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第二章 臣下とは王のために存在する
幸福論
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扉が閉まり、静寂に包まれた部屋で、ギルバートは床をにらむ。
うつむいた自分の影で、視界は暗い。
想うのは、最愛の妹のこと。
ゆるやかな金糸の髪に、宝石のような碧眼、愛らしい顔立ちに、軽やかなしぐさ、澄んだ声音に、晴れやかな笑顔――。
それがにじんで、ギルバートは小さく息を吐く。
彼女を守るために、彼女に婚約を強制するのか。
それは果たして、守っていると言えるのか。
王家から婚約の打診が来れば、断るのは容易ではない。
だから婚約者をつくる――それ自体がこちらの都合でしかない。
稀代の魔人が認める人間がようやく現れたため、ブレイデン公爵家はこれを逃すつもりはない。
そう公言してしまえば、たしかに王家からの打診は回避できるかもしれない。
しかしアンジェリカに本当に好きな相手ができたとき、これを破棄したという疵が不利に働くことはないだろうか。
その可能性が否定できないこの案は、最善策といえるのか。
彼女が傷つくことなく、ずっと幸せに笑っていられる方法がきっとあるはず。
たとえば、そう。
この国を捨て、ふたりでどこか遠くへ――。
「……だめだ」
ギルバートは首を振る。
よみがえるのは、昨日の朝食の場面。
クリスティーナが、アンジェリカに学院の話を振ったとき、彼女はこう答えた。
――とても楽しいです。
アンジェリカには、アンジェリカの世界がある。
それを一方的に壊すべきではない。
しかし、彼女の自由が脅かされている。
どうする。
どうすべきだ。
――わからない。
わからないなど許されない。
なぜなら、アンジェリカの平和を壊すのはいつも――。
「……俺のせいだから」
稀代の魔人と謳われるギルバート。
その力を我が物にしようと画策する輩は後を絶たず、彼らは愚かであるゆえに手段を選ばない。
ギルバートのせいで、アンジェリカはたくさんの危険にさらされてきた。
どれだけ厳重に彼女を守ろうとも、稀代の魔人に魅入られた人間の執念は凄まじかった。
彼女のうなじには、消えない切り傷がある。
彼女の右肩には、消えない刺し傷がある。
そして彼女の心には、見えない傷が残った。
アンジェリカが愛おしい。
彼女の幸せを願うたび、泣きたくなるほど温かい気持ちになる。
アンジェリカがかわいそう。
彼女の境遇を想うたび、死にたくなるほど悲しい気持ちになる。
ふくらんでいくふたつの感情は、蔦のようにからみついて、身動きがとれない。
「――俺は無能だ」
ひどい気分がして、きつく目を閉じる。
「……アンジェリカ」
懺悔のようにつぶやき、ギルバートは震える両手をにぎりしめた。
どれくらいそうしていただろうか。
扉が軽快にノックされ、ギルバートは我に返る。
それでも気分は沈んだまま、応える気力も無く、使用人ならばそのうち去るだろうと放っておく。
しかしどういう理屈でか扉がひらいて、ギルバートはおもわず顔をあげた。
「ギルバート様、入りますよ」
言いながらすでに足を踏み入れているロベルトに、ギルバートは恨めしげな目を向ける。
「……あいかわらず遠慮がない」
「私と坊ちゃんの仲ではありませんか」
ロベルトは軽口をたたくが、ギルバートの視線はすでに床に落ちたあと、うつむく姿にいつもの覇気はない。
ギルバートからわざと視線を逸らし、ロベルトは大振りな動作で部屋を見渡した。
「おや、模様替えですか。流行りのロースタイルを試されているようですが、先にご一報くださいますと、掃除方法の見直しやファブリックの一新など、より快適な空間をご提供することが可能でございます。――それはそうと、御昼食をお持ちいたしました」
