人間さんと暮らしてみましたが、ちっとも馴染めません。

白光猫(しろみつにゃん)

文字の大きさ
30 / 39

ご挨拶

しおりを挟む
『疲れたでしょう? この長椅子で休んでください』

 そういって、アーシュは壊れものを扱うように、そうっと椅子に降ろしてくれました。すごいっ! この椅子フカフカです!
 珍しくて、もう一度軽く座り直してみました。ボフーンと、お尻や背中が柔らかな表面へ沈み込んでいきます。

 うちには絶対に置けそうもない家具ですね。
 とにかく神獣の出入りが激しいので、こんな柔らかな素材では、鋭いカギ爪であっという間に引き裂かれてしまいます。床も傷つけられた様子はないですし、ここに神獣はこないのでしょうか?

 しかし、なんて広くて立派なお部屋なのでしょう。
 アーシュの巣は、大きな白い石で出来ているのですね。ずっしりとした造りは、雨風をしのげてとても頑丈そうです。

 でも、正直よくわからないものもあります。

 金や銀で、植物の図柄が繰り返し壁に描かれていたり、白い石にも、たくさんの線や模様が細かく施されています。
 そこまではまだ分かります。私も服に刺繍をしたりしますから。好きなものを身の回りに置くのは、とても落ち着きますよね。

 ただ、あれは?
 あの大きな四角い絵はなんでしょう?

 ほとんど裸に近い人間さんたちが、大勢で空を飛んでいるような不思議な絵です。見上げれば、高い天井にも人間さんがいっぱい描かれています。しかも、背中から羽根が生えている人間さんもいます。

 ああやって皆さん飛べるのですか? 私も、頑張って飛べるようにならなければいけませんね。これも全く根拠はありませんが、たぶん飛べそうな気がします。

 口をぽっかり開けて天井を眺めていたら、こちらを覗きこんでいるアーシュと目が合いました。……見られていたのですね。お恥ずかしい。

『ふふ……、イレーヌ紹介させてください。ああ座ったままで大丈夫です。この男の名前は、レオドナール=ケバルといいます。【レオ】と呼んでいただいて構いません。私の親しい友人です。森でお会いしましたよね?』
『はい。もちろん覚えています』

 外で見張りをしてくださった方ですよね?

 アーシュも背が高いですが、この人間さんはもう少し高いです。
 肌の色は少し茶色みがかっていて、腕はとても太く、胸板の厚いガッチリとした大きな体格をしています。
 目の色は真っ黒で、スッキリと短く切られた髪の色は、少し青みがかった濃い灰色です。眼光鋭い、彫りの深いお顔立ちは、ちょっとだけ森の狼さんを彷彿とさせます。
 人間さんというのは、いろいろな色に分かれているのですね。

『……レオ、です。え~……神語は、すこしだけ話せる……ます。よろしく、お願いします』

 レオさんは床に片膝をつき、私と目を合わせながら、とても丁寧な口調で語りかけてくれました。
 ならば私も、誠意には誠意をもって応えましょう!

「……わたち……いれーにゅ、でちゅ。よろちく、おにゃにゃい、ちまちゅ」

 精一杯の笑顔をつくってみました。
 ほぼ初対面の人間さん相手に、とても緊張します。この挨拶の仕方で問題ないのでしょうか? どうか無事に、群れに受け入れてもらえますように。

 ああっ! しまった!
 これも言わないとっ!

「こんにゃちわ」

 もう一度、にっこり。
 ふう……、危ないところでした。なんとかギリギリ捻じ込めましたよ。

 でも、あれ? レオさんが、片手で口元を隠したまま硬直しています。
 失敗したのかと、不安にかられてアーシュを見れば、

『とても上手に言えてましたよ。レオはまだ少し緊張しているのです。許してあげてください』

 そういって、ことさら優しく頭を撫でてくれました。

 そうでしたか。
 そういえばアーシュも、初対面の時には、カッチコチに固まっていましたよね? あれも、レオさんと同じでしたか。

 人間さんは、本当に繊細な生きものなのですね。
 私は大雑把なところがあるので、充分に気をつけたいと思います。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

猫宮乾
BL
 ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...