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72. 異世界5日目

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 朝目覚めると、曇り空だった。

 昨晩はルーカスは結局帰って来ることはなく、夜のイチャコラタイムがなかったせいで少し寂しかった望である。



×××



「今日は曇り空なのね」

「はい」


 何故かミミが落ち着かない様子で、窓の外に視線を向けた。


「ひょっとすると、嵐になるかもしれません」

「え?」

「この国は基本的に晴れる日が多く雨が降るのは決まった時期だけなのです。でも今は雨の時期ではありませんので」

「前に聞いた、悪天候ってやつかしら?」

「はい」


 ミミの三角の耳がペタリと頭にくっついていた。


 今日選んだ服はルーカスの髪の色、健一の色でもある黒いワンピース。

 1番魔女らしいと自負している。



×××



 「よう!おはようさん。昨日はお疲れ!」


 カインが涼子と共にリビングのソファーに座っていた。


「おはようございます。カインさん早いね? それと昨日のこと知ってるのね」

「ああ。話はリョーコから聞いた。あの坊ちゃんは昔から小侯爵を目の敵にしてたからなあ。有名すぎて今更だが・・・。あと今日は荒れそうだから早めに来てリョーコの指導の仕上げをしたいんだ」

「なんだって~・・・ぶっつけ本番らしいよ」


 どうやら神殿でも今朝はおかしいと、おじいちゃん神官長が朝から言い出したらしく、彼も早めに来てくれたらしい。

 おじいちゃん予報はハズレないんだとか。年の功?


「実際には何があるんでしょう?」

「分からん。ただの雨の時もあるし、雪が降ったりあられが降ったり。それならまだいいが岩とかな。最悪なのは魔物だ」

「ああ、ゴーレム?」

「そうだな。他にも色々だ。練習したんだろう?」

「うん過去に落ちてきたってのを色々魔法でノワール王子が見せてくれたのを始末してみた」

「そうか・・・その部分は望に任せるしか無いから頼んだぞ」


 カインは涼子の頭をポンポンとして


「その後の浄化と『固定』がリョーコの分野だ頑張れ」

「・・・うん。やってみる」


 涼子も緊張しているのか、いつもの元気がないな、と心配になる。

 望も緊張していないと言えば嘘になる。


「涼子ちゃん一緒に頑張ろうね」

「うん・・・多分、大丈夫!」


 涼子は笑顔を見せてはくれたが、正直お互いに不安は拭えなかった。



×××



 ノックをしてドアを開けて現れたのはルーカスだった。


「望! ただいま。遅くなった」

「おかえりなさい」


 そのままソファーに座る望の頬にキスをする。

「空がヤバそうなんで慌てて帰って来た」

「・・・もう!」


 多分昨日の騎士服のなのだろう。いつもの隙のなさが無く襟元も開いたままだ。

 やはり10年の異世界暮らしがキャリアになったんだろうか? 人前でサラッとキスをされることが多い気がする。

 嬉しくないわけでは無いのだが、微妙である。


「よう。小侯爵。相変わらずだな。冷血騎士は何処に行ったんだ?」


 呆れ顔で挨拶するカイン。


「カイン殿、その渾名はこの間知ったばかりだ。女性に冷たいのが理由らしいが。確かに望以外に興味はないから付けられても不思議はないがな。取り敢えず来てくれてありがたい」


 2人が握手しながらする会話で望の微妙な心持ちはどこかに行ってしまい、代わりに耳まで真っ赤になった。

「まーな。俺がリョーコのパートナーだし。聖魔術はコツが掴めるのに時間が掛かるしなぁ・・・」

「そうだな」

「ねえ、パートナーが一緒だと何か変わるの?」


 何となく『パートナー』という言葉が引っかかった。


「ん? まあ、『パートナー』が一緒だと魔力が安定するんだよ。夫婦仲がいい、とか恋人同士とか。魔術精度も上がる。友人同士でも上がるがな。多分信頼度とか安心感に比例するんだろうって言われてる」


カインの言葉に頷くルーカス健一


「ふうん・・・でもわかる気がするね」

「うん。気持ちが安定するからかなぁ」


 女性は『何となく』が解る生き物である・・・。


 朝食が運ばれて、カイン以外は食事をした。

 彼は神殿済ませて来たのだという。


「雨じゃないな。周りにある魔力がやたら濃くなってきた」


 カインの言葉で、メイドのミミとルルの顔色が良くないことに、望は気がついた。


「2人とも顔色が悪いわ?」

「私どもは魔力が少ないのです。お気になさらないでくださいませ」


 2人はニコリと笑っているが顔色も悪いし、耳が下っている・・・?


 望は心配になってきた・・・


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