「……頼んでない」
「今回は衛生上の観点から、ビストロテーブルにご準備いたしますね」
つぶやく声音は聞こえないふりをして、ロベルトは二人掛けの丸テーブルに向かい、手早く整える。
野菜と肉団子を煮込んだスープに、やわらかい白パン。
白身魚のあんかけに、クリームソースがかかったオムレツ。
カットフルーツを添えたジェラートは、氷の器に盛られている。
病み上がりの胃にやさしい昼食が、簡易的だが美しくセッティングされた。
「どうぞ、ギルバート様。立てないようでしたら、僭越ながら私が杖になりますので、遠慮なくお申しつけください」
「それには及ばない」
あきれたように告げて、ギルバートが立ちあがる。
しっかりした足取りに、ロベルトはうなずく。
「東洋には『腹が減っては戦ができぬ』という言葉があります。こたびの件、ギルバート様にとっては戦いのようなもの。それでなくとも、ブレイデン公爵家の次期当主たるもの、たとえおさななじみとの口約束であろうとも、厳守するのが正しい姿ではございませんか」
ギルバートが勢いよく振りかえる。
「――なぜそれを。まさか、障壁は失敗だったのか!?」
「残念ながら、大成功です。壁にコップを当てて耳を澄ましておりましたが、一音たりとも聞きとれませんでした」
「……執事長が何をしている」
「執事長とは、ひまを持て余した管理職でございます。なにせここには優秀な使用人しかおらず、問題のひとつも起きやしない。坊ちゃんの世話ぐらい焼いていないと、すぐに呆けてしまいます。公爵家にとって、そのような大きな損失を出すわけにはいきませんでしょう」
「よくよくまわる口だ」
「恐縮です。さ、温かいうちにお召し上がりください」
ロベルトにうながされ、ギルバートは椅子にすわる。
カラトリーには手を伸ばさず、湯気のたつ皿を見つめた。
「……なあ、ロベルト」
「何でございましょう」
「おまえはいま、幸せか」
「はい。坊っちゃんがお食事を召し上がっていただければ、もっと幸せにございます」
ギルバートは苦笑する。
「そうではない。――幸せとは何だ」
「これはまた難しいことをおっしゃいますね」
「難しい? おまえはいま幸せなのだろう? それを教えろといっている」
ふむ、とロベルトは考える。
「なにが幸せかは人それぞれ、それを言葉で表現できるとは限りません」
「一般論はいい。おまえの幸せとは何だ」
真剣にこちらを見つめる碧眼に、ロベルトは本心を告げる気になった。
「私は……そうですね。すべての業務を滞りなく片付け、一日が終わる静かな夜、あたたかい暖炉のまえでロックグラスを傾けるときが至福――つまり、幸せでございます」
「……それだけか?」
ギルバートが、拍子抜けしたような表情でロベルトを見やる。
ロベルトは、微笑んでうなずく。
「幸せとは、心が満ち足りている時間の積み重ねだと思われます。考察を重ねるより、ご本人に聞いてみるのが、いちばん早くて確実なのではないでしょうか」
ロベルトの提案に、ギルバートはため息をついた。
「もちろん、そうする。だがアンジェリカは、周囲の望むことを叶えようとする、実行力のある天使だ。家のために身を差し出すなんて言われたら、俺が公爵家を滅ぼしてしまいそうだ……!」
目を見開いて戦慄くギルバートに、ロベルトは小首をかしげた。
「ひとつよろしいでしょうか」
「何だ」
「アンジェリカ様が嫌がっていることに気付けないほど、ギルバート様の目は節穴なのですか」
「……は?」
ロベルトはさらに首をひねり、ついでに腕組みまでしてギルバートを見た。
「公女として一流の淑女教育を受けているとはいえ、彼女はまだ十五歳。いくら本心を隠したところで、魑魅魍魎が跋扈する王立騎士団の竜騎士団長まで務めておられるギルバート様が、見抜けないはずはございませんね」
