人間さんと暮らしてみましたが、ちっとも馴染めません。

白光猫(しろみつにゃん)

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感触

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『イレーヌ、まぶたを閉じていただけますか?』
『はい』
『私がいいというまで、そのままでいてください』
『分かりました』

 こんな粗末な顔面でよければ、好きなだけ観察してください。

『……では、お顔を触りますね』

 了承の意を込めて、触りやすいように心持ち顔を上に傾けると、そっと両頬が包まれました。アーシュの手のひらは大きくてとても温かいですね。
 目を閉じているせいか、気を抜くと欠伸(あくび)が出てしまいそうです。徹夜明けにこの心地良さは、逆にキツイものがあります。

 それにしても、アーシュさん?
 まるで壊れ物を扱うような、ずいぶんと優しい手つきで触っていただけるのですね。

 私の予想としては、もっとぽっぺた掴んでムニムニ伸ばされたり、あらゆる穴に指でも突っ込まれるものだと覚悟しておりました。
 神獣基準で物事を考えてはいけませんね。人間さんというのは、本当に優しい生きものなのでしょう。外の方たちもそうなのでしょうか?
 そんな方々を、ごみ呼ばわりしてしまった私っていったい……。

『唇にも触れていいですか?』
『はい』

 次は唇の感触を確かめるように、アーシュの指がことさらゆっくりと、下唇をなぞっていきます。
 上唇も同じようになぞられて……、あまり撫でられると、だらしなく口が開いてしまいそうです。彼の指に涎(よだれ)が付いちゃったらどうしましょう。そういうの人間さんは大丈夫なのかなあ?
 でもアーシュもさっき、私の指を舐めてくれていましたし、きっと涎くらい平気ですよね?

 そんなふうに思考が脇道へそれかけていたとき、

 パキッ

 真正面の、たぶんアーシュの胸元あたりから、小さな破砕音が聞こえました。
 目を開けて確認したいのですが、彼からまだお許しが出ていません。

「……あの女……、実に間が悪い」

 え?
 いまアーシュのものとは思えない、凍てつく重低音が聞こえたような?
 私の知らない言語だったので内容は分かりませんでしたが。
 え? え?

『もう目を開けてもいいですよ』

 少し戸惑いながら従うと、目をつむる前と変わらない、柔和な表情が迎えてくれました。
 あれ? 一瞬感じた、底冷えする空気はなんだったのでしょう?

 集中的に触られていたせいか、唇がすこしジンジンします。
 アーシュが神獣の唇に対して、特に関心を寄せていることはよくわかりました。私の唇は、人間さんとどこか違っていたのでしょうか? 気になるところでしたが、いまはそれよりも……。

『アーシュ、先ほど何か音がしませんでしたか?』
『ああ、これです』

 彼は胸元から、ヒモ状のものを取り出しました。
 首飾りというには、石がひとつ細ヒモにくくられただけの地味な作りで、正直アーシュには全然似合っていません。

『あなたのお母様に御守りとしていただいたものです。無事にここまで我々を導いたことで、役目を終えたのでしょう。ヒビが入ってしまいましたね』
『……母様からの』

 納得! 激しく納得! 機能性重視の荒っぽい雑な作りは、いかにも母様っぽい!
 どこにでも転がってそうな小石を選んで、磨かないまま穴もあけずにくくりつけちゃうのも母様っぽい!

『その石は捨ててしまうのですか?』

 よく見れば、細かいヒビがいくつも入ってしまっています。

『そうですね。傷物になってしまいましたし、そう長くはもたないでしょうから』

 確かに、強く握れば、すぐにでも砕けてしまいそうです。

『あの……、この石をいただくことは可能でしょうか? 一時的にとはいえ、母様の想いが詰まっていた石です。できればうちの庭に埋めて、ご苦労さまでしたとお礼を言いたいのです』
『……』
『……駄目でしょうか?』
『いいえ。ぜひそうしてあげてください。私からもお願いします』

 アーシュは私の右手をとると、手のひらにそっと首飾りをのせてくれました。

『ありがとうございます。アーシュ』

 やっぱり彼の大きな手は、暖かくてとても心地良いです。
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