
『無断も何も、お前は私のダンジョンだぞ』
…は?
…ほへ!?
え、どういうこと?俺って魔王の所有物なの?ご無体なことをされちゃっても逆らえないのはそのせい?ツーカーなのもそのせい?
『そういうことだ』
魔王は当然って顔で頷いた。
ショック。
ガーンって音が反響し不快和音で部屋に響いた。嫌、怖いよなにこれ。何かわかんないものが不規則に壁から打ち出されている。蔦?
『あれは削岩草といってな、本来なら岩の割れ目に生息する岩割草の亜種だ。普通は締め付けられると種を飛ばすのだが、ダンジョン化して岩を飛ばすようになった。なかなか上手く生息しているようだ。侵入者はあの岩の飛び交う間を行かねばならないからな。まぁ人間にとっては難儀だろうな』
それ、と魔王はどこからか出した鎧を中空に投げた。ズガン、バゴン、ドオッコンと岩石が鎧をぶち抜く。ねぇあれは紙製の鎧ですか?チガイマスヨネー
地面を這って行ったとしても、上から割れた岩石が降り注ぐし、何やら地面からにゅるにゅると伸びた触手めいた緑色の蔦が現れる。そしてぼろぼろになった鎧を絡め取って地中に引き込んでいった。
『植物だがなかなかに賢いぞ。餌も自分で取れるようだし。ティンティンはこれ以上近づくな、種付けされるからな』
ヒィィィィィ!?
またしても俺は魔王にしがみついた。やべぇ手ぇ洗ってない!
魔王はにっこりと微笑んだ。
『ははは後でまとめてお仕置きだ』
俺の受難は続くようだった。
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