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風紀委員長様は転校生と初めて話す(食堂編)
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食堂に似つかわしくないバタバタした足音を響かせて、そのモサモサ頭の奇妙な生物は嬉しそうに近づいてきた。満面の笑みだ。
それとは対照的に、大声で【伊織】と名指しされた塚崎の顔色が、明らかに剣呑な表情に切り替わってしまった。
先程までの可愛らしいニャンコっぷりが見る影もない。
「久しぶりだな伊織! 最近全然会えてなかったから心配してたんだ。俺がいなくて寂しかっただろ?」
転校生から俺の顔を隠すようにして、塚崎が立ち上がった。
どうやら自分一人で処理するつもりらしい。
「……お久しぶりです。純太、お会いできたのは嬉しいですが、残念ながらここは役員以外は立ち入り禁止の場所です。お話しはまた次回会った時にしましょう。とりあえず一階へ……」
「なんでだよ。前はここで一緒に食べてたじゃないか。生徒会室にも寮にも急に入れなくなっちゃったし、同じ生徒なのに差別はいけないと思う。今日は俺もここで食べる。他人の目なんて気にするな。伊織もその方が楽しいだろ」
「いけません。さあ一階へ行きましょう。ここにいて罰を受けるのはあなただけなのですよ?」
「いやだっ! 伊織の意地っ張り!」
せっかく塚崎が差しのべた手を、バチンと乱暴に転校生は弾き返した。痛そうな音だった。転校生は噂通りの性格らしい。
しかし元はといえば、恋にトチ狂って転校生を優遇してしまった塚崎たちの自業自得なのだ。自分たちで蒔いた種は、最後まで責任を持って刈りとってほしい。俺は見守っているぞ。背後から飯を食いながら。この漬け物うまい。
そう思っていたのに、塚崎が少しズレたときに、転校生と目が合ってしまった。呆けたようにこちらを見つめている。
……俺の顔に、飯粒でも付いているのか?
「……お……まえ、すごくカッコイイな」
伊織を押しのけて、転校生がズンズンと目の前にやってきた。
テーブルに両手をバンと付き、目を爛々と輝かせて、俺の顔面をいろいろな角度から覗きこんでくる。慌てた塚崎が転校生の肩に手をかけようとしたが、俺は目で制した。
「俺は一年の高宮純太だ。おまえの名前は? 俺と友達になろう」
ニパッと笑顔満開で話しかけられた。
……よくその恥ずかしいナリで自己紹介できるな。
いかにもカツラの不潔そうなモジャモジャ頭に、顔の半分をしめる伊達っぽいダサ黒縁眼鏡。小柄なので頭でっかちに見える。
とにかく【素顔隠している感】がすごい。
たぶん変装といたら美少年とか、そんな在り来たりな秘密なのだろうが、興味が湧かないから触れる気も起こらない。
「俺は風紀委員長の藤堂だ」
「下の名前は? あっ、俺のことは純太って呼んでいいぞ。みんなそう呼んでる。みんな友達だからな」
立ち上がってまで相手をする人物でもなさそうだ。
「先ほど副会長が警告した通り、ここは役員以外立ち入り禁止だ。速やかに一階へ降りろ。従わない場合は、風紀委員としてそれなりの対処をする」
「……初対面の人間にそんな失礼なこと言ったらダメだぞ。俺は気にしないけど今度から気をつけろよ? それより下の名前は? 友達になってやるって言ってんだろ」
以前、如月奪還のために、俺の部屋を急襲したことを覚えていないのか?
自分に都合が悪いことは忘れる頭らしい。
「……そうか、そんなに俺と友達になりたいのか?」
「うん。なりたい」
「どうしても? 名前も知りたい?」
「うん!」
転校生の背後では、塚崎が探るような眼差しでこちらを見ている。
「なら、その口調を改めてくれないか。俺は下級生からそういうふうに話しかけられるのに慣れていないんだ。副会長もそれが分かっているから、俺にはすごく丁寧な口調で話しかけてくれる。だから一緒に食事をする程の友達になれたんだ。なあ【伊織】? そうだよな?」
「……はっ? え、ええ、そうですね」
塚崎がコクコクと頷いた。耳が赤いがどうした?
