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エピローグ
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テッド達があたしらの元を去って、早、一ヶ月が過ぎていた。
あたしは、ローラを父の研究所に招き入れ、今は共に仕事をしている。
ローラがサンドクロールス号で勉強の面倒見ていた子供たちキリクとミクは、あたしの実家にひきとって、今は妹や弟たちと仲良くやっている。あの子供たちは、ローラの兄妹だったのだ。
ミランダさんば、少し寂しそうだったけど、おじさん連中の面倒でも大変だったので、少し楽になったとの話だった。来月は休暇をとってローラと共に里帰りを果たすつもりだ。その時は、あいつをこき使ってやろうと思っている。
ローラから知らされたことだが、テッドとカレンは宇宙でも派手に暴れているらしい。あくまでも小耳に挟んだ程度で、ことの真意は分からない。
だが、ひとたび宇宙で大きな事件があると、その裏で彼らが動いているとかいないとか、とにもかくにも話題の絶えない忙しい連中であることには違いない。
先日、砂虫を捕獲した後に聞こえていた銃撃戦の正体が判明した。なんと、凶悪な宇宙海賊ベルゼブブの一味と一戦交えていたようなのだ。なぜ、テッド達と宇宙海賊が戦闘になったかについては、追調査が必要だ。
それにしても、相手方はかなりな重装備の戦闘機での攻撃だったらしいが、衛星軌道上を航行中だった所属不明の戦艦からの正確な射撃により粉微塵となったということだった。
衛星軌道上から地上の物体を攻撃するのは、論理上可能だとは分かっていたが、実際に、しかも高速で飛行中の物体に対して、周辺環境に影響を与えることなくやれる者がいたのには驚いた。
これをやった者の情報は、トップシークレット扱いで調べられないが、あたしはテッドにゆかりの者だと睨んでいる。そういえば、潜水艇の中でカレンが何かを打ち出していたけど、あれと何か関係があるのかもしれない。機会があれば、あたしはまた、テッド達と行動を共にして良いと思っている。そうすれば、あの驚異的な射撃をした人物とも逢える気がした。
とにかく、今のあたしは、こんな研究室だけで、一生を終えるにはつまらな過ぎると思えている。これも、あいつの影響なのだろうか。
先日、我がご先祖、紅蓮(くれない れん)とイワンの話をローラにしたら、テッドと親しい彼女は知っていた。やはり、イワンはテッドのご先祖様だった。
なぜ、未だに三世なのか?と訪ねたら、答えは我がご先祖様と同じ理由だった。ふたりの子孫がお互いを認識できるマジックワードにしているとのことだった。紅蓮は、自らの名前をファミリーネームにして、女子を当主とする家系を作った。イワンの子孫は、イワンが所有していた宇宙船の名前を代々当主が引き継ぐようになっていた。
そして、蓮とイワンには後日談があった。ローラが言うには、一族の調度品倉でも探してみればわかるとのことだった。あたしは久しぶりに調度品倉を散策した。彼女の話ではそれは、水晶の原石のようなものということだった。
やがて、倉の地下層の最下層の奥に鍵をかけて厳重に保管されているものを発見した。開けてみると、ビンゴ!くすんだ水晶の原石のようなものがそこにあった。それは現在でも再生が可能な鉱石記録器に他ならなかった。
技術が変わっても一族がその起源を忘れることの無いようにと、科学者でもあった蓮が二つの一族に残した記録だった。
あたしは、その鉱石記録器を解析し、再生することに成功した。記録は蓮とイワンの生い立ちから出会い、義勇軍としての戦い、旅の行商、そして、二人の別れなどの様々な記録がホログラム映像と音声で視聴できた。
蓮の身長は、一七八センチメートルあったそうだが、あたしは二十センチメートルほど足りない。イワンは一六八センチメートルでテッドよりは一〇センチメートル以上は低いようだ。今のあたしとテッドとは真逆だ。
しかも、蓮は、艶のある黒髪の短髪で、凜々しく、かなりのイケメンだった。胸もそれほど大きくない。それに服装は、男性っぽいものを着ていることが多いので、彼女は男性と見紛うばかりの美少年、もしくは美青年に見えた。さぞや、若い女性達にももてたことだっただろう。