「……まあ、そうだが」
「そしてアンジェリカ様が本心から嫌がることを強制しなくてはならないほど、ブレイデン公爵家は脆弱ではなく、旦那様もまた非情ではありません。――ところで、ギルバート様のお悩みは何でしたかな?」
ギルバートが軽く息を吐く。
「うだうだ考えてもしかたがない――そう言いたいのか」
「食事が喉を通らないほどお考えになる必要はない、ということです」
ロベルトの声音はやわらかい。
ギルバートは気持ちを切り替えるように嘆息し、顔を上げた。
「……週末にアンジェリカと話す。どのみち、そうするつもりだった」
ロベルトは朗らかに微笑む。
「でしたら、まずはご昼食を。アンジェリカ様がその大怪我を見たら、びっくりなさいますよ」
「わかっている。なんとしてでも、週末までには治す」
アンジェリカが通う国立魔術学院は寮生活だ。帰宅は原則、週末のみ。学生は身分に関わらず平等と定められており、公爵家の御令嬢であろうとも例外ではない。
「体調を万全に整えたのち、兄妹水入らずでご歓談ください。微力ながら、ご助力いたします」
ロベルトは深く一礼する。
ギルバートはうなずいて、整然と並べられたカラトリーに手を伸ばした。
体が動くようになったギルバートが出勤すると、執務室には書類の山ができていた。
エリオットが何も言ってこないのをいいことに、必要最小限の言葉だけを交わす。ついでに書類を半分渡したら、無言で受け取り、ざっと目を通してそのうちの半分だけ返された。
ゼノのなにか言いたげな目線と、レスターの「冷戦ですね」との突っ込みは無視をした。
うでの怪我は、完治とまではいかないが、抜糸は終えた。
ブラットリーから「ぼくが採取管を取りに行っている間に姿を消すなんてひどい!」と苦情を受けたが、それも当然、無視をした。
第二騎士団との合同演習でストレスを発散したり、竜舎でベルに威嚇されたり、竜騎士団員に代わる代わる食堂に連行されたり、うっかり玉座を破壊しかけたりしながら、平日は平和に過ぎていく。
そして、週末がやってきた。
うつむいた自分の影で、視界は暗い。
想うのは、最愛の妹のこと。
ゆるやかな金糸の髪に、宝石のような碧眼、愛らしい顔立ちに、軽やかなしぐさ、澄んだ声音に、晴れやかな笑顔――。
それがにじんで、ギルバートは小さく息を吐く。
彼女を守るために、彼女に婚約を強制するのか。
それは果たして、守っていると言えるのか。
王家から婚約の打診が来れば、断るのは容易ではない。
だから婚約者をつくる――それ自体がこちらの都合でしかない。
稀代の魔人が認める人間がようやく現れたため、ブレイデン公爵家はこれを逃すつもりはない。
そう公言してしまえば、たしかに王家からの打診は回避できるかもしれない。
しかしアンジェリカに本当に好きな相手ができたとき、これを破棄したという疵が不利に働くことはないだろうか。
その可能性が否定できないこの案は、最善策といえるのか。
彼女が傷つくことなく、ずっと幸せに笑っていられる方法がきっとあるはず。
たとえば、そう。
この国を捨て、ふたりでどこか遠くへ――。
「……だめだ」
ギルバートは首を振る。
よみがえるのは、昨日の朝食の場面。
クリスティーナが、アンジェリカに学院の話を振ったとき、彼女はこう答えた。
――とても楽しいです。
アンジェリカには、アンジェリカの世界がある。
それを一方的に壊すべきではない。
しかし、彼女の自由が脅かされている。
どうする。
どうすべきだ。
――わからない。
わからないなど許されない。
なぜなら、アンジェリカの平和を壊すのはいつも――。
「……俺のせいだから」
稀代の魔人と謳われるギルバート。
その力を我が物にしようと画策する輩は後を絶たず、彼らは愚かであるゆえに手段を選ばない。
ギルバートのせいで、アンジェリカはたくさんの危険にさらされてきた。
