上 下
13 / 101

13. 賓客扱い

しおりを挟む


 「・・・理想といいますか、昔からずっと好きな女性はいます」


 機嫌の悪そうな顔のままで視線を合わせること無く、王子達2人に向かってムッツリと返事をするルーカス。


「「え?」」


 烏の濡れ羽色の艷やかな髪の毛はオールバックにされ後ろに向かいキッチリ流されていて襟足の辺りで髪紐で一纏めにされている。

 端正な横顔はあいも変わらず無表情だが、その整った顔が歪むのを神が嫌がって表情筋を使うのを禁止したのじゃないかと疑ってしまう位には、綺麗な顔をした男だ。

 侯爵家の長男だがその腕っぷしの強さと、この国では珍しいくらいの魔法の腕の両方を請われ魔法剣士として王族の護衛騎士を務めている。

 フォルテリア家の者に多い群青色の瞳は彼の出自が歴史のある家系であることを示しており、毛並みの良さに惹かれて貴族女性達に群がられてきた過去がある。

 そのクセ誰に対しても靡くなびく事は皆無で冷たくあしらわれた女性達から女嫌いなのだと囁かれているのだが・・・


「え、お前、女に興味があったのか! 男色家だと思ってたぞ!」

「・・・」


 感情の浮かびにくい仮面のような顔の下で、失礼な物言いの第3王子の口に丸めたタオルをいつ突っ込めばいいのかを考えているのに2人は気付かない。


「殿下。私は男色家ではありません。至ってノーマルに女性が好きです。もっとも対象は限られますが」


 新たな情報に驚愕の色を隠せない第2王子と、ハッと気が付いたような顔の第3王子。


「そうか・・・」

「え、ノワール? どうしたの?」


 フィンレー王子は、弟の覇気のない返事に更に驚いた顔になった。


「何でもないよ兄さん」


 ノワール王子は王宮魔術師のローブのフードをバサリと脱いで、無表情のルーカスに視線を向けた。


「・・・」


 ルーカスはそれ以上何も言わなかった。



×××



 「とにかく出迎えの馬車が待ってるからさ、二人共そっちに向かってくれるかな? ジジイと一緒に俺もついてくからさ」


 妖精族だというカインは、困り顔になって此方を振り向いた。


「うん、まあいいけど・・・」


 若干顔が赤いまま答える涼子と、無言で頷く望。


「何処へ行くんでしょうか?」


 今更ながら、これから行く先次第で不自由になりかねないという状況を危惧したのは望だ。

 異世界転移に魔女に聖女――魔法のある世界に未だに教えられていない災厄。

 気が動転していて確認を忘れていたが神官長が目を回し時間に隙間が出来た事で、やっと頭が冷静になってきたようだ。


「私達を閉じ込めるような場所ならお断りしたいんだけど?」

「ん? ああ。ノゾミは見掛けより隨分大人みたいだな・・・もっともな心配だな。安心しろ。これからあんたらが行く場所は王家の管理してる離宮だよ。何しろ王家の賓客だからね」

「賓客ですか?」

「ああ。本来ならあっちの世界の住人をこっち都合で強引に招いたんだからな。当然だろ?」


 ――この国は、自分達の常識に照らし合わせてもおかしな所は無さそうだ。


 寧ろ涼子の発言のほうがこの世界での常識には則していないのかも知れないな、と望は苦笑いになった。

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...