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48. 青い薔薇
しおりを挟む「う~わ! ナニコレ?」
望の部屋にやって来た涼子が目を丸くする。
「え、何って裁縫?」
ベッドに座り、空中で踊るようにドレスをワンピースに仕立て直すハサミと針を眺めていた望が答えると、彼女は呆れ顔になった。
「まるでディズニーアニメだよ」
「そ~ね。イメージ参考にはしてる」
「服のデザイナーさん呼ぶ必要あるの?」
「えー、でも下着がないのよねえ。後ブラウスとかパンツも欲しいのよ」
望が異世界に来た時に身に着けていた服は、春物のコート、ボトルネックの薄手のセーター、デニムのクロップドパンツだった。後はブラやショーツ、キャミソールとハイヒールくらいのもので着替えは一切無い。
今はサテン地のガウン――借り物でパジャマに使っているヤツだ。
「成程。手荷物には着替えを全然入れて無かったんだね」
「そうなの。畳むと小さくなるスポーツブラ系だと直ぐに駄目になっちゃうの。だから下着も上着も手荷物には全然入れてなかったのよね。服や下着は飛行機事故と共に、おじゃんでしょうね」
「そっかーじゃあ、当然作るか買うしか無いよね」
「そうなの。涼子ちゃんは何で手荷物に着替えがあったの?」
「ああ、アレが私の荷物全部だから」
「え。海外旅行なのに?」
「だってさおばあちゃんちに何でも揃ってるからさあ数日分の着替えだけでいいもん」
「ああ。里帰りみたいな感じだもんね」
「そー。当分は○ニクロで上等! あ、帽子も作り出した!」
喋る2人を他所に、ハサミ達裁縫道具は黙々と仕事を熟す。
「ワンピースとおそろいで魔女帽も作っとこうと思って」
「極めるねえ・・・黒い服だとますます魔女だね」
「必須でしょ?」
「正装だもんね」
「当然よ」
2人の会話をメイドのミミが首を傾げたまま聞いていた。
×××
「で~きた」
黒、ブルーグレー、ディープブルーの3着のワンピースはそれぞれAライン、マーメイドライン、ペンシルラインのワンピースに仕立てた。
全て上半身がスッキリしたデザインで、ウェストラインから下はパニエのお世話には一切なりませんという宣言をしたようなドレスである。
「うん。完璧ね」
「徹底的にボディス系のお世話にならない意気込みを感じるね~」
望のベッドに寝転がって、宙に浮くワンピースを眺めていた涼子がボソリと呟いた。
「だってこの世界のドレスって昨日見た限り如何にもお姫様って感じのやつばっかりでしょ?」
「そうだねえ。皆が皆、ばっふんばっふんだった。デカイおばちゃんとかヤバかったよ」
後ろに控えるミミがますます首を傾げている。
「困るのは、背中にファスナーがなくってぜーんぶクルミボタンなのよねアレ何とかしたいわファスナーが欲しい」
「望さんなら魔法で何とでもしそうだよ」
「考えてみるわ」
苦笑いの望だった。
×××
黒いAラインのワンピースに着替えて、大きな鍔の魔女の帽子にはルーカスに贈られたブローチを着けた。
赤と金色の装飾が良く目立って綺麗だった。
靴は相も変わらず赤いハイヒールだ。
「どっかに濃い青色入れなくちゃ駄目なんじゃないの~?」
ニヤニヤ笑う涼子はハイネックの黒いスウェット生地のシャツに、膝下丈のブラウンカラーのクロップドパンツを履いているだけだが背が高くスタイルがいい上に顔も小さめで、まるでファッションモデルのようだ。
「え。いやでも、勝手に使っちゃ・・・」
「恥ずかしがって待ってるだけじゃ駄目だよー」
「うう・・・」
突然『パンッ!』とミミが手を打ち鳴らして、
「失礼いたします」
と、ドレスの残った端切れを漁り始めた。
「「?」」
彼女は群青色の、まんまルーカスの瞳のような色合いの端切れを引っ張り出し器用にくるくると丸め始め、それにハサミを入れて針と糸でまとめ始めた。
「コレで如何でしょう」
あっという間に光沢のある青いバラのコサージュが出来上がる。
「ミミさん器用だね~」
「すごい・・・」
「こちらを帽子に飾れば小侯爵閣下も喜ばれるかと思います」
――あ、コレひょっとしなくてもバレてる・・・
望の顔が赤くなった。
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