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第152話「ツンデレ様①」

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「お父様、何を言うのです。女はね……我儘なぐらいが可愛いのですよ」

 王女エリザベスは妖艶に笑い、国王にキメ顔でそう言ったのだが。

「エリザベス!いい加減にその痛い中二病設定を早くやめなさい!もう誰でもいいから国内の有力貴族と結婚して国を支えておくれ!もう無理に女王になってくれ、とは言わないから!」

 次の瞬間いきなり、父親であり、国王もやっている男、エドワードは珍しく娘を叱った。

「はぁ!?だ、誰が中二病ですの!言って良いことと悪いことが……」

 当然エリザベスは憤慨した。

 しかし、国王エドワードも引かない。

「頼むよエリザ、お父さんもこうして妥協してるじゃないか。お願いだから……どんな形でもいいから優秀な君に王家を、このルビオンを支えて欲しいんだよ」

「お父様……」

「知っての通り、君の兄である皇太子リチャードは……はっきり言って王の器ではないからね。このままでは将来この国は傾く、いや、最悪滅ぶ」

 深刻そうに国王は言った。

「ぐっ……ですが、それではアタクシがマクシミリアン様と結婚出来る可能性は……」

「すまんが諦めてく……」

 申し訳無さそうに父親の顔でそう言いかけた国王だったが、

「お父様、死刑」

 それを遮ってエリザベスが死刑を宣告した。

「ふぁ!?酷い!」

 愛娘のあまりにあんまりな仕打ちにエドワードは目を見開いた。

「お前達!連れておいき!」

 そして、エリザベスはいつの間にか戻って来ていた衛兵二人に再びヒステリックな声でそう命じた。

「「はっ!」」

 衛兵達は命令通り、キビキビと国王の両脇を抱えて引きずっていった。

「おい、放せ!ノリで私を拘束するな!エリザベース!私は諦めないよーーー!」

 バタン、とドアが閉まり、部屋に静けさが戻った。

「……全く、お父様は」

 それを見ていた悪役令嬢エリザベスはやれやれ、という感じでため息をついた。

「あのー、エリザ様ー」

 そんな時、横から彼女にダルそうな声で話しかけた者がいた。

「何よルーシー」

 エリザベスが振り向くと、そこには美人だがダルそうな顔をした彼女の専属である若いメイド、ルーシーが立っていた。

「国王陛下の仰る通りッスよー!それに自分、朝から縦ロール作らされたりー、油絵ばりに化粧を塗りたくらされたりー、もう色々面倒いのでー、悪役令嬢気取るのそろそろ辞めましょうよー」

 するとルーシーは主エリザベスに対していきなり本音をぶっちゃけた。

「なっ!気取ってなんかないわ!アタクシは本当に我儘な悪い子なの!」

 それを聞いた瞬間、エリザベスは大いに憤慨し、必死に自分が悪い子だと主張し始めた。

「えー、ウソだー」

 ルーシーは相変わらずやる気のなさそうな口調でそう言った。

「口答えすると死刑よ!」

 反射的にエリザはそう言い放ったが、しかし。

「残念ッスー、衛兵さん達は陛下を引きずって行ったんで不在ッスよー」

 ルーシーが、イラッとする感じのドヤ顔でそう言った。

「ぐぬぬ……メイドの分際で生意気な!」

「ていうかー、そもそもその『死刑』ってセリフ、それ本気じゃないの皆んな知ってるッスよー?」

 主の怒りをものともせず、ルーシーは平然と話を続ける。

「え!?ウソ!」

 エリザはルーシーの思いがけないセリフに驚愕した。

「何驚いてるッスかエリザ様ー、正直某年末特番のケツバット並みに発生するから言葉に全然重みがないっスよー……デデーン!エリザ様!アウトー!的な?」

「むむ……」

「それにー、国王陛下が絶対に死刑執行の書類にサインをしないのを分かってて言ってますよねー?」

「うっ……」

 図星のエリザは言葉につまり、気まずそうな顔になって目を逸らした。

「そもそもエリザ様は優し過ぎてー、悪役令嬢気取るなんて無理なんスよー」

 そして、ルーシーは無慈悲?な現実を、必死に悪ぶろうとする心優しい少女に告げた。

「そ、そんなことないわ!アタクシは我儘な悪い子なの!」

 が、エリザはそれを認めない。

「へー、あくまで認めないんスねー?」

「当たり前よ!アタクシは先程お父様が仰った通り、メイドを訳もなくクビにしたり、宝石や庭や離宮を次々と強請ってお金を浪費したり、気に入らない令嬢を潰したり、気に入った敵国ランスの王子と無理矢理に婚約すらした悪女なのよ?」

