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風紀委員長様は飼いネコに引っ掻かれる(休日編)
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……などと気楽に構えていたのだが、気づけば真夜中になっていた。つまりは、話すのをすっかり忘れていたのである。
イベント終わりで瑞貴も相当疲れているはずだ。俺も疲れている。電話で起こすのは忍びない。俺も面倒臭い。眠い。
よし。メールで済ませてしまおう。そうしよう。
そして朝一番に、瑞貴に怒鳴り込まれて、大目玉を喰らっている。
……なぜだ?
「そんな大事なことを、なぜ直前に言うんですかっ!」
「昨日言うつもりが、そのまま忘れてしまったんだ。何事もタイミングを逃してはいけないな」
「しみじみ反省してますが、あんた毎回そんなことの繰り返しですよ」
あんた呼ばわりされた。これは相当ご立腹だぞ。
とりあえずパジャマくらい着替えたいのだが、おかんむり瑞貴が断崖のように立ちふさがっていてソファから動けそうにない。足を組み、寝ぐせ頭をかきあげながら溜息を吐く。こんなことになるのなら、昼ギリギリになってから連絡すればよかった。失敗した。
「俺も急に言われたんだ。お互いあの人に振り回されて難儀な身の上だな。茶でも飲むか?」
「いりません。味方ヅラしないでください」
「瑞貴は何事も大げさに考え過ぎだ。あの人の相手は俺がするから、おまえは部屋に籠っていればいい」
「同じフロアで知らんぷりは不自然でしょうが。あの方のことですから、絶対私の部屋も覗きにくるでしょうし、一応お世話にはなってますから、挨拶くらいしますよ。私が憂いているのは、おもてなしの準備も、心づもりも全くできていない今の状況です。誰かさんのせいで」
「どこの誰だ。俺がとっちめてやる」
「一度殴ってもいいですか?」
先週から言い忘れていたという事実は伏せておこう。
本当に殴られる可能性がある。
「外泊届は出しましたか?」
「いや?」
「え? 数年ぶりの再会で、まさか今日一日で終わると思ってます? 甘いですよ。朝地(あさじ)さんにスケジュール確認した方が早いですね。私から連絡しておきます」
数年ぶりに、その名を聞いた。父の側近中の側近で親友でもある男だ。
まさか瑞貴の口から聞くことになろうとは……。
「あんなに嫌っていたのに、随分と親しげじゃないか」
「ええまあ、あの人は弱者でも平気で痛めつける凶悪クズ親父ですが、藤堂財閥のために利用できると判断した人間には的確にアドバイスしてくれますから。たまに相談させてもらっています」
「今さら何を? おまえがどんなに弱っていようが、一切手を差し伸べなかった薄情な男だぞ?」
「それは当時の私に利用価値が無かったからですね」
「今はあると?」
「ええ。利害が一致しましたから」
「?」
「玲一様。あなたは私が藤堂家と関わるのを良しとしていませんが、私は将来、朝地さんに師事し、藤堂家にお仕えするつもりでいます。それは留司様もご存じです」
「……は?」
いっぺんに目が覚めた。
「ふふっ。玲一様のそんな驚いた顔は珍しいですね。気分がいいです」
瑞貴は俺の前にしゃがむと、膝がしらに両手を乗せてきた。
「あなたは私がネコのように自由に生きるのをお望みなのでしょう? 御主人様のお墨付きは貰えているので、これからは好き勝手させてもらいます。もちろん止めませんよね?」
「……瑞貴」
なんてことだ。
うちの可愛いニャンコが、ヤル気満々で伏魔殿に飛び込もうとしている。そんな上目遣いでおねだりされたら止められないじゃないか。あざとすぎる。撫でたくて手がウズウズする。
言いたいことを全て言い切ったのか、清々しい表情で瑞貴が立ち上がった。
(……まいったな)
