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風紀委員長様は恩返しされる(風紀委員会室編)
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手帳の落とし主は、とても律儀な性格だったようだ。
俺としては、ただの仕事の一環だったのだが、わざわざ礼を言いにきてくれたらしい。
「あ、あの、これっ! 本当につまらない物ですが!」
恐縮しながら差し出された紙袋をみて、俺の顔面は固まった。
「……これは」
「俺の実家が店やってて、こういうのたくさん送ってくるんです。ひとりじゃ処理しきれないんで、良かったら風紀の皆さんで分けてください」
俺が本能的に受け取ると、ツル(仮)は、照れ臭そうに顔を赤らめながら微笑んだ。
「……すまないな。ありがとう」
「いえ、こちらこそ、手帳ありがとうございました。お仕事頑張ってください。それでは失礼しますっ!」
元気よく頭を下げて、ツル(仮)は去って行った。
人の顔を覚えるのは苦手だが、あの生徒の顔はしっかり覚えたぞ。名前聞くの忘れたが……まあいいか。
上機嫌で委員会室に入った俺を、ネコ(瑞貴)が眉間にシワを寄せて待ち構えていた。食堂での一件をまだ根に持っているのだろう。他の委員もいないし、じっくり詰問する気満々のようだ。
「……それはなんですか?」
「ツルから恩返しされた」
「はあ?」
「俺が手帳を届けたことがあっただろう。その礼だそうだ。皆で食べよう」
「ああ、あの時の……」
瑞貴が紙袋を受け取り、怪訝そうに中身を覗き込む。
「……子供用の駄菓子の詰め合わせじゃないですか。ずいぶんとまたレトロな……」
「すごいだろう。知らないものばかりで俺は感動している。宝の山だ」
「……まあ、子供の頃からあなたは外国暮らしでしたからね。それに、こんな庶民的な食べ物を、あなたの御父上が与えられるはずがないですし」
「……父親の話はやめてくれ。気分が台無しになる」
「いい加減に仲直りされたらどうですか?」
「……何か言われたのか?」
「定期的に、泣きのメールが私にも届きます」
「世話をかけてすまないな。無視していいぞ」
「そんな恐ろしいこと出来るわけがないでしょう。返事の代わりに、たまにあなたの動画や写真を送ることで事なきを得ています」
「……」
「愛されてますね、玲一様」
にっこり微笑まれたが全然嬉しくない。仮面のような表情で圧が凄い。
瑞貴は俺の家族を心の底から毛嫌いしている。その筆頭から日々メールが届くのは、さぞかし鬱陶しいことだろう。
「……悪かった。だが、なぜ俺に知らせない? 親父に口止めでもされていたのか?」
「いいえ何も。あの方があなたに無視され、落ち込んでおられる様が面白かっただけです。しかし写真だけでは収まらず、要求がエスカレートしそうなので、こうしてお話ししました。なんとかしてください」
親父が瑞貴に何を要求しだしたのか、確認するのはやめておこう。俺の心の平穏のために……。
「わかった。あとで親父に連絡を入れる」
「ありがとうございます」
「入れるから、食堂での一件をチャラにしてくれないか?」
「駄目です。それとこれとは別問題です」
菓子を持って、瑞貴は給湯室へ向かった。
こんな時に限って、仕事が少なく、俺と瑞貴の緩衝材になってくれそうな委員は誰もいない。なんならあのツル(仮)を部屋に招けばよかった。失敗した。
「それで玲一様、なぜ副会長と昼食を?」
瑞貴は俺のデスクに紅茶を置くと、冷ややかな眼差しで見下ろしてきた。
「さっきの菓子は?」
「アレは私が管理して配ります。特にあなたは際限なく食べてしまいますから」
「俺は子供か」
「話をそらさないでください。あなたが塚崎を誘ったんですか?」
「ああ、そうだ。もういいだろう? 大したことではない」
「いいえ、そうはいきません」
……しつこいな。
俺が眉を寄せても、瑞貴に引く気配はない。
彼がここまで食い下がってくることに違和感を覚える。
「風紀と生徒会が慣れ合うのは感心しませんね」
「別に慣れ合うつもりはないが、敵対するつもりもない。風紀委員長として、もう少し人脈を広げようと思っただけだ。食事を一度したくらいで、何をそんなに目くじら立てることがある?」
「塚崎は如月会長とは特に懇意な間柄です。如月家に近い人間と親しくしていることが本宅にバレれば、あなたと言えど、どんなお叱りをこうむるか……、私はそれが心配なのです」
「……如月と仲良くしてはいけないのか?」
先程から、瑞貴が何を危惧しているのか分からない。
何故、この話に如月家が絡んでくるんだ?
頭上にいくつものクエスチョンマークが浮かぶ。
すると彼は、突然ハッとしたように目を見開いた。
「……まさか……いや、いやいやいやっ! そんな今さら……」
小さくブツブツと呟いているが、心の声が全部出ているぞ。
どうした瑞貴? こんなに動揺している姿は珍しい。
「玲一様、つかぬ事をお聞きします」
瑞貴は気持ちを落ち着かせるように、一度大きく深呼吸した。
「まさかあなたは、御自分の家と如月財閥が、長年に渡り犬猿の仲だという事実を……ご存じないのですか?」
俺と如月の家が? そうなのか?
