風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)

文字の大きさ
上 下
5 / 59

風紀委員長様は放課後に愚痴を聞く(3―S教室編)

しおりを挟む
 瑞貴には委員会室に少し遅れる旨をメールしておいた。
 授業が終わって誰もいなくなった教室で、俺はいま如月とふたりきりだ。

 先程、忘れ物をしたらしい生徒が教室に入ってきたが、俺達と目が合った途端に、脱兎のごとく逃げていった。
 おいコラ、まがりなりにもクラスメイトだぞ? その態度はないだろう。

「……それで? 話というのは?」

 机に片肘をつき、俺の方へ身体を向けた状態で、如月が偉そうに問うてきた。

「ああ。例の転校生のことだ。生徒会は理事長から直接世話を頼まれたのだろう? その割には、あちこちで問題を起こしているじゃないか。理事長の甥ならば何をしても許されるわけではない。ちゃんと教育はしているのか?」
「それなんだが……俺も正直、考えあぐねているところだ」
「……なんだと?」

 普段の如月らしからぬハッキリしない返答に、俺は目を丸くした。
 なんだどうした? 天変地異の前触れか?

「俺以外の生徒会の役員どもが、次々と転校生にのめり込んでしまったんだ。それは聞いているか?」
「ああ。規則を破って食堂の二階席に上げるくらい惚れこんでいるようだとは報告を受けている」
「そうだ。しかも奴らは、ここ二週間全く生徒会の仕事をしていない。先ほども話したが、関係者以外立ち入り禁止の生徒会室にまで転校生を招き入れ、授業免除をいいことに遊び呆けているんだ」
「……は?」
「いくら注意しても誰一人聞く耳を持たない。あまりにも騒々しいから、保健室の一角を借りて、仮眠しながら仕事をしていたが、俺の処理能力もそろそろ限界を超えつつある。二週間、他言しなかったのは、あいつらが目を覚ますのを多少なりとも期待していたからだ。我ながら甘いとは思うが、転校生が来るまでは、気の合う大事な仲間だった。俺の求心力が無くなったといえばそれまでだが、あいつらの生徒会役員としての誇りと責任感にかけてみたくなったんだ。だがそれも、残り数時間で終わってしまうがな。来週の定例会で、あいつらは恥をさらすことになるだろう。俺もそこまで尻拭いするつもりもない」

 目の前で苦笑している男が、こんなにも弱音を吐いたところを初めて見た。
 予想の上をいく生徒会の現状に、似たような立場の人間として、かける言葉が咄嗟に思いつかなかった。

「そんな状態だったのに、よく保健室でセックスできたな。まだまだ元気じゃないか」
「……藤堂、慰めの角度が微妙にズレているぞ」

 俺もそう思うが、それしか浮かばなかったんだから許してくれ。

「そこはほら、【疲れマ○】ってやつだ。相手はもう忘れちまったが、性欲解消できてスッキリはした。いろいろ溜まっていたからな。親衛隊もたまには役に立つ」

 おまえも真面目に答えてくるんじゃない。
 だがいまのやりとりで、若干空気が和らいだように思えた。

「保健室での性行為は控えてほしいが、書類が遅れていたことに関しては、責めたりして悪かった」
「いや、迷惑かけてたのは事実だしな」
「しかし、あの副会長までもがそんな醜態をさらしているとは驚きだ」
「なんでも、初対面のときに【嘘くさい笑顔だ】と、転校生に一発で見破られたらしい。それでコロッと恋に落ちたんだと」
「そうか。俺はいままで副会長の【腹黒さ】をチャームポイントとしてとらえていた。腹黒対抗馬の瑞貴も、このことを知れば、さぞかし残念に思うだろう」
「……大喜びで、傷口に塩を塗りにくるんじゃないのか?」

 いつも瑞貴に噛みつかれている如月は、いまいち納得できていないようだった。

「とにかく、生徒会室が占拠されているのは由々しき事態だ。おまえ今日はどうする? いっそ風紀委員室へ来るか? 生徒会役員も転校生も、さすがにウチにまでは押し寄せてこないだろう」
「……いいのか?」
「ああ。ただし長期的に生徒会と慣れ合うつもりはない。あくまでも一時的避難だ」
「助かる。寮でもあいつらに付きまとわれて、困っていたところだ」
「……ん? 付きまとわれている?」

 生徒会室を占拠されているだけではなく?
 状況が把握できずに首をかしげていると、

「どうやら転校生の本命は俺らしい」

 如月が実に迷惑そうに答えてくれた。

「……なるほど。モテる男は苦労するな。まあ頑張れ」
「棒読みの激励ありがとう」

 それで嫉妬に狂った副会長たちが、如月の言うことを聞かなくなったと……そういうわけか。
 恋は盲目とはいうが……それにしても……。

 なにか……小骨が喉に引っかかっているような、この感覚はなんだろう。

 如月が本気で手を回せば、副会長たちはリコールされ、理事長も転校生もただでは済まないだろう。こいつの実家は理事長など歯牙にもかけない日本屈指の大財閥だ。
 そんな無敵の生徒会長が、受け身のまま黙って耐え続け、二週間も猶予を与えてくれていたことに、彼らは本当に気づいていないのか? そこまで愚かな奴らだったか? 

 如月はこの二週間、ひとりきりで生徒会の仕事をこなしていたという。
 遅れていた書類も、提出期限ギリギリではあったが、完璧に仕上がってた。

 そう……この男は遊び人にみえて、仕事となると常に完璧にこなす。完璧すぎるのだ。
 それは逆に、他の生徒会役員の存在意義を、否定する行為ではなかったのか?
 それが分かっていて如月もやっていたとしたら?
 実はこいつも、意地になっていたのだとしたら?

 如月は自分で処分すると言ってはいるが、二週間を待たずして俺に全ての事情を話してきた。
 考えすぎかもしれないが、それが俺には、第三者が介入してほしいという、無意識のSOSに感じられたのだ。

(……一度、副会長たちとも会っておくか)

 曲者ぞろいで面倒だが、如月にはオムライスとプリンの恩もある。

 そういえば、硬いプリンは寮でも作れるのか?
 瑞貴なら俺好みのものを作れるかもしれない。器用だから今度やらせてみるか。

「……藤堂? なにを考えている?」
「ん? 瑞貴の手作りプリンについてだ」
「ああん? なんだとコラ」

 ……如月が急にチンピラになったぞ。何故だ?
 こいつもなにかと面倒臭いやつだと、俺は秘かに溜息を吐いたのだった。
しおりを挟む
白光猫の小説情報を随時更新中です。
twitterアカウント ⇒ @shiromitsu_nyan
感想 37

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

パパの雄っぱいが大好き過ぎて23歳息子は未だに乳離れできません!父だけに!

ミクリ21
BL
乳と父をかけてます。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...