彼には悪いが俺はまだ納得できていない。朝地に師事だと? 俺からすれば、あんな狡猾な男に瑞貴を人質にとられてたまるか。冗談じゃない。
まずは父から話を聞いてみよう。幸い向こうから網に飛び込んできてくれる。好都合だ。
「玲一様、いい加減に着替えてください。だらしがないです」
「わかった、わかった」
ぶつぶつ言いながらも、瑞貴はキッチンでお茶を用意してくれている。その背中を、伸びをしながらなんとなく眺めていたら、俺は衝撃の事実に気づいてしまった。
「瑞貴、おまえ……ずいぶんと背が伸びてないか? そこにまっすぐ立ってみろ」
「――ッ!」
一歩下がって、正面からまじまじと観察してみる。
間違いない。俺と目線の高さが同じじゃないか。なんてことだ。身近な存在過ぎて、ゆるやかな変化にちっとも気づかなかった。この間違い探しは、えらく難しかったぞ。
「……お、遅れて成長期がきたみたいで……」
「ふうん。ラストスパートでぐんぐん記録が伸びたってところか。この勢いだと、俺を追い抜くんじゃないか? 驚いたな」
執拗な視線に身の置き所がない様子で、瑞貴がうつむいた。
「……玲一様は、こんな私はお嫌いですか?」
「なぜ? 飼いネコがスクスク育ってくれてるんだ。嬉しいに決まってる」
ぱあああと、それはもう嬉しそうに瑞貴の顔がほころんだ。
いやもう充分可愛いだろうが。うちのネコったら優勝。世界一。
さて、着替えるか。
クローゼットの前で胸元のボタンをはずし始めると、瑞貴がひょっこり顔を覗かせた。
「玲一様、私は一旦自分の部屋へと戻りますので」
「俺のナマ着替えは見ていかなくていいのか?」
「遠慮します!」
大慌てで遠ざかっていく足音に、自然と口角が上がっていく。
もっと自信を持っていいのに……。
あんな愛らしいネコ、嫌いになれるはずなんてない。
軽く身だしなみを整えてから、念のために携帯を確認する。
すると、予想外の男からメッセージが届いていた。
『今夜夕飯いいか? 渡したいものもある』
如月からだった。
渡したいもの? 何だろう?
(……ケーキかな?)
腹の虫が、キュウと小さく鳴った。
イベント終わりで瑞貴も相当疲れているはずだ。俺も疲れている。電話で起こすのは忍びない。俺も面倒臭い。眠い。
よし。メールで済ませてしまおう。そうしよう。
そして朝一番に、瑞貴に怒鳴り込まれて、大目玉を喰らっている。
……なぜだ?
「そんな大事なことを、なぜ直前に言うんですかっ!」
「昨日言うつもりが、そのまま忘れてしまったんだ。何事もタイミングを逃してはいけないな」
「しみじみ反省してますが、あんた毎回そんなことの繰り返しですよ」
あんた呼ばわりされた。これは相当ご立腹だぞ。
とりあえずパジャマくらい着替えたいのだが、おかんむり瑞貴が断崖のように立ちふさがっていてソファから動けそうにない。足を組み、寝ぐせ頭をかきあげながら溜息を吐く。こんなことになるのなら、昼ギリギリになってから連絡すればよかった。失敗した。
「俺も急に言われたんだ。お互いあの人に振り回されて難儀な身の上だな。茶でも飲むか?」
「いりません。味方ヅラしないでください」
「瑞貴は何事も大げさに考え過ぎだ。あの人の相手は俺がするから、おまえは部屋に籠っていればいい」
「同じフロアで知らんぷりは不自然でしょうが。あの方のことですから、絶対私の部屋も覗きにくるでしょうし、一応お世話にはなってますから、挨拶くらいしますよ。私が憂いているのは、おもてなしの準備も、心づもりも全くできていない今の状況です。誰かさんのせいで」
「どこの誰だ。俺がとっちめてやる」
「一度殴ってもいいですか?」
先週から言い忘れていたという事実は伏せておこう。
本当に殴られる可能性がある。
「外泊届は出しましたか?」
「いや?」
「え? 数年ぶりの再会で、まさか今日一日で終わると思ってます? 甘いですよ。朝地(あさじ)さんにスケジュール確認した方が早いですね。私から連絡しておきます」
