上 下
21 / 33

第21話 再会

しおりを挟む
「さあ、野郎ども! 準備はいいか! まだ宵の口だ、これからアタシの家で本格的に飲みまくるぞ!
 新兵共は遅れをとるな!! オオオー!」

 ギャラリーの声が小さいな、アタシは更に大声で、オオオーと叫ぶと、ようやく周囲もオオオーっと言い出した!

「まだ、小さい、もっと大きく、腹から声を出せ! オオオおおおお!!」

「おおおおおおー!」

「お集まりのお客様もご一緒にご唱和をお願いします! おおおおおー!」

「おおおおおおー!」
 
 いやー、いい気持ちだ。さっきまでの不快感が飛んだ!

「皆さん、ご唱和ありがとう御座いました!! お騒がせいたしました。
 皆様には無料の感謝デーを近いうちに設定いたしますので、今後ともこのハルの店、春一番、富士山をお引き立てくださーい!」

「クラリッサさん、戻られたんですね! ありがとうございます!」

「また、寄らせていただきます!」

「ハルさん、頑張れよ!」

 ギャラリーは大喝采だ。酒盛り場はこうでなくちゃ、いけない。うん、うん、いつもと変わらない!

「さて、我が家に行こうか!」と、皆の方を振り返ると、一人の少女が仁王立ちでアタシを睨みつけていた。

 その少女は帯で巻いた道着を背中に引っ掛けている姿は、ガキ大将時代の和樹のようだ。

「アンタ、いったい何やってんのよ、トロイ!」

 え、誰だって? トロイって何だ? 見た感じ、まだ子供だな。ここはお姉さんが、ぴしっと言ってやるか!

「お嬢ちゃん、ここは歓楽街だよ。十八歳未満はお子様になる場所なのよ。だから、お嬢ちゃんは立ち入り禁止区域なんだけど知らないの?」

「アタシ、今日で十八になったの。教えてなかったっけ、トロイ!」

「さっきから、トロイって言ってるけど、それアタシのことなの?
 ネットではトロイメライと名乗ってるけど、トロイじゃ無いわよ。それと、アンタ、態度が凄く生意気よ!
 道着持ってるみたいね。合気道かな。何ならひとつ手あわせやってみる?
 来なさい、お嬢ちゃん、お姉さんがたっぷり可愛がってあげるから」

 少女はアタシの低音をきかせた、悪者風な声にややおびえた様子をのぞかせた。そして、動揺もしている。さっきまでの凄味は、本物を知らない蛮勇行為だったか。

「トロイ、あなた。もしかして、記憶が戻っちゃたの?」

 お嬢ちゃんは相当におびえている。声がさっきよりも、素に戻っている。

「今のアンタ凄く怖いわよ。本当にトロイ、だった娘なの?
 ねえ、覚えてない? アタシ、ジョアンナよ。アナタと数ヶ月もの間、寝食を共にしたのよ。一緒にお料理したり、街でドレスを試着したり、食べ歩きしたりしたじゃない。
 本当に覚えてないの?」

 ジョアンナだって? こいつ今、自分をジョアンナと言ったぞ。こいつがハルの婚約者なのか! おのれー、アタシの可愛いハルを色香にかけおって! 目にものみせてくれるわ!

「だー、ジョアンナ。何で戻って来たんだよ! 一時間も前に車で送り帰したはずなのに、どうしてここに居るんだよ」

 ハルが慌てて、走って来た。

「ますます、ややこしいことになっていく!」

 ハルは、もう気が動転しちゃってる。ここはお姉ちゃんが、場をぴしっとしないといけない状況だ。
 アタシは、大人なんだ。奥様で、お母さんなんだもの。落ち着けアタシ。そう、落ち着くんだ!

 アタシは、ジョアンナを威嚇する構えを解いた。そして、お姉ちゃんスマイルをして、この娘も家に誘うことに決めた。

「アタシ達、何か誤解があったみたいだけど、ジョアンナさん、とりあえず仲直りしましょう。
 アタシは、クラリッサ・ワイルダー、いえ、クラリッサ・麗香・加藤と言います」

 アタシは右手を差し出し、ジョアンナに握手を求めた。ジョアンナは不安そうにハルの方を見た。

 ハルは、アタシと握手して!というような素振りを見せた。

 ジョアンナは恐る恐る右手を差し出して来たので、アタシは、じれったいと、ガッチリと握ってやった。

 すると、何か懐かしい、優しい温かさを感じた。その手の感触は心地よかった。

「何かとても不思議。あなたの手、とても気持ちいい感じがするわ」

 実際、感じたのは蚊に刺された程度の感触だったのだけど、アタシは、大げさに表現した。

「姉さん、今のやり取りで何を納得したって言うの?」

「この馬鹿ハル! 大人の社交辞令よ。険悪なムードのままじゃ場が収まらないでしょ。
 今は抑えて、この娘の品定めは後回しよ。とにかく、その娘も我が家に連れて行くわよ!
 わかったらすぐ行動する。みんなを案内しなさい、さあ、早く!」

 あたしは、ハルのお尻を蹴って催促した。ハルは気を取り直し、襟を正して、営業スマイル顔になり、声も柔らかに変える発声練習をはじめた。

「じゃあ皆さん、お疲れでしょうけど、すみません。もう数時間。いえ、明日の朝まで、我が姉にお付き合いください。お願いいたします! 本当にお願いします」

 ハルは声も枯れ枯れに絞り出すように話し、深々と頭を皆に向かって下げている。

 別に酒はボトルでグビグビじゃなく、グラスでちびちびやるだけで、アタシの身に起こった話をするのに、なんてこと言ってんだ、ハルは!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夜明けの続唱歌

hidden
ファンタジー
炎に包まれた故郷。 背を灼かれるように、男は歩き続けていた。 辺境では賊徒が跋扈し、都では覇権や領土の奪い合いが繰り返されていた。 怯えながら、それでも慎ましく生きようとする民。 彼らに追い打ちをかけるように、不浄な土地に姿を現す、不吉な妖魔の影。 戦火の絶えない人の世。 闘いに身を投じる者が見据える彼方に、夜明けの空はあるのだろうか。 >Website 『夜明けの続唱歌』https://hidden1212.wixsite.com/moon-phase >投稿先 『小説家になろう』https://ncode.syosetu.com/n7405fz/ 『カクヨム』https://kakuyomu.jp/works/1177354054893903735 『アルファポリス』https://www.alphapolis.co.jp/novel/42558793/886340020

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...