BL短編

小目出鯛太郎

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BL 高校 青春もの? 片想い

神様は死ぬべきだ④

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 楽しければ良いよねって部活のプレイスタイルは俺達が2年になると突如終わりを告げてしまった。

 弱小バスケ部に入部してきた1年達がめちゃめちゃ強かったからだ。

 小学校からプレイしていて、中学ではセンターやってましたってのが2人どちらも身長が180超えている。

 それから中学は4番やってましたっていう早崎がパスもシュートも上手い。下手したら3年より上手い。しかもセンター以外ならどのポジションでもいけますなんて豪語する。

 なんて言えばいいのか、いきなりポジション争いの戦国時代になった気分だった。

 朝練行って、昼飯がつ喰いして昼休みもギリギリまでバスケして、授業終わるなりまた体育館に走る。
 1年の方が体育館に近いとかクソだわ。

 自分より背の高い1年に両脇挟まれて着替えとかますますクソだわ。
 1年の早崎と4番争いするなんて最高にクソでムカツク。上手いやつとプレイできるって言う楽しさもある反面イライラした。去年真剣にやらなかったことを後悔した。


 菜々がマネージャーを辞めると申し出たのはそんな夏前だった。
 1年の女子マネが4人もいるから、人数的には問題ない。2年もまだ2人残ってるし。


「菜々、なんでやめんの?」
 ショックだった。辞めるとか事前に何にも聞いてなかった。

「もとっちごめんね。あたしやっぱり4年制の看護学科ある所行きたくて。それだともっと真剣に勉強しないとやばいというか、やばすぎなんだよね」

「部活途中でやめたら内申響くだろう?いいのかよ」

 菜々は困ったように微笑んだ。
「内申って、受かる前提のある程度成績良い人の判断材料であってセンターに関係ないじゃない?」


 オレは菜々に辞めて欲しくなかった。
 好きだし。

 菜々が応援してくれるから頑張れたってのもあった。しかも2年の今はクラスが違うから部活を辞められてしまうとますます会えなくなってしまう。
 帰りだって送ってやれなくなる。

 菜々とは道の反対の三軒隣だから部活が遅くなると一緒に帰ってたんだ。1年にさんざん彼女ですか?仲良くて羨ましいとかなんて冷やかされながら。


 菜々はあっさりマネージャーを辞めてしまった。監督としても20時過ぎまで女子高生を部活で引き止めて、暗い夜道を自転車で帰すのは問題だと思っていたらしい。試合や練習の終わりが21時近くになることは日常茶飯事になり保護者からも苦情が出ていたらしかった。


 どれだけでも、どこにでも送っていくのに。
 でもオレも菜々よりバスケを選んでしまった。

 オレが焦ったのは夏を過ぎて、菜々が隼人と一緒に帰る後ろ姿を見てしまったからだ。

 心臓がバクバクした。
 シュートを外しちゃいけない時にミスったみたいに、額に汗がにじんだ。

 オレ達が1年の時は一緒に帰ったりした。
 隼人は幼稚園からの1番の友達だった。3人でイオン行くのもコンビニやマックで買い食いするのも一緒だった。それが2年になってからは隼人の顔も見ていなかった。

 クラスが違うせいもあるけど、オレはバスケに夢中であいつらが二人で帰ったりしてるなんて思いもしなかった。

 小さい頃からずっと、隼人が菜々を好きなそぶりなんてなかった。
 でも菜々が隼人を好きなのは、鈍いオレだって分かった。

 オレが隼人に勝てる要素なんて身長と体重ぐらいで他はみんな負けてる気がする。
 でも。

 でも隼人はいつだってオレの見方をしてくれる。オレを尊重してくれる。声をかけたらいつだって来てくれるし、困ったら助けてくれる。
 隼人が菜々に気がないなら、菜々と付き合わないでくれって言えば絶対聞いてくれるはずだ。
 オレは信じて疑わなかった。

 学校でそれを言えなくて、どこか行こうと闇雲に自転車を走らせる。オレの後ろを隼人は黙ってついてくる。少し不安になって振り返ると、どうした?って微笑む。
 ちくしょう。綺麗な顔しやがって。
 菜々の好きな顔だ。菜々だけじゃなくて、大半の女子が好きそうな顔だ。