どれだけ厳重に彼女を守ろうとも、稀代の魔人に魅入られた人間の執念は凄まじかった。
彼女のうなじには、消えない切り傷がある。
彼女の右肩には、消えない刺し傷がある。
そして彼女の心には、見えない傷が残った。
アンジェリカが愛おしい。
彼女の幸せを願うたび、泣きたくなるほど温かい気持ちになる。
アンジェリカがかわいそう。
彼女の境遇を想うたび、死にたくなるほど悲しい気持ちになる。
ふくらんでいくふたつの感情は、蔦のようにからみついて、身動きがとれない。
「――俺は無能だ」
ひどい気分がして、きつく目を閉じる。
「……アンジェリカ」
懺悔のようにつぶやき、ギルバートは震える両手をにぎりしめた。
どれくらいそうしていただろうか。
扉が軽快にノックされ、ギルバートは我に返る。
それでも気分は沈んだまま、応える気力も無く、使用人ならばそのうち去るだろうと放っておく。
しかしどういう理屈でか扉がひらいて、ギルバートはおもわず顔をあげた。
「ギルバート様、入りますよ」
言いながらすでに足を踏み入れているロベルトに、ギルバートは恨めしげな目を向ける。
「……あいかわらず遠慮がない」
「私と坊ちゃんの仲ではありませんか」
ロベルトは軽口をたたくが、ギルバートの視線はすでに床に落ちたあと、うつむく姿にいつもの覇気はない。
ギルバートからわざと視線を逸らし、ロベルトは大振りな動作で部屋を見渡した。
「おや、模様替えですか。流行りのロースタイルを試されているようですが、先にご一報くださいますと、掃除方法の見直しやファブリックの一新など、より快適な空間をご提供することが可能でございます。――それはそうと、御昼食をお持ちいたしました」
「……頼んでない」
「今回は衛生上の観点から、ビストロテーブルにご準備いたしますね」
つぶやく声音は聞こえないふりをして、ロベルトは二人掛けの丸テーブルに向かい、手早く整える。
野菜と肉団子を煮込んだスープに、やわらかい白パン。
白身魚のあんかけに、クリームソースがかかったオムレツ。
カットフルーツを添えたジェラートは、氷の器に盛られている。
病み上がりの胃にやさしい昼食が、簡易的だが美しくセッティングされた。
「どうぞ、ギルバート様。立てないようでしたら、僭越ながら私が杖になりますので、遠慮なくお申しつけください」
「それには及ばない」
あきれたように告げて、ギルバートが立ちあがる。
しっかりした足取りに、ロベルトはうなずく。
「東洋には『腹が減っては戦ができぬ』という言葉があります。こたびの件、ギルバート様にとっては戦いのようなもの。それでなくとも、ブレイデン公爵家の次期当主たるもの、たとえおさななじみとの口約束であろうとも、厳守するのが正しい姿ではございませんか」
ギルバートが勢いよく振りかえる。
「――なぜそれを。まさか、障壁は失敗だったのか!?」
「残念ながら、大成功です。壁にコップを当てて耳を澄ましておりましたが、一音たりとも聞きとれませんでした」
「……執事長が何をしている」
「執事長とは、ひまを持て余した管理職でございます。なにせここには優秀な使用人しかおらず、問題のひとつも起きやしない。坊ちゃんの世話ぐらい焼いていないと、すぐに呆けてしまいます。公爵家にとって、そのような大きな損失を出すわけにはいきませんでしょう」
「よくよくまわる口だ」
「恐縮です。さ、温かいうちにお召し上がりください」
ロベルトにうながされ、ギルバートは椅子にすわる。
カラトリーには手を伸ばさず、湯気のたつ皿を見つめた。
「……なあ、ロベルト」
「何でございましょう」
「おまえはいま、幸せか」
「はい。坊っちゃんがお食事を召し上がっていただければ、もっと幸せにございます」
ギルバートは苦笑する。
「そうではない。――幸せとは何だ」
「これはまた難しいことをおっしゃいますね」