数年ぶりに、その名を聞いた。父の側近中の側近で親友でもある男だ。
まさか瑞貴の口から聞くことになろうとは……。
「あんなに嫌っていたのに、随分と親しげじゃないか」
「ええまあ、あの人は弱者でも平気で痛めつける凶悪クズ親父ですが、藤堂財閥のために利用できると判断した人間には的確にアドバイスしてくれますから。たまに相談させてもらっています」
「今さら何を? おまえがどんなに弱っていようが、一切手を差し伸べなかった薄情な男だぞ?」
「それは当時の私に利用価値が無かったからですね」
「今はあると?」
「ええ。利害が一致しましたから」
「?」
「玲一様。あなたは私が藤堂家と関わるのを良しとしていませんが、私は将来、朝地さんに師事し、藤堂家にお仕えするつもりでいます。それは留司様もご存じです」
「……は?」
いっぺんに目が覚めた。
「ふふっ。玲一様のそんな驚いた顔は珍しいですね。気分がいいです」
瑞貴は俺の前にしゃがむと、膝がしらに両手を乗せてきた。
「あなたは私がネコのように自由に生きるのをお望みなのでしょう? 御主人様のお墨付きは貰えているので、これからは好き勝手させてもらいます。もちろん止めませんよね?」
「……瑞貴」
なんてことだ。
うちの可愛いニャンコが、ヤル気満々で伏魔殿に飛び込もうとしている。そんな上目遣いでおねだりされたら止められないじゃないか。あざとすぎる。撫でたくて手がウズウズする。
言いたいことを全て言い切ったのか、清々しい表情で瑞貴が立ち上がった。
(……まいったな)
彼には悪いが俺はまだ納得できていない。朝地に師事だと? 俺からすれば、あんな狡猾な男に瑞貴を人質にとられてたまるか。冗談じゃない。
まずは父から話を聞いてみよう。幸い向こうから網に飛び込んできてくれる。好都合だ。
「玲一様、いい加減に着替えてください。だらしがないです」
「わかった、わかった」
ぶつぶつ言いながらも、瑞貴はキッチンでお茶を用意してくれている。その背中を、伸びをしながらなんとなく眺めていたら、俺は衝撃の事実に気づいてしまった。
「瑞貴、おまえ……ずいぶんと背が伸びてないか? そこにまっすぐ立ってみろ」
「――ッ!」
一歩下がって、正面からまじまじと観察してみる。
間違いない。俺と目線の高さが同じじゃないか。なんてことだ。身近な存在過ぎて、ゆるやかな変化にちっとも気づかなかった。この間違い探しは、えらく難しかったぞ。
「……お、遅れて成長期がきたみたいで……」
「ふうん。ラストスパートでぐんぐん記録が伸びたってところか。この勢いだと、俺を追い抜くんじゃないか? 驚いたな」
執拗な視線に身の置き所がない様子で、瑞貴がうつむいた。
「……玲一様は、こんな私はお嫌いですか?」
「なぜ? 飼いネコがスクスク育ってくれてるんだ。嬉しいに決まってる」
ぱあああと、それはもう嬉しそうに瑞貴の顔がほころんだ。
いやもう充分可愛いだろうが。うちのネコったら優勝。世界一。
さて、着替えるか。
クローゼットの前で胸元のボタンをはずし始めると、瑞貴がひょっこり顔を覗かせた。
「玲一様、私は一旦自分の部屋へと戻りますので」
「俺のナマ着替えは見ていかなくていいのか?」
「遠慮します!」
大慌てで遠ざかっていく足音に、自然と口角が上がっていく。
もっと自信を持っていいのに……。
あんな愛らしいネコ、嫌いになれるはずなんてない。
軽く身だしなみを整えてから、念のために携帯を確認する。
すると、予想外の男からメッセージが届いていた。
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如月からだった。
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