「初耳だな」
「初耳かいっ!」
コンマ一秒の速さで瑞貴に突っ込まれた。
俺としては、ただの仕事の一環だったのだが、わざわざ礼を言いにきてくれたらしい。
「あ、あの、これっ! 本当につまらない物ですが!」
恐縮しながら差し出された紙袋をみて、俺の顔面は固まった。
「……これは」
「俺の実家が店やってて、こういうのたくさん送ってくるんです。ひとりじゃ処理しきれないんで、良かったら風紀の皆さんで分けてください」
俺が本能的に受け取ると、ツル(仮)は、照れ臭そうに顔を赤らめながら微笑んだ。
「……すまないな。ありがとう」
「いえ、こちらこそ、手帳ありがとうございました。お仕事頑張ってください。それでは失礼しますっ!」
元気よく頭を下げて、ツル(仮)は去って行った。
人の顔を覚えるのは苦手だが、あの生徒の顔はしっかり覚えたぞ。名前聞くの忘れたが……まあいいか。
上機嫌で委員会室に入った俺を、ネコ(瑞貴)が眉間にシワを寄せて待ち構えていた。食堂での一件をまだ根に持っているのだろう。他の委員もいないし、じっくり詰問する気満々のようだ。
「……それはなんですか?」
「ツルから恩返しされた」
「はあ?」
「俺が手帳を届けたことがあっただろう。その礼だそうだ。皆で食べよう」
「ああ、あの時の……」
瑞貴が紙袋を受け取り、怪訝そうに中身を覗き込む。
「……子供用の駄菓子の詰め合わせじゃないですか。ずいぶんとまたレトロな……」
「すごいだろう。知らないものばかりで俺は感動している。宝の山だ」
「……まあ、子供の頃からあなたは外国暮らしでしたからね。それに、こんな庶民的な食べ物を、あなたの御父上が与えられるはずがないですし」
「……父親の話はやめてくれ。気分が台無しになる」
「いい加減に仲直りされたらどうですか?」
「……何か言われたのか?」
「定期的に、泣きのメールが私にも届きます」
「世話をかけてすまないな。無視していいぞ」
「そんな恐ろしいこと出来るわけがないでしょう。返事の代わりに、たまにあなたの動画や写真を送ることで事なきを得ています」
「……」
「愛されてますね、玲一様」
にっこり微笑まれたが全然嬉しくない。仮面のような表情で圧が凄い。
瑞貴は俺の家族を心の底から毛嫌いしている。その筆頭から日々メールが届くのは、さぞかし鬱陶しいことだろう。
「……悪かった。だが、なぜ俺に知らせない? 親父に口止めでもされていたのか?」
「いいえ何も。あの方があなたに無視され、落ち込んでおられる様が面白かっただけです。しかし写真だけでは収まらず、要求がエスカレートしそうなので、こうしてお話ししました。なんとかしてください」
親父が瑞貴に何を要求しだしたのか、確認するのはやめておこう。俺の心の平穏のために……。
「わかった。あとで親父に連絡を入れる」
「ありがとうございます」
「入れるから、食堂での一件をチャラにしてくれないか?」
「駄目です。それとこれとは別問題です」
菓子を持って、瑞貴は給湯室へ向かった。
こんな時に限って、仕事が少なく、俺と瑞貴の緩衝材になってくれそうな委員は誰もいない。なんならあのツル(仮)を部屋に招けばよかった。失敗した。
「それで玲一様、なぜ副会長と昼食を?」
瑞貴は俺のデスクに紅茶を置くと、冷ややかな眼差しで見下ろしてきた。
「さっきの菓子は?」
「アレは私が管理して配ります。特にあなたは際限なく食べてしまいますから」
「俺は子供か」
「話をそらさないでください。あなたが塚崎を誘ったんですか?」
「ああ、そうだ。もういいだろう? 大したことではない」
「いいえ、そうはいきません」
……しつこいな。
俺が眉を寄せても、瑞貴に引く気配はない。
彼がここまで食い下がってくることに違和感を覚える。
「風紀と生徒会が慣れ合うのは感心しませんね」
「別に慣れ合うつもりはないが、敵対するつもりもない。風紀委員長として、もう少し人脈を広げようと思っただけだ。食事を一度したくらいで、何をそんなに目くじら立てることがある?」
「塚崎は如月会長とは特に懇意な間柄です。如月家に近い人間と親しくしていることが本宅にバレれば、あなたと言えど、どんなお叱りをこうむるか……、私はそれが心配なのです」
「……如月と仲良くしてはいけないのか?」
先程から、瑞貴が何を危惧しているのか分からない。
何故、この話に如月家が絡んでくるんだ?
頭上にいくつものクエスチョンマークが浮かぶ。
すると彼は、突然ハッとしたように目を見開いた。
「……まさか……いや、いやいやいやっ! そんな今さら……」
小さくブツブツと呟いているが、心の声が全部出ているぞ。
どうした瑞貴? こんなに動揺している姿は珍しい。
「玲一様、つかぬ事をお聞きします」
瑞貴は気持ちを落ち着かせるように、一度大きく深呼吸した。
「まさかあなたは、御自分の家と如月財閥が、長年に渡り犬猿の仲だという事実を……ご存じないのですか?」
俺と如月の家が? そうなのか?
「初耳だな」
「初耳かいっ!」
コンマ一秒の速さで瑞貴に突っ込まれた。
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