「難しい? おまえはいま幸せなのだろう? それを教えろといっている」
ふむ、とロベルトは考える。
「なにが幸せかは人それぞれ、それを言葉で表現できるとは限りません」
「一般論はいい。おまえの幸せとは何だ」
真剣にこちらを見つめる碧眼に、ロベルトは本心を告げる気になった。
「私は……そうですね。すべての業務を滞りなく片付け、一日が終わる静かな夜、あたたかい暖炉のまえでロックグラスを傾けるときが至福――つまり、幸せでございます」
「……それだけか?」
ギルバートが、拍子抜けしたような表情でロベルトを見やる。
ロベルトは、微笑んでうなずく。
「幸せとは、心が満ち足りている時間の積み重ねだと思われます。考察を重ねるより、ご本人に聞いてみるのが、いちばん早くて確実なのではないでしょうか」
ロベルトの提案に、ギルバートはため息をついた。
「もちろん、そうする。だがアンジェリカは、周囲の望むことを叶えようとする、実行力のある天使だ。家のために身を差し出すなんて言われたら、俺が公爵家を滅ぼしてしまいそうだ……!」
目を見開いて戦慄くギルバートに、ロベルトは小首をかしげた。
「ひとつよろしいでしょうか」
「何だ」
「アンジェリカ様が嫌がっていることに気付けないほど、ギルバート様の目は節穴なのですか」
「……は?」
ロベルトはさらに首をひねり、ついでに腕組みまでしてギルバートを見た。
「公女として一流の淑女教育を受けているとはいえ、彼女はまだ十五歳。いくら本心を隠したところで、魑魅魍魎が跋扈する王立騎士団の竜騎士団長まで務めておられるギルバート様が、見抜けないはずはございませんね」
「……まあ、そうだが」
「そしてアンジェリカ様が本心から嫌がることを強制しなくてはならないほど、ブレイデン公爵家は脆弱ではなく、旦那様もまた非情ではありません。――ところで、ギルバート様のお悩みは何でしたかな?」
ギルバートが軽く息を吐く。
「うだうだ考えてもしかたがない――そう言いたいのか」
「食事が喉を通らないほどお考えになる必要はない、ということです」
ロベルトの声音はやわらかい。
ギルバートは気持ちを切り替えるように嘆息し、顔を上げた。
「……週末にアンジェリカと話す。どのみち、そうするつもりだった」
ロベルトは朗らかに微笑む。
「でしたら、まずはご昼食を。アンジェリカ様がその大怪我を見たら、びっくりなさいますよ」
「わかっている。なんとしてでも、週末までには治す」
アンジェリカが通う国立魔術学院は寮生活だ。帰宅は原則、週末のみ。学生は身分に関わらず平等と定められており、公爵家の御令嬢であろうとも例外ではない。
「体調を万全に整えたのち、兄妹水入らずでご歓談ください。微力ながら、ご助力いたします」
ロベルトは深く一礼する。
ギルバートはうなずいて、整然と並べられたカラトリーに手を伸ばした。
体が動くようになったギルバートが出勤すると、執務室には書類の山ができていた。
エリオットが何も言ってこないのをいいことに、必要最小限の言葉だけを交わす。ついでに書類を半分渡したら、無言で受け取り、ざっと目を通してそのうちの半分だけ返された。
ゼノのなにか言いたげな目線と、レスターの「冷戦ですね」との突っ込みは無視をした。
うでの怪我は、完治とまではいかないが、抜糸は終えた。
ブラットリーから「ぼくが採取管を取りに行っている間に姿を消すなんてひどい!」と苦情を受けたが、それも当然、無視をした。
第二騎士団との合同演習でストレスを発散したり、竜舎でベルに威嚇されたり、竜騎士団員に代わる代わる食堂に連行されたり、うっかり玉座を破壊しかけたりしながら、平日は平和に過ぎていく。
そして、週末がやってきた。
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