映像で見る二人はとても眩しく、とてもいい感じだった。恋人というより、とても仲の良い兄弟のようでもあった。千年も昔の人なのに、とても身近に感じられる。
あたしは時間も忘れて、記録をくまなく再生し続けた。そして、パスワードを入れる秘密の映像にたどり着いた。
迷わず、”星屑のリング(the ring of the stardust)”と入れた。正解だった。再生された映像には、二人の再会と旅立ちの記録があった。
蓮の墓は、アクアリアには無い。テッド・グラーノフ三世号の最初の所有者で戦いの勇者と呼ばれた男が眠る森、”安らぎの森”に記念碑があるだけだった。初代テッド・グラーノフ三世も、紅蓮も軍人であったことは一言も刻まれてはいない。
我が一家はその蓮の遺言により、軍事に加担しないようにしていたのだ。だが、二百年前から惑星開拓業に関わるようになってからは軍事にも関わっている。職業軍人や義勇兵こそ輩出していないが、その仕事は軍事に深く関わり、主力兵器を作るに至っているのは、やはり血のせいなのだと皆は言う。
数ヶ月前に、最新鋭の宇宙戦艦を貨物船へ偽造させて、ある一族へモニタ貸ししたと聞いた。超がつく極秘扱いで教えてくれなかった。あれは、わたしが設計した人工知能と、紅蓮家専用OS(Operating System)が組み込まれている特注品だと言うのに、普通の船乗りに乗りこなせるのだろうか。船自体は極秘で見せてくれなかったが大丈夫なんだろうか。
ローラはテッドから、蓮とイワンの後日談を聞かされてはいたが、それは、自分に聞くより、蓮が残した一族の記録を見た方がいいと言ってくれた。そして、今、あたしはその記録を見始めている。
蓮とイワンは二十年後に再び再会していた。それは再び勃発した惑星国家間戦争だった。戦争の引き金になったのは、二人が最初の戦争で攻略直前に終戦を迎えた人工惑星要塞ギガントスだった。二人は再び義勇軍として参加し、戦場で再び再会を果たした。既に、子供達に家督を譲り渡し、お互いの伴侶を亡くしていた彼らは、気兼ねなく昔のように暴れまわった。
戦争はわずか二年ほどで終結したが二人はそのまま故郷に帰ることなく、昔のように行商を行いながら旅をした。やがて、彼らは、我々人類の祖先の生まれ故郷、地球との巨大な恒星間ネットワークを築こうという遠大な計画があることを聞きつけ、最後の大仕事にうってつけだとそれに参加した。
旅立ちの日の朝に二人はささやかな結婚式をあげた。質素ではあるが白いウェディングドレスをまとった蓮は言葉には言い表せないほどに美しかった。そして、年輪を経たイワンは渋いタフガイだった。今度は、イワンが蓮にプロポーズをした。連は快くそれを受け、二人はキスをして永遠の愛を誓い合った。そこで記録は終わっていた。
二人がその後、地球へ行けたかどうかは分からないが、当時の技術でもワープ航法は開発されており、十五年あれば、地球へ到達できた筈である。千年後の今では、一年足らずで地球へ行くことが可能ではあるが、途中に宇宙嵐がふき荒れ次元断層もある宙域が三百年前に発生してしまい、容易に行けなくなっている。
あたしは、この装置の贈り主の名前が本体に書かれていることを確認した。蓮とイワンの名とHAYATOの名が刻まれていた。HAYATOは蓮とイワンの最初の子供だった。
HAYATOの名前の後に船長の肩書も見つけた。きっと、三人は幸せな人生を送ったに違いない。いつか蓮とイワンの子孫と逢える日もあるのかもしれない。きっと、その縁はこの”星屑のリング”が導いてくれることだろう・・・・。
アクアリアの惨事を救ったあの砂の海の惑星の植物に名前がつけられ、学術誌にも紹介されることになった。
師匠は、「マキナ」と命名しようとしたが、あたしは「ローラ」と命名することを望んだ。だが、ローラの提案で、ふたりの名前をつなぎ「ローラキナ」とした。正直あたしは、ジェットマキナの方が良かったのだけど、絶対彼女が嫌がるのでそうするのをやめた。
あたしは考える。