 一見冷たくて高慢そうに見える時もあるのに、おどけたり下品なツッコミを入れたり外見を裏切ってる所がある。こいつが笑うと、女子が夢中になる理由がわかる。やっぱり綺麗だからだ。
 オレがどんなに頑張っても菜々が好きそうなああいう王子様系にはなれない。
 近所の床屋をやめて美容室に行って髪型を変えても、眉を整えても、所詮スッキリしましたね、ぐらいの評価なんだ。

 オレの清水から飛び降りるような気持ちの頼み事を、隼人は何でもないように聞いてくれた。

 面倒くさいな、おまえジュース奢れよって。

 …対価がジュースかよ。喜んで良いのか怒って良いのかわからない複雑な気持ちだった。
 オレは菜々のためだった何でもする!なんて思ったけど。
 隼人にとってそんな価値しかないんだ。
 胸の中がもやもやした。



 だから隼人が事故ったって聞いた時も驚きはしたけど、特にどうと言うこともなかった。あ、可哀想くらいは思ったかもしれない。これで隼人が菜々と一緒に帰るとかないなーナイス隼人とか思った。

 菜々が隼人のお見舞いに行かないかって言って来た時はちょうど校外試合のポジション争いの真っ只中で、オレは菜々の申し出を断った。もしかしたら見舞いじゃなくて映画見に行こうと言われてもその時は断ったと思う。4番を早崎に取られるかもしれないと思うと気が気じゃなかった。他のポジションでもプレイできるなら、他を狙ってくれよとオレは自分のことばかりにかまけて、周りのことなど何にも見えていなかった。


 だから、次に菜々に誘われて隼人の見舞いに行った時にようやく菜々が道中沈んでいた理由がわかった。

 隼人はオレの顔を見て不思議そうにした。
「こんにちは?」

 いつもの隼人なら「ちっすもとひら元気?」とか「よー菜々と一緒にデートかよ」ぐらいは言うはずだった。

「あの、君、菜々ちゃんの友達?」
 隼人の大根役者ぶりにオレは笑った。菜々ちゃんってなんだよ。しかも『君』とか。二人でオレをからかおうとしているに違いなかった。病院は退屈そうだし。

「ねぇ隼人、基衡もとひらだよ」

 菜々はベッドの横の棚に平積みされた古いアルバム一冊手に取ると開いた。
 アルバムとかどれだけ古いんだよとオレは笑いそうになったんだけど。なんか変だった。コントにしてはおかしい。

 隼人はアルバムの写真を凝視していた。
 多分小学校の遠足かなにかの写真で、女の子みたいな隼人はでっかいおにぎりを掴んで笑い、オレは両手に箸を一本ずつ持って片方に卵焼き、片方にウィンナーを刺して満面笑顔だった。そして怪獣みたいなポーズでそれを食べようとする菜々が変な顔で写っている。

「こっちはどうかな?覚えてない?」

 覚えてない?ってなんだよ。隼人はまた俯いたまま菜々がめくったページの写真を眺めていた。
 長い前髪が影を作って顔を隠す。

 菜々が指した写真はこれは小学校の学校祭の写真で、オレと隼人は二人で一体の馬をやると言う人気のない役だった。間抜けな顔の馬面を被った隼人と胴体部分の派手な鞍を背中にくくりつけた茶色い衣装のオレ達は屈託なく笑っていた。
 これはオレの母さんと隼人の母さんが張り切って馬衣装を作って、大好評のやつだった。

 隼人は顔を上げてオレを見た。
「…これ?似てないよね」

 隼人は写真とオレの顔を何度も見比べた。

「基衡がでかくなりすぎたんだよね、じゃぁこれは?」
 菜々はアルバムではなくて携帯を差し出した。その画面は高校に入学した時のオレ達だった。菜々は変顔なんかしていなかった。可愛かった。むしろおどけた表情をしていたのは隼人で、オレは似合わないキメ顔を晒していた。
 恥ずかしい。

