風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)

文字の大きさ
上 下
28 / 59

風紀委員長様は恩返しされる(風紀委員会室編)

しおりを挟む
 手帳の落とし主は、とても律儀な性格だったようだ。
 俺としては、ただの仕事の一環だったのだが、わざわざ礼を言いにきてくれたらしい。

「あ、あの、これっ! 本当につまらない物ですが!」

 恐縮しながら差し出された紙袋をみて、俺の顔面は固まった。

「……これは」
「俺の実家が店やってて、こういうのたくさん送ってくるんです。ひとりじゃ処理しきれないんで、良かったら風紀の皆さんで分けてください」

 俺が本能的に受け取ると、ツル(仮)は、照れ臭そうに顔を赤らめながら微笑んだ。

「……すまないな。ありがとう」
「いえ、こちらこそ、手帳ありがとうございました。お仕事頑張ってください。それでは失礼しますっ!」

 元気よく頭を下げて、ツル(仮)は去って行った。
 人の顔を覚えるのは苦手だが、あの生徒の顔はしっかり覚えたぞ。名前聞くの忘れたが……まあいいか。

 上機嫌で委員会室に入った俺を、ネコ(瑞貴)が眉間にシワを寄せて待ち構えていた。食堂での一件をまだ根に持っているのだろう。他の委員もいないし、じっくり詰問する気満々のようだ。

「……それはなんですか?」
「ツルから恩返しされた」
「はあ?」
「俺が手帳を届けたことがあっただろう。その礼だそうだ。皆で食べよう」
「ああ、あの時の……」

 瑞貴が紙袋を受け取り、怪訝そうに中身を覗き込む。

「……子供用の駄菓子の詰め合わせじゃないですか。ずいぶんとまたレトロな……」
「すごいだろう。知らないものばかりで俺は感動している。宝の山だ」
「……まあ、子供の頃からあなたは外国暮らしでしたからね。それに、こんな庶民的な食べ物を、あなたの御父上が与えられるはずがないですし」
「……父親の話はやめてくれ。気分が台無しになる」
「いい加減に仲直りされたらどうですか?」
「……何か言われたのか?」
「定期的に、泣きのメールが私にも届きます」
「世話をかけてすまないな。無視していいぞ」
「そんな恐ろしいこと出来るわけがないでしょう。返事の代わりに、たまにあなたの動画や写真を送ることで事なきを得ています」
「……」
「愛されてますね、玲一様」

 にっこり微笑まれたが全然嬉しくない。仮面のような表情で圧が凄い。
 瑞貴は俺の家族を心の底から毛嫌いしている。その筆頭から日々メールが届くのは、さぞかし鬱陶しいことだろう。

「……悪かった。だが、なぜ俺に知らせない? 親父に口止めでもされていたのか?」
「いいえ何も。あの方があなたに無視され、落ち込んでおられる様が面白かっただけです。しかし写真だけでは収まらず、要求がエスカレートしそうなので、こうしてお話ししました。なんとかしてください」

 親父が瑞貴に何を要求しだしたのか、確認するのはやめておこう。俺の心の平穏のために……。

「わかった。あとで親父に連絡を入れる」
「ありがとうございます」
「入れるから、食堂での一件をチャラにしてくれないか?」
「駄目です。それとこれとは別問題です」

 菓子を持って、瑞貴は給湯室へ向かった。
 こんな時に限って、仕事が少なく、俺と瑞貴の緩衝材になってくれそうな委員は誰もいない。なんならあのツル(仮)を部屋に招けばよかった。失敗した。

「それで玲一様、なぜ副会長と昼食を?」

 瑞貴は俺のデスクに紅茶を置くと、冷ややかな眼差しで見下ろしてきた。

「さっきの菓子は?」
「アレは私が管理して配ります。特にあなたは際限なく食べてしまいますから」
「俺は子供か」
「話をそらさないでください。あなたが塚崎を誘ったんですか?」
「ああ、そうだ。もういいだろう? 大したことではない」
「いいえ、そうはいきません」

 ……しつこいな。
 俺が眉を寄せても、瑞貴に引く気配はない。
 彼がここまで食い下がってくることに違和感を覚える。

「風紀と生徒会が慣れ合うのは感心しませんね」
「別に慣れ合うつもりはないが、敵対するつもりもない。風紀委員長として、もう少し人脈を広げようと思っただけだ。食事を一度したくらいで、何をそんなに目くじら立てることがある?」
「塚崎は如月会長とは特に懇意な間柄です。如月家に近い人間と親しくしていることが本宅にバレれば、あなたと言えど、どんなお叱りをこうむるか……、私はそれが心配なのです」
「……如月と仲良くしてはいけないのか?」

 先程から、瑞貴が何を危惧しているのか分からない。
 何故、この話に如月家が絡んでくるんだ?
 頭上にいくつものクエスチョンマークが浮かぶ。

 すると彼は、突然ハッとしたように目を見開いた。

「……まさか……いや、いやいやいやっ! そんな今さら……」

 小さくブツブツと呟いているが、心の声が全部出ているぞ。
 どうした瑞貴? こんなに動揺している姿は珍しい。

「玲一様、つかぬ事をお聞きします」

 瑞貴は気持ちを落ち着かせるように、一度大きく深呼吸した。
 
「まさかあなたは、御自分の家と如月財閥が、長年に渡り犬猿の仲だという事実を……ご存じないのですか?」

 俺と如月の家が? そうなのか?

「初耳だな」
「初耳かいっ!」

 コンマ一秒の速さで瑞貴に突っ込まれた。
しおりを挟む
白光猫の小説情報を随時更新中です。
twitterアカウント ⇒ @shiromitsu_nyan
感想 37

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

パパの雄っぱいが大好き過ぎて23歳息子は未だに乳離れできません!父だけに!

ミクリ21
BL
乳と父をかけてます。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

処理中です...