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風紀委員長様は級友に詰め寄られる(自室編)
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「……藤堂、話がある。こっちにこい」
冷たい視線はそのままに、如月が命令してきた。
俺にはまったく身に覚えはないが、何かが奴の逆鱗に触れたようだ。
まあ、こいつの機嫌を損ねたところで、俺には痛くも痒くもないのだが……まだ友達未満だしな。馴れ馴れしく会話していた最近こそ、むしろ異常な状況だったと言える。
「おまえと佐藤は付き合っているのか?」
「は?」
……真面目に身構えて損したようだ。
瑞貴にならって、俺もコイツを【バ会長】と呼びたくなってきたぞ。
「……気色の悪いことを言うな。俺と瑞貴はそんな関係ではない」
「ならどんな関係だ? 頭を撫でるだの、爪を立てるだの、可愛いだのと……佐藤を完全にネコ扱いしてるじゃねえか」
「可愛いんだからネコ扱いして何が悪い。瑞貴はどうみてもネコ属性だろう」
「それで……おまえがタチなのか?」
タチ? タチとは? ……ああ、そういうことか。
確か男同士の恋愛で、挿入する方が【タチ】で、入れられる方が【ネコ】だったか?
悲しいかな……風紀を取り締まるうちに、そんな専門用語まで覚えてしまった。
「誰がタチだ……いや、そもそも俺には男を抱く趣味は無い。勘ぐり過ぎだ。瑞貴は俺の恋人ではないし、もちろん肉体関係もない。単に軽口を叩きあって遊んでいる仲だ。……しかし、どういうことだ? 仮に俺達が付き合っているとしても、おまえには関係のない話だろう? 何故そこまで根掘り葉掘り聞いてくる?」
「単なる好奇心だ。浮いた話ひとつない風紀委員長の私生活が気になっただけだ」
「男だらけの学園で浮くもなにもあるか。入学当初から沈みっぱなしだ」
「へえ、そうなのか。外に恋人はいなかったのか? ずっとフリーか?」
「おい……話がどんどん逸れてきてないか? 男二人でこんな会話してて何が楽しい?」
「俺は楽しい。いいから答えろよ。いま付き合っている奴はいるのか?」
「そんなものはいない」
「好きな奴は?」
「いない。……もういいだろう。この話は終わりだ」
話せば話すほど、自分が可哀想になってくる。
「そうか……恋人はいないのか」
それなのに、じっくりと噛みしめるように如月に呟かれてしまった。
……おい。なぜそんなに嬉しそうなんだ?
俺の不幸話を聞いているうちにすっかり機嫌が直ったようだ。一発ぶん殴ってやろうか。
「それにしても、まさかここまで乗り込んでくるとは思わなかったぜ。転校生の印象はどうだった? 初めてみたんだろ?」
「そうだな……あそこまで生意気で礼儀知らずだと、捻じ伏せて痛めつけて許しを請うまで泣かせたくなる。生徒会は理事長から世話を焼くように頼まれたのだろう? 何故誰もやらない?」
「……それは世話じゃなく【調教】っていうんだよ。女王様」
誰が女王様だ。気色の悪いことを言うな。
「案外理事長も、そうして欲しくて生徒会に委ねたんじゃないのか?」
「いや……あれは甥を心底溺愛している様子だった。俺の調べでは、前の学校でも問題行動が多すぎて退学になったらしい。理事長はそのことを俺に伏せていた。本当に身内を鍛え直したければ、事前にそのことを話すのが筋じゃないか?」
確かに……風紀にもそういった事前連絡は入ってきてはいない。
「ここを追い出されれば転校生にはもう後がない。単純に、俺の傘の下に入れて対抗勢力の風紀から守らせたかったんだろう。案の定、生徒会の大半は転校生を庇っているから、理事長の思惑通りに事は進んでいる。ただ最大の誤算は、肝心の俺がいまだに転校生になびいていないことだ。伊織たちだけでは今の風紀には敵わない。この学園でおまえと対等に渡り合える実力者は俺くらいなものだからな」
「勝手におかしな相関図に組み込まないでもらおう。……とにかく、定例会が終われば春の行事が控えている。この先おまえひとりで生徒会の業務を回すことはさすがに不可能だ。重い腰を上げてそろそろ何とかするんだな。助けが欲しい時は遠慮なく声をかけろ。風紀委員として協力は惜しまない」
「了解。ただそこは【友人として】だろう? もう一度言い直せ」
「は? なにを言って……」
「言い直さなければ、俺は明日から転校生と仲良くなるぞ。この学園をぐっちゃぐちゃにしておまえの仕事をもっと増やしてやる。死なばもろともだ」
「……どういう脅迫だ。……友人として協力は惜しまない。これでいいか?」
「よし、合格」
「……」
満足げに微笑んだ如月は、こともあろうに俺の頭を撫でてきた。
俺もお返しとばかりに、如月の頭を思い切りはたいてやった。
とてもいい音がした。
冷たい視線はそのままに、如月が命令してきた。
俺にはまったく身に覚えはないが、何かが奴の逆鱗に触れたようだ。
まあ、こいつの機嫌を損ねたところで、俺には痛くも痒くもないのだが……まだ友達未満だしな。馴れ馴れしく会話していた最近こそ、むしろ異常な状況だったと言える。
「おまえと佐藤は付き合っているのか?」
「は?」
……真面目に身構えて損したようだ。
瑞貴にならって、俺もコイツを【バ会長】と呼びたくなってきたぞ。
「……気色の悪いことを言うな。俺と瑞貴はそんな関係ではない」
「ならどんな関係だ? 頭を撫でるだの、爪を立てるだの、可愛いだのと……佐藤を完全にネコ扱いしてるじゃねえか」
「可愛いんだからネコ扱いして何が悪い。瑞貴はどうみてもネコ属性だろう」
「それで……おまえがタチなのか?」
タチ? タチとは? ……ああ、そういうことか。
確か男同士の恋愛で、挿入する方が【タチ】で、入れられる方が【ネコ】だったか?
