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18. 災厄を退ける乙女

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 卒業を間近に控えたルーカスの元に突然やってきたのはノワール王子だった。

 彼曰く、魔法と騎士両方の素質を生かして魔法剣士なるものを目指してみてはどうだろうというお誘いだった。


「ルーカスの魔力は王族並だ。普通の騎士になるのは勿体ない」


 この国にも何人か魔法と剣士両方の素質を持った者がいて、専門の部署があるという。


「・・・殿下にはお世話になりましたので、お誘いは断れませんよ」


 実際この世界の事を全く知らない彼にとっては親身になって知識を授けてくれた彼は恩人だ――スパルタだったが・・・

 1歳だけ年上のノワールは、ニンマリ笑ってルーカス従弟が了承したことに喜び、国王に奉上すると言ってその場で消えた――転移魔法である。

 その翌日には王国騎士の団長つまりフォルテリア家の当主であるルーカスの父の元に国王の玉璽が押された正式な辞令書が届き、ルーカス・フォルテリア侯爵令息を筆頭に魔法の才能がある騎士を魔法剣士として抜擢し、王族の護衛騎士団を設立することが決まったのである。


 ノワールの後出しジャンケン紛いである・・・そもそも存在していなかった部署を勝手に架空で作り、ルーカスを先に誘ったのだから・・・


 実はこの国にも本来近衛騎士――王宮内で王族を警護する騎士――は存在していた。

 他国の賓客の手前、見目好く礼儀正しい近衛騎士は確かに重用されるが貴族階級出身である事が求められる。

 其の為どうしても家柄と見た目に重きを置いて選別されるため剣技がお粗末な事も多かったのだ。

 ある意味危機管理者である国王の悩みのタネでもあったが、ここに来てルーカスのように剣技と魔法両方に優れた者で構成された護衛騎士を一個師団として成立させようと王太子以下3人の王子達が企んだのである。

 これなら近衛騎士達との差別化も図ることが出来るため、文句も出ないだろうと踏んでの計画だった。

 概ね国王も大臣も賛成で近衛騎士達との仕事内容――王宮内警護と王族の外出時の警護――も完全に分けられる事となり、すんなりと議会では可決した。

 王子達と従兄弟同士ではあったが、王族ではない彼が王宮内のアレコレを知るきっかけとなったのはこういう経緯があった。

 そして、その職務の性質上あちこちついて回るうちに『災厄』を救う異世界の乙女達の召喚に立ち会う・・・ついでに魔法陣に魔力をずいぶん持っていかれる羽目になったのである。


 そして現れた乙女の1人が、夢にまで見た『望』だった事に驚愕した。

 彼の記憶の中の彼女より、隨分大人びてはいたが間違いなく自分が幼い頃から大切にしていた女性である。見間違いなどするはずがない。

 しかも、乙女達は異世界でと相場が決まっているのだ。


 ――なんだって、お前死ぬような目に合ってるんだよ? しかもフランス行きの飛行機ってどういう事だ!? え。待って?  まだ乙女処女のままって事? どういう事だよ!? お前何で結婚してねえの?! ハッ! 禁術の事は他言無用だから正体も明かせねえじゃんッ! あぁぁあ聞きたいけど聞けねえぇええ! 詰んだ・・・ 



 彼が望達を目つき悪く睨んでいたのはそういった理由からである・・・


 異世界に置いてきたかつての恋人が自分がいなくなっても幸せになっていて欲しいと切に願っていた彼としては、望の登場は嬉しい反面、困惑だっだ。


 だって・・・


 ――ひょっとして俺のせいでき遅れたのか?! ごめんッ!!


 言葉にすると非常に相手に対して失礼な言葉も含まれているが、彼の心の中の叫びなので誰にも気が付かれなかったのが不幸中の幸いかもしれない・・・


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