「……でも、俺はおまえと対等に話したい。友達ってそういうもんだろ?」
転校生は腑に落ちないようだ。
「そうか。それなら残念だが話はこれで終わりだ。ここにはキミが座る席は無い。邪魔だから出ていってくれないか。……ほら【伊織】、いつまでも立ってないで座れよ。食事の続きをしようじゃないか」
俺は初めて転校生の前で笑みを浮かべた。
ことさら優しい口調で、塚崎へテーブルにつくように促すと、ギクシャクとしながらも彼は従った。……だから顔が真っ赤なんだが、どうしたんだ?
「【伊織】……キミは【そこの転校生よりも】俺の願いに耳を傾けてくれるし、礼儀正しくて思いやりがある。そういう優しいキミだからこそ、友達になれたんだ。大好きだよ、【伊織】……俺の親友はキミだけだ。キミもそうだろう?」
「……は、はい。そ……そうです……ね」
「おっ……俺だって出来るぞ! こっちむけよ! 無視すんな!」
いないように扱われて、転校生が癇癪を起こした。
こんなに高速で地団太を踏む奴を、リアルで初めて見たぞ。
「……本当に? キミに出来るのか? それなら自己紹介から仕切り直そう。……ほら、やってみてくれないか」
「……え……あ……もういいだろ。さっきしたんだから」
「口調が全然直ってないな。いま言ったことは嘘だったのか?」
冷たい眼差しで指摘する。
「うっ、嘘じゃない……です」
「いい子だな。ほら自己紹介してみろ。聞いてやる。……相手がキミだから、聞いてやるんだ」
柔らかく自尊心を刺激してやれば、転校生はごくりと唾を飲みこんだ。
認められるのに必死で、上下関係が逆になったことも気づかない。
「……俺の名前は、高宮純太だ……です。一年生です。と、友達に……なって……くれ、……くれませんか」
塚崎が目を瞠った。
転校生の敬語を初めて聞いたのかもしれない。
俺が返事をしないでいると、
「これでいいだろ! 俺と友達になれ! 下の名前教えろ!」
また転校生が駄々をこねだした。十秒も我慢が効かない体質らしい。
からかうのも飽きてきたな。
転校生の人となりも把握したことだし、そろそろ風紀委員として対処しようか……と思いかけたのだが、
「……おまえごときが委員長と友達に? ふざけるな。身の程知らずのウジ虫が……いますぐ殺す。グッチャグチャに叩き潰す」
……早かったな、瑞貴。
仮にもおまえは風紀委員だろう?
グッチャグチャは、さすがにマズイと思うぞ?
それとは対照的に、大声で【伊織】と名指しされた塚崎の顔色が、明らかに剣呑な表情に切り替わってしまった。
先程までの可愛らしいニャンコっぷりが見る影もない。
「久しぶりだな伊織! 最近全然会えてなかったから心配してたんだ。俺がいなくて寂しかっただろ?」
転校生から俺の顔を隠すようにして、塚崎が立ち上がった。
どうやら自分一人で処理するつもりらしい。
「……お久しぶりです。純太、お会いできたのは嬉しいですが、残念ながらここは役員以外は立ち入り禁止の場所です。お話しはまた次回会った時にしましょう。とりあえず一階へ……」
「なんでだよ。前はここで一緒に食べてたじゃないか。生徒会室にも寮にも急に入れなくなっちゃったし、同じ生徒なのに差別はいけないと思う。今日は俺もここで食べる。他人の目なんて気にするな。伊織もその方が楽しいだろ」
「いけません。さあ一階へ行きましょう。ここにいて罰を受けるのはあなただけなのですよ?」
「いやだっ! 伊織の意地っ張り!」
せっかく塚崎が差しのべた手を、バチンと乱暴に転校生は弾き返した。痛そうな音だった。転校生は噂通りの性格らしい。
しかし元はといえば、恋にトチ狂って転校生を優遇してしまった塚崎たちの自業自得なのだ。自分たちで蒔いた種は、最後まで責任を持って刈りとってほしい。俺は見守っているぞ。背後から飯を食いながら。この漬け物うまい。
そう思っていたのに、塚崎が少しズレたときに、転校生と目が合ってしまった。呆けたようにこちらを見つめている。
……俺の顔に、飯粒でも付いているのか?