もしも、あたしが、テッドたちと出会わなかったら。そして、ローラと出会わなかったら、今の平穏な生活は無かった。これは、あたしと彼女の友情の証なのだ。
あたしは、ローラを父の研究所に招き入れ、今は共に仕事をしている。
ローラがサンドクロールス号で勉強の面倒見ていた子供たちキリクとミクは、あたしの実家にひきとって、今は妹や弟たちと仲良くやっている。あの子供たちは、ローラの兄妹だったのだ。
ミランダさんば、少し寂しそうだったけど、おじさん連中の面倒でも大変だったので、少し楽になったとの話だった。来月は休暇をとってローラと共に里帰りを果たすつもりだ。その時は、あいつをこき使ってやろうと思っている。
ローラから知らされたことだが、テッドとカレンは宇宙でも派手に暴れているらしい。あくまでも小耳に挟んだ程度で、ことの真意は分からない。
だが、ひとたび宇宙で大きな事件があると、その裏で彼らが動いているとかいないとか、とにもかくにも話題の絶えない忙しい連中であることには違いない。
先日、砂虫を捕獲した後に聞こえていた銃撃戦の正体が判明した。なんと、凶悪な宇宙海賊ベルゼブブの一味と一戦交えていたようなのだ。なぜ、テッド達と宇宙海賊が戦闘になったかについては、追調査が必要だ。
それにしても、相手方はかなりな重装備の戦闘機での攻撃だったらしいが、衛星軌道上を航行中だった所属不明の戦艦からの正確な射撃により粉微塵となったということだった。
衛星軌道上から地上の物体を攻撃するのは、論理上可能だとは分かっていたが、実際に、しかも高速で飛行中の物体に対して、周辺環境に影響を与えることなくやれる者がいたのには驚いた。
これをやった者の情報は、トップシークレット扱いで調べられないが、あたしはテッドにゆかりの者だと睨んでいる。そういえば、潜水艇の中でカレンが何かを打ち出していたけど、あれと何か関係があるのかもしれない。機会があれば、あたしはまた、テッド達と行動を共にして良いと思っている。そうすれば、あの驚異的な射撃をした人物とも逢える気がした。
とにかく、今のあたしは、こんな研究室だけで、一生を終えるにはつまらな過ぎると思えている。これも、あいつの影響なのだろうか。
先日、我がご先祖、紅蓮(くれない れん)とイワンの話をローラにしたら、テッドと親しい彼女は知っていた。やはり、イワンはテッドのご先祖様だった。
なぜ、未だに三世なのか?と訪ねたら、答えは我がご先祖様と同じ理由だった。ふたりの子孫がお互いを認識できるマジックワードにしているとのことだった。紅蓮は、自らの名前をファミリーネームにして、女子を当主とする家系を作った。イワンの子孫は、イワンが所有していた宇宙船の名前を代々当主が引き継ぐようになっていた。
そして、蓮とイワンには後日談があった。ローラが言うには、一族の調度品倉でも探してみればわかるとのことだった。あたしは久しぶりに調度品倉を散策した。彼女の話ではそれは、水晶の原石のようなものということだった。
やがて、倉の地下層の最下層の奥に鍵をかけて厳重に保管されているものを発見した。開けてみると、ビンゴ!くすんだ水晶の原石のようなものがそこにあった。それは現在でも再生が可能な鉱石記録器に他ならなかった。
技術が変わっても一族がその起源を忘れることの無いようにと、科学者でもあった蓮が二つの一族に残した記録だった。
あたしは、その鉱石記録器を解析し、再生することに成功した。記録は蓮とイワンの生い立ちから出会い、義勇軍としての戦い、旅の行商、そして、二人の別れなどの様々な記録がホログラム映像と音声で視聴できた。
蓮の身長は、一七八センチメートルあったそうだが、あたしは二十センチメートルほど足りない。イワンは一六八センチメートルでテッドよりは一〇センチメートル以上は低いようだ。今のあたしとテッドとは真逆だ。
しかも、蓮は、艶のある黒髪の短髪で、凜々しく、かなりのイケメンだった。胸もそれほど大きくない。それに服装は、男性っぽいものを着ていることが多いので、彼女は男性と見紛うばかりの美少年、もしくは美青年に見えた。さぞや、若い女性達にももてたことだっただろう。
映像で見る二人はとても眩しく、とてもいい感じだった。恋人というより、とても仲の良い兄弟のようでもあった。千年も昔の人なのに、とても身近に感じられる。
