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12. 理想の・・・

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 古い映画でベニスを舞台にした物語に出てくる美少年を彷彿とさせるカイン。

 中々に口調は荒っぽいが、根は優しいようでヨロヨロと力なく立ち上がる神官長を支えながら


「じーさん大丈夫かよ?」


 と養父の腰を擦っている。


「ねえ、涼子ちゃんこの世界、カインさんみたいな永遠の美少年が存在してるみたいよ? 良かったわね」


 こっそり涼子の耳元で望が囁いた。


「ああ・・・理想が眼の前に・・・」

「え?」


 ガシっと望の肩を真顔の涼子が掴む。


「カインさん、私の理想の男性ですっ!」

「そ、そう。良かったわね。彼、神官さんみたいだけど・・・この世界の神官さんが恋愛禁止じゃないといいわね・・・」


 取り敢えず当たり障りのない返事をしたが、自分の言葉が彼女の耳に届いたのかどうなのかは謎である。

 カインを見ながらポーッと熱に浮かされたように顔を赤くしているからだ。


「うーん、何処までも上手いことできてるわねえ・・・」


 養父の腰を擦っているカインと涼子を交互に見ながら、隙を見て神官長が聞いていなかった情報を伝えておくかな、と、考える望である。



×××



 「なあ、いつになったら神官長は聖女と魔女の2人を連れて来るんだ?」


 神殿の出口、緩いスロープを描く階段のあるエントランスで4頭立ての馬車の前に立った男、第3王子ノワールが呟いた。


「・・・そのうち来るでしょう」


 その脇で馬の手綱を持ったまま仏頂面の男が返事をする。


「昔から行動が遅いから・・・」

「なんか言ったか? ルーカス卿」

「何でもありません」


 そのやり取りをニヤニヤ笑いながら見比べているのは第2王子フィンレーである。


「ルーカスの顔で表情筋が仕事するのは珍しいねえ」

「・・・殿下、誰でも表情筋は動きます」

「いや、お前のは死滅してると思うぞ。なんせ『氷の騎士団長様』だからな」


 眉をぐぐっと寄せて渋顔になるルーカス。

 本気で嫌がっているようだ。



「誰ですかその小っ恥ずかしい渾名をつけたのは?」

「お前に振られた女どもじゃないか~?」

「フッた覚えなどありません」

「夜会で踊りに誘われても無視されるって有名だぞ? あと女とは口もきかないってのも聞いたな」

「・・・仕事中ですから」

「まぁ確かに王属の警護してる騎士をダンスに誘うのはナシだな。仕事中だもんな」

「ルーカスが夜会に参加したことあったっけ?」


 うん? と首を傾げるフィンレー王子。


「・・・ありません。常に仕事中です」

「だよねえ。偶に出てみたら?」

「・・・エスコート相手がいません」

「「・・・いるだろ」」

「適当に誘えるような付き合いがないので」

「「・・・」」


 真面目が騎士服着てるみたいだな、と思ったのは2人同時だったらしい。


「貴族女性の間ではルーカス卿は女性の理想が高すぎて誰も相手をしてくれないって有名だぞ? お前知ってるか」

「知りません。でも、確かにそうかもしれません」

「「え?」」


 王子達2人は顔を見合わせた。


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