「……お……まえ、すごくカッコイイな」
伊織を押しのけて、転校生がズンズンと目の前にやってきた。
テーブルに両手をバンと付き、目を爛々と輝かせて、俺の顔面をいろいろな角度から覗きこんでくる。慌てた塚崎が転校生の肩に手をかけようとしたが、俺は目で制した。
「俺は一年の高宮純太だ。おまえの名前は? 俺と友達になろう」
ニパッと笑顔満開で話しかけられた。
……よくその恥ずかしいナリで自己紹介できるな。
いかにもカツラの不潔そうなモジャモジャ頭に、顔の半分をしめる伊達っぽいダサ黒縁眼鏡。小柄なので頭でっかちに見える。
とにかく【素顔隠している感】がすごい。
たぶん変装といたら美少年とか、そんな在り来たりな秘密なのだろうが、興味が湧かないから触れる気も起こらない。
「俺は風紀委員長の藤堂だ」
「下の名前は? あっ、俺のことは純太って呼んでいいぞ。みんなそう呼んでる。みんな友達だからな」
立ち上がってまで相手をする人物でもなさそうだ。
「先ほど副会長が警告した通り、ここは役員以外立ち入り禁止だ。速やかに一階へ降りろ。従わない場合は、風紀委員としてそれなりの対処をする」
「……初対面の人間にそんな失礼なこと言ったらダメだぞ。俺は気にしないけど今度から気をつけろよ? それより下の名前は? 友達になってやるって言ってんだろ」
以前、如月奪還のために、俺の部屋を急襲したことを覚えていないのか?
自分に都合が悪いことは忘れる頭らしい。
「……そうか、そんなに俺と友達になりたいのか?」
「うん。なりたい」
「どうしても? 名前も知りたい?」
「うん!」
転校生の背後では、塚崎が探るような眼差しでこちらを見ている。
「なら、その口調を改めてくれないか。俺は下級生からそういうふうに話しかけられるのに慣れていないんだ。副会長もそれが分かっているから、俺にはすごく丁寧な口調で話しかけてくれる。だから一緒に食事をする程の友達になれたんだ。なあ【伊織】? そうだよな?」
「……はっ? え、ええ、そうですね」
塚崎がコクコクと頷いた。耳が赤いがどうした?
「……でも、俺はおまえと対等に話したい。友達ってそういうもんだろ?」
転校生は腑に落ちないようだ。
「そうか。それなら残念だが話はこれで終わりだ。ここにはキミが座る席は無い。邪魔だから出ていってくれないか。……ほら【伊織】、いつまでも立ってないで座れよ。食事の続きをしようじゃないか」
俺は初めて転校生の前で笑みを浮かべた。
ことさら優しい口調で、塚崎へテーブルにつくように促すと、ギクシャクとしながらも彼は従った。……だから顔が真っ赤なんだが、どうしたんだ?
「【伊織】……キミは【そこの転校生よりも】俺の願いに耳を傾けてくれるし、礼儀正しくて思いやりがある。そういう優しいキミだからこそ、友達になれたんだ。大好きだよ、【伊織】……俺の親友はキミだけだ。キミもそうだろう?」
「……は、はい。そ……そうです……ね」
「おっ……俺だって出来るぞ! こっちむけよ! 無視すんな!」
いないように扱われて、転校生が癇癪を起こした。
こんなに高速で地団太を踏む奴を、リアルで初めて見たぞ。
「……本当に? キミに出来るのか? それなら自己紹介から仕切り直そう。……ほら、やってみてくれないか」
「……え……あ……もういいだろ。さっきしたんだから」
「口調が全然直ってないな。いま言ったことは嘘だったのか?」
冷たい眼差しで指摘する。
「うっ、嘘じゃない……です」
「いい子だな。ほら自己紹介してみろ。聞いてやる。……相手がキミだから、聞いてやるんだ」
柔らかく自尊心を刺激してやれば、転校生はごくりと唾を飲みこんだ。
認められるのに必死で、上下関係が逆になったことも気づかない。
「……俺の名前は、高宮純太だ……です。一年生です。と、友達に……なって……くれ、……くれませんか」
塚崎が目を瞠った。
転校生の敬語を初めて聞いたのかもしれない。
俺が返事をしないでいると、
「これでいいだろ! 俺と友達になれ! 下の名前教えろ!」
また転校生が駄々をこねだした。十秒も我慢が効かない体質らしい。
からかうのも飽きてきたな。
転校生の人となりも把握したことだし、そろそろ風紀委員として対処しようか……と思いかけたのだが、
「……おまえごときが委員長と友達に? ふざけるな。身の程知らずのウジ虫が……いますぐ殺す。グッチャグチャに叩き潰す」
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