あたしは時間も忘れて、記録をくまなく再生し続けた。そして、パスワードを入れる秘密の映像にたどり着いた。
迷わず、”星屑のリング(the ring of the stardust)”と入れた。正解だった。再生された映像には、二人の再会と旅立ちの記録があった。
蓮の墓は、アクアリアには無い。テッド・グラーノフ三世号の最初の所有者で戦いの勇者と呼ばれた男が眠る森、”安らぎの森”に記念碑があるだけだった。初代テッド・グラーノフ三世も、紅蓮も軍人であったことは一言も刻まれてはいない。
我が一家はその蓮の遺言により、軍事に加担しないようにしていたのだ。だが、二百年前から惑星開拓業に関わるようになってからは軍事にも関わっている。職業軍人や義勇兵こそ輩出していないが、その仕事は軍事に深く関わり、主力兵器を作るに至っているのは、やはり血のせいなのだと皆は言う。
数ヶ月前に、最新鋭の宇宙戦艦を貨物船へ偽造させて、ある一族へモニタ貸ししたと聞いた。超がつく極秘扱いで教えてくれなかった。あれは、わたしが設計した人工知能と、紅蓮家専用OS(Operating System)が組み込まれている特注品だと言うのに、普通の船乗りに乗りこなせるのだろうか。船自体は極秘で見せてくれなかったが大丈夫なんだろうか。
ローラはテッドから、蓮とイワンの後日談を聞かされてはいたが、それは、自分に聞くより、蓮が残した一族の記録を見た方がいいと言ってくれた。そして、今、あたしはその記録を見始めている。
蓮とイワンは二十年後に再び再会していた。それは再び勃発した惑星国家間戦争だった。戦争の引き金になったのは、二人が最初の戦争で攻略直前に終戦を迎えた人工惑星要塞ギガントスだった。二人は再び義勇軍として参加し、戦場で再び再会を果たした。既に、子供達に家督を譲り渡し、お互いの伴侶を亡くしていた彼らは、気兼ねなく昔のように暴れまわった。
戦争はわずか二年ほどで終結したが二人はそのまま故郷に帰ることなく、昔のように行商を行いながら旅をした。やがて、彼らは、我々人類の祖先の生まれ故郷、地球との巨大な恒星間ネットワークを築こうという遠大な計画があることを聞きつけ、最後の大仕事にうってつけだとそれに参加した。
旅立ちの日の朝に二人はささやかな結婚式をあげた。質素ではあるが白いウェディングドレスをまとった蓮は言葉には言い表せないほどに美しかった。そして、年輪を経たイワンは渋いタフガイだった。今度は、イワンが蓮にプロポーズをした。連は快くそれを受け、二人はキスをして永遠の愛を誓い合った。そこで記録は終わっていた。
二人がその後、地球へ行けたかどうかは分からないが、当時の技術でもワープ航法は開発されており、十五年あれば、地球へ到達できた筈である。千年後の今では、一年足らずで地球へ行くことが可能ではあるが、途中に宇宙嵐がふき荒れ次元断層もある宙域が三百年前に発生してしまい、容易に行けなくなっている。
あたしは、この装置の贈り主の名前が本体に書かれていることを確認した。蓮とイワンの名とHAYATOの名が刻まれていた。HAYATOは蓮とイワンの最初の子供だった。
HAYATOの名前の後に船長の肩書も見つけた。きっと、三人は幸せな人生を送ったに違いない。いつか蓮とイワンの子孫と逢える日もあるのかもしれない。きっと、その縁はこの”星屑のリング”が導いてくれることだろう・・・・。
アクアリアの惨事を救ったあの砂の海の惑星の植物に名前がつけられ、学術誌にも紹介されることになった。
師匠は、「マキナ」と命名しようとしたが、あたしは「ローラ」と命名することを望んだ。だが、ローラの提案で、ふたりの名前をつなぎ「ローラキナ」とした。正直あたしは、ジェットマキナの方が良かったのだけど、絶対彼女が嫌がるのでそうするのをやめた。
あたしは考える。
もしも、あたしが、テッドたちと出会わなかったら。そして、ローラと出会わなかったら、今の平穏な生活は無かった。これは、あたしと彼女の友情の証なのだ。
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