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第277話「小悪魔劇場の裏側②」

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「お久しぶりです旦那サマ。
もうすっかり記憶から抹消されているでしょうが、一応、はあなたの妻のメルシェです。
ながのお勤めご苦労様でした。では早速ですが、離婚届をお持ちしました。も・ち・ろ・んサインをして頂けますわよね?」

わたしメルシェ=アズマ(20)は
長く待ち侘びたこの瞬間に胸躍る気持ちを隠せないまま、満面の笑みを浮かべて戸籍上の配偶者であるジラルド=アズマ(23)にそう申し出た。


「…………………へ?」


わたしがこの場に現れるなど…いや、わたしという存在すら忘れていたであろうジラルドが間の抜けた素っ頓狂な声を出して呆然とわたしを見つめている。

今この場にはジラルドの仕事仲間達とジラルドの大切なバディが居るが、そんな事お構いナシだ。
こいつの体面なんて知ったこっちゃない。
今を逃せば次にいつ、この男を捕まえられるか分からないから。

ジラルドはしばし呆然とわたしを見つめてから、
やがてはっとして声を発した。

「もしかしてメル!?」

やっぱり顔を忘れていやがったか。
いや、わたしはこの2年で別人になったと自分でも思う。
ノーメイクでどこかまだ“おぼこ”かった18歳のわたしと違って、今のわたしはメイクも服装もヘアスタイルも洗練されたオトナのオンナになったからだ。
自分で言うのはなんか虚しいけど。


ただでさえ=の妻になったというだけでも色々と噂されるというのに、
この上“旦那に放ったらかしにされてる惨めでイケてない女”にだけにはなりたくなくて、自分なりに頑張って己を磨いてきたのだ。

しかし……チクショウ、クソったれ。

あ、ちなみはわたしは旦那への鬱屈したストレスを発散させる為に食堂のおじさんに下町の悪い言葉を教えて貰っている。
そして覚えた悪い言葉遣いで散々旦那を罵ってスッキリさせているのだ。
わたしはその食堂のおじさんを、
「スラングティーチャーロム」と呼んでいる。

と、話が逸れてしまったが、
相変わらずジラルドは美しい顔立ちをしていた。
頑張って自分磨きをしたわたしの2年間が虚しくなるほどに。

チクショウ、クソったれ!(やり直し)

隣に座るジラルドのバディ、
魔術師のレディクレメイソンの美貌と並んでも全く遜色ない。

ていうか二人並ぶと歌劇の一幕のような光景だ。
はいはい、お似合いですわよ。
わかってますわよ。
夫婦よりも強い絆で結ばれているんですよね。

今から自由にしてあげるから、とっとと公私共に完璧なパートナー同士になってください。

わたしは極上の笑顔を浮かべながら、ジラルドの前に離婚届を叩きつけてやった。

「おめでとう、よかったですね。これでお互い晴れて自由の身ですわ。離婚届にサインしたら、さっさと役所に届けといて下さいませね。あ、ちなみにあなたが結婚して一晩だけ住んだ家はもう引き払ってありませんのであしからず。それではご機嫌よう。サヨウナラ、どうかお元気で」

わたしは自分でもよく回るなと感心するほど饒舌に捲し立てた。

ジラルド=アズマは呆気に取られた顔をして離婚届とわたしとを交互に見つめている。

わたしは最後にもう一度だけ微笑んだ。そして踵を返し、その場を後にする。


あぁ……終わった。

ホントこの2年、なんだったんだ。

ようやくわたしにも家族が出来ると思っていたのに。

ようやく帰るべき場所を手に入れられたと思っていたのに。

「おはよう」「いただきます」「ありがとう」
「おやすみ」そんな言葉を交わし合える家族が出来たと思っていたのに。

「サヨウナラ」

結局、それだけしか言えなかった。

途端に目頭が熱くなる。

でも絶対泣くもんか。

これは新しい人生の門出なのだ。

あんな旦那の為に流す涙が勿体ない!


「今度はもっとイイ男を見つけてやる!」

わたしは向かい風をものとせず、力強く歩いて行った。




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