「これ、オレだね?」
なんで隼人の口調が疑問系なんだ?
誰がどう見たって写っているのはオレ達3人だった。


 隼人は画面を見て首を横に振った。


 オレは二人が何をしたいのかさっぱりわからなかった。笑えないし。どっちも笑ってないし。

「もう、そういう冗談は良いから。隼人は怪我どうなの?退院までまだかかるわけ?」

 隼人はまた不思議そうな顔をして、菜々の様子を伺った。
 菜々は泣きそうな顔をしていた。

「ねぇ隼人。基衡のことも覚えてない?あたし達幼馴染なんだよ、基衡は幼稚園の時からずっと隼人と一緒だったんだよ」

 一瞬オレは菜々が何を言っているのか分からなかった。
 冗談かコントだとしたら、菜々は日本女優なんとか賞を取れたかもしれない。

「菜々ちゃん、ごめんね。来てくれた君もごめんね。なんかうまく思い出せなくて俺のせいで時間無駄にさせちゃって」

 え。
 来てくれた君ってなんだよ。思い出せないってなんだよ。
 オレの口がぱくぱくと金魚みたいに震えた。

「あのさ、君、嫌じゃなかったら足に何か書いていってくれる?」

 隼人が差し出したマジックをオレは受け取る。
 菜々はでくのぼうみたいなオレを肘打ちした。

 白いギプスには下手くそなうさぎの絵と、ページを開いた本の絵の横にながちんと書いてあった。オレはぎこぎことバスケットボールを描いて、それから小首を傾げてオレを見ている隼人と目が合った。

 知らない奴みたいだった。

 隼人は。
 オレの知っている隼人は目が合うとすぐに笑って、目が細くなったり、三日月みたいになったり、でっかい目をまん丸にしたり、口だってハンバーガーを丸齧りしてやるって大口開けたり、げらげら笑ったり、優しく閉じていたり、こんな無表情な人形みたいにオレを見る隼人を知らなかった。

 早く良くなれよ!って書いて怖くなった。

 菜々から押し出されるみたいに病室を出されて、病院を出て、しばらく並んで自転車を押した。

「隼人は、覚えてることもあるけどあたしのこともお母さんのこともわからなかったりして…でも同じクラスの長門君とか覚えてる事もあったりして…」
 道すがらぽつぽつ菜々が話してくれた。

 
『記憶障害』

 今の隼人の中にはオレの記憶がない。そんなバカなことがあるのかよ。
 でもあの顔。知らない人見るみたいな他所行きみたいな顔。

 それになんで。ずっと一緒だった菜々やオレのことを覚えていないくせに。長門って、ながちんってなんだよ。

 オレが部活にかまけて見舞いに来れなかったせいもあるけど。
 オレは悔やんだ。


 菜々とまた一緒にお見舞いに行った。その日の隼人は少し具合が悪そうで途中で隼人は横になってしまった。


 菜々が看護師を呼んで、オレ達は病室から追い出された。
 部活と友達と天秤にかけてどちらも大きくオレを揺さぶる。




 病院は退屈だろうから、漫画の週刊誌をコンビニで買って、菜々には黙って病院に行った。

「ぎゃー俺まだ読んでないからネタバレダメ絶対、やったらながちん許さねーからな」
 病室からは明るい笑い声が聞こえた。だれか先客があるみたいだった。

「どーしよっかなー。今回は神回よ?絶対絶叫するぜ、なんせ」
「あー言うな!ダメ!面白さが減る!ダメダメダメ」

 ぎゃあぎゃあと病院に似つかわしくない声だった。相部屋なら絶対に注意されている。でもそれはいつもの隼人の声だった。話し方だった。記憶障害とやらが良くなったのかもしれない。良かった。


 横開きの戸を開けた時、隼人はオレを見てまぶたをぱちぱちさせた。
「あれ、こんにちは?」

 笑い声は消えて、知らない人を見るようにオレを見た。
 座っているのは同じ学校の制服姿の奴だった。

「これ、見舞いに」
 オレは漫画を突き出す。受け取ったのは隼人じゃなくて座っている奴だった。届かないからな。

「今日は元気そうだな。顔見に来ただけだし帰るわ。またな」
 その場にいられなかった。オレは逃げるようにして病室から離れた。



 なんなんだ、これ。
 どうすれば良いんだ。

 別に隼人なんて、幼馴染なだけで、それだけのはずなのに。
 他人のように接せられてオレはショックだったし傷ついていた。

 怪我のせいだから仕方ない。いつか良くなるはずだ。
 でも、いつかっていつだよ。

 オレのことを知らない風に見たあの他人の顔。嫌だ。


 どうして良いか本当にわからなかった。こんな事に心を割いている余裕なんてないのに。バスケのポジションを1年坊主に取られそうなのに。頑張れよって言ってくれる奴もいない。

 自転車を漕ぎながら、オレは心の中で叫んだ。
 
 神様。

 神頼みしかなかった。どの神様に祈ってるのかもわからないのに。
 助けてと思った。

 
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