 ルーシーの問い掛けにエリザは豊かな胸を張ってそう答えた。

「もー、自分で悪女とかいうのも痛いッスよー?」

「うるさい!」

 そう叫んだエリザを横目に、ルーシーは呆れ顔で反論を始める。

「コホン、まずさっきの新入りメイドをクビにしたのって、あの娘が親の借金の所為で身売り同然でここに来たことと、地元に将来を誓い合った恋人がいることを知ったからッスよね?」

「え!?ち、違うわ!アタクシは単にあの娘が気に入らなくて……」

 いきなりエリザは慌て出したが、無視してルーシーは続ける。

「死刑ってのも無実のあの娘の書類に陛下が絶対にサインしないのを分かって言ったッスよね?」

「ち、違……あ、そうだ!さっきのメイドといえば、ちゃんと地元に送り届けてあげてね?それと退職金の割増と再就職先の斡旋と……それまでの失業保険も……」

「ジー……」

「あっ!な、なんでもないわ!ほら、他にもあるでしょ!?」

 エリザベスは慌てたあと、逆ギレしながら自らの悪行を言うように促した。

 しかし。

「そうっスか、じゃあ宝石とか高価なアクセサリーとかよく強請ってますけどー、あれは自分用じゃなくてー、昔のエリザ様みたいに、自分に自信が持てない内気な令嬢達にそれらを与えて勇気を持たせる為ッスよね?」

「さ、さあ……どうだったかしら……」

 エリザは目を逸らした。

「新しく作らせたお庭だってー、冷夏で不作の年に国民がお腹を空かせてる姿に心を痛めてー、麦の品種改良とか食べられる植物を研究する為ッスよね?」

「あ、あれも気まぐれで……」

「ふーん、離宮を建てたのもッスか?」

「ええっ!勿論よ!あれぞ、ザ浪費!アタクシの悪の城!」

 エリザはここぞ、とばかりにドヤ顔になったが。

「何言ってるんスか、アレは皇太子のリチャード様に傷付けられた婚約者のメアリー様を始め、不遇な環境の令嬢達を保護する為のシェルターッスよね?」

 即、撃沈された。

「さあ、アタクシあまり離宮には行かないから知らないわ!……きっと勝手に誰かが住み着いてるだけ、かも、多分……」

「何を意味の分かんないこと言ってるんスか……そんなのありえないでしょー?」

「で、でも!き、気に食わない令嬢を潰したのは本当よ!」

「あれだって実際は親が持て余すぐらいに荒んで根性がひん曲がっちまった連中を、エリザ様が手荒に更生させたんでしょうー?親達からエリザ様めっちゃ感謝されてたじゃないッスかー」

「うぅ……で、でも己が欲望の為に敵国の王子と婚姻を……」

「確かにそれは弟のニジマスさんの方と結婚すれば、いつか本命のシャケさんと逢えるかも!って言う打算もあると思いますけどー、文句を言いながらも本命じゃない弟の方を受け入れた本当の理由はー、エリザ様が嫁ぐことによって国同士の仲を改善して将来戦争になったりして国民が犠牲になるような状況にしないようにする為ッスよね?普通、敵国に嫁いだら絶対虐められるのが分かってるのに、それを決めたのは大切な国民の為っスよね?ね?ね?」

 ルーシーは情け容赦なく主を追求した。

「……わ、悪かったわ、お願いルーシー、もうやめて!アタクシのライフはゼロなの……」

 そして、ここで遂にエリザは、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆ってプルプルしながら降参を宣言したが。

「で、次がいよいよトドメっス!」

 返ってきたのは無慈悲で、そして楽しそうなルーシーのそのセリフ。

「まだあるの!?」

「基本的に今言った内容を他国の人は兎も角、国内では貴族から平民まで皆んな知っててー、親しみを込めてエリザ様を『ツンデレ様』って呼んでるッス」

 そして、ルーシーは本日何度目か分からないドヤ顔でそう告げた。

「ふぁ!?ウ、ウソよね?ウソだと言ってよルーシー!」

「マジッス!」

 ルーシーはサムズアップしながら凄く良い笑顔で答えた。

「ああ……なんて言うか、死にたい……」

 ここまで賢明に悪役令嬢を気取っていた心優しい少女エリザベスは、遂に心が折れてしまった。

「だったらもう悪役令嬢気取るのやめましょうよー」

 と、そんな主の姿を見ながらルーシーが再び提案するが。

「うぅ、そ、それでもアタクシは……やめないわ……でないと、あの方に好きになって貰えないもの」

 泣きそうになりながら、エリザベスはそう宣言したのだった。

「はぁ、全くもうエリザ様ったら乙女なんスからー」
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