悲しいかな……風紀を取り締まるうちに、そんな専門用語まで覚えてしまった。
「誰がタチだ……いや、そもそも俺には男を抱く趣味は無い。勘ぐり過ぎだ。瑞貴は俺の恋人ではないし、もちろん肉体関係もない。単に軽口を叩きあって遊んでいる仲だ。……しかし、どういうことだ? 仮に俺達が付き合っているとしても、おまえには関係のない話だろう? 何故そこまで根掘り葉掘り聞いてくる?」
「単なる好奇心だ。浮いた話ひとつない風紀委員長の私生活が気になっただけだ」
「男だらけの学園で浮くもなにもあるか。入学当初から沈みっぱなしだ」
「へえ、そうなのか。外に恋人はいなかったのか? ずっとフリーか?」
「おい……話がどんどん逸れてきてないか? 男二人でこんな会話してて何が楽しい?」
「俺は楽しい。いいから答えろよ。いま付き合っている奴はいるのか?」
「そんなものはいない」
「好きな奴は?」
「いない。……もういいだろう。この話は終わりだ」
話せば話すほど、自分が可哀想になってくる。
「そうか……恋人はいないのか」
それなのに、じっくりと噛みしめるように如月に呟かれてしまった。
……おい。なぜそんなに嬉しそうなんだ?
俺の不幸話を聞いているうちにすっかり機嫌が直ったようだ。一発ぶん殴ってやろうか。
「それにしても、まさかここまで乗り込んでくるとは思わなかったぜ。転校生の印象はどうだった? 初めてみたんだろ?」
「そうだな……あそこまで生意気で礼儀知らずだと、捻じ伏せて痛めつけて許しを請うまで泣かせたくなる。生徒会は理事長から世話を焼くように頼まれたのだろう? 何故誰もやらない?」
「……それは世話じゃなく【調教】っていうんだよ。女王様」
誰が女王様だ。気色の悪いことを言うな。
「案外理事長も、そうして欲しくて生徒会に委ねたんじゃないのか?」
「いや……あれは甥を心底溺愛している様子だった。俺の調べでは、前の学校でも問題行動が多すぎて退学になったらしい。理事長はそのことを俺に伏せていた。本当に身内を鍛え直したければ、事前にそのことを話すのが筋じゃないか?」
確かに……風紀にもそういった事前連絡は入ってきてはいない。
「ここを追い出されれば転校生にはもう後がない。単純に、俺の傘の下に入れて対抗勢力の風紀から守らせたかったんだろう。案の定、生徒会の大半は転校生を庇っているから、理事長の思惑通りに事は進んでいる。ただ最大の誤算は、肝心の俺がいまだに転校生になびいていないことだ。伊織たちだけでは今の風紀には敵わない。この学園でおまえと対等に渡り合える実力者は俺くらいなものだからな」
「勝手におかしな相関図に組み込まないでもらおう。……とにかく、定例会が終われば春の行事が控えている。この先おまえひとりで生徒会の業務を回すことはさすがに不可能だ。重い腰を上げてそろそろ何とかするんだな。助けが欲しい時は遠慮なく声をかけろ。風紀委員として協力は惜しまない」
「了解。ただそこは【友人として】だろう? もう一度言い直せ」
「は? なにを言って……」
「言い直さなければ、俺は明日から転校生と仲良くなるぞ。この学園をぐっちゃぐちゃにしておまえの仕事をもっと増やしてやる。死なばもろともだ」
「……どういう脅迫だ。……友人として協力は惜しまない。これでいいか?」
「よし、合格」
「……」
満足げに微笑んだ如月は、こともあろうに俺の頭を撫でてきた。
俺もお返しとばかりに、如月の頭を思い切りはたいてやった。
とてもいい音がした。
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