神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)

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第五十三話 ライバル登場らしいです。

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「……あ、……く、黒神子様?」

 謎の美少女改め美少年は、俺と目があった途端、絵に描いたようにオドオドと平伏した。

「おっ、お許しくださいませ! オスカー様にお会いできた嬉しさに、つい、いつものようにお声がけしてしまいました。僕はなんとお詫びすれば……ヒック、ヒック」

 え? 泣いてる? なんで?
 会って数秒で、俺が泣かしたみたいになってる!
 ただでさえ出戻り神子で肩身が狭いのに、美少年泣かせて何様俺様な展開に!

「……オスカー司教。この者は?」

 内心アワアワしながらも、すかした黒神子モードで隣に振ってみる。
 状況分からないときはオスカーに振っちゃえ~。なんとかしろ~。

「……名をキセラと申します。見ての通り、瞳も髪も黒みがかっておりますので、黒神子様がご不在の間、外見の特徴を生かして、表向きの勤めを補っていた神官のひとりです」
「私の代理ということですか?」
「カルス様に代われる者など、この世の何処にもおりません。……キセラ。このような場で黒神子様に声をかけるなど無礼にも程がある。下がって沙汰を待つように」

 いやこの子、俺をガン無視して、おめえに声かけてたけどな!

「オスカー司教、そこまでせずとも良い」
「しかし、カルス様」
「キセラといいましたね。ここには様々な気性や身分の者が出入りします。揉め事を避けるには、もう少し慎重に行動した方が良いでしょう」
「……はい。誠に申し訳ございませんでした」

 頭を下げたキセラはそのままに、出迎えたお偉いさんに先導されながら神殿内へと向かう。
 慈悲深さが売りの黒神子にしては、手を差し伸べることもせずに、少し冷たい態度だったかもしれない。でも俺なりに理由がある。

 今回、俺が乗ってきた馬車は、重厚感漂う護衛付きの最上級のものだ。
 神殿側も、久しぶりの黒神子相手に緊張感ビッキビキで、現に大勢の神官たちが、わざわざ出迎えにきている。先触れだってあっただろう。

 そんな状況で、いくら慕う人間を見つけたからって大声で叫ぶか?
 衆目のど真ん中で、しゃくりあげて泣くか?

 意図的な行動なのか、空気読めない男なだけなのか……。
 どちらにせよ、トラブルメーカーなことは確かだ。
 君子危うきに近寄らず。逃げるが勝ち。スタコラサッサー。

 案内された部屋には、次の大司教に就任予定のおじいさんがいた。あっ、この人知ってる。あんまり喋ったことないけど、この腐りきった大神殿の中では、まともな感性の司教だった。
 ……いつも多数決で、悪人どもに負けてたけど。派閥って怖いね。

 そっかあ、この人が次の大司教か。

 話してみたら結構冗談も通じるし、庶民感覚もある普通のおじいちゃんだった。気弱で大して権力欲なさそうだったのに、オスカーと組んで心境が変わったのかな? 今のこの人となら仲良くなれそうな気がする。

 他の神官も次々と挨拶にきてくれたけど、だいぶ上層部の顔ぶれが変わってて驚いた。
 オスカーの粛清能力を舐めてた。ここまで優秀だと逆に怖すぎる。
 この二年の間で、ゴール〇セイントだったあいつが、悪の教皇になってしまった感覚だ。聖闘士〇矢読み返しながらゴロ寝したい。転生して漫画のありがたみを知る今日この頃です。

「お茶をお持ちしました。カルス様」
「ん、ありがとう」

 そんな最強男が、銀製トレーにティーポットとカップを載せてやってきた。
 そりゃ三つ子も驚くわな。三人揃って目がまん丸で、いまにも飛び出しそうだ。

「え? おっ…オスカー様ッ! そのようなことは我々が!」
「構わない。好きでやっている」

 ふぅ、おいしい。
 疲れた体に、ほんのりとした甘さが染み渡っていく。

「このお茶の配合が知りたいんだよなあ。たまに無性に飲みたくなる」
「一生教えません。私を傍に置いておけば、もれなくこのお茶も付いてきます」

 ……ちっ、この極悪茶坊主め。

「……あ、あのオスカー様! どうしても駄目でしょうか? 僕たちはカルス様に、いつでも美味しいお茶を入れて差し上げたいのです。お願いします!」

 おお! 珍しくミカエルがオスカーに食い下がったぞ!

「断る」

 ちきしょう!
 あの茶坊主ったら、血も涙もねえ!

「いいんだミカエル。キミたちはいてくれるだけで、お茶に勝る癒し効果があるんだから。いるだけで茶がまずくなる、どこぞの司教とは大違いだ」
「それはいけませんね。なら別の茶葉を試しましょうか? 私が欲しくてたまらなくなる”葉っぱ”もありますよ」
「ぶふぉっ!」

 激しく咳き込む俺を尻目に、オスカーは悠然と部屋を出ていった。
 
「カルス様! 大丈夫ですか!」
「ゲホッ! ゴホッ……ら、らいじょ…ぅぶっ、ガハゴホッ!」
「あの……? いまの葉っぱというのは……?」

 そこは深堀りしちゃ駄目だ、ガブリエル!

「あっ、ああっそうだ! さっきの入り口の人! 黒っぽい髪に黒目の……」
「え?」
「オスカーにすごくなついてたね。えっと……、どんな子?」

 俺としては、話をそらす為に、何の気なしにふった話題だった。よく職場の同僚話で楽しく盛り上がることってあるよね? 井戸端会議的な……本当に、そういう軽いノリだったのだ。
 しかし俺の意に反して、三つ子の空気は一変した。こわばった表情でラファエルが口を開く。

「……キセラ殿はあの見た目ですから、黒神子様の再現ではないかと期待されていた人物です。下級貴族の使用人だったところを宰相様の目にとまり、二年前に大神殿へ仕えることとなりました。明るく無邪気な性格の方で、あの通りオスカー様をずっと慕っておられます」
「ぬわんだとぉ!」

 あっ……、ビックリして大きい声でちゃった。恥ずかしい。
 それが事実なら、もうあの子でいいじゃねえか。やる気のない俺なんかより、よっぽど適任だ。黒神子なんて分不相応な肩書き、いますぐ喜んで譲りますとも! ラリホー!

「ああっカルス様! 御心配には及びません! オスカー司教が、あなた様以外を黒神子としてお認めになるとお思いですか?」
「そうです! あなた様を前にすれば、あのキセラ殿ですら、存在が霞んでしまわれます!」
「馬車を降りたお姿の、なんと神々しかったことか! 感動のあまり涙を流す神官が続出したそうです。さすがはカルス様ですね! 僕たちも大興奮しちゃいましたっ!」

 三つ子が一斉にいらんお世辞を畳みかけてきた。俺が急に身を乗り出したから、ライバル出現に動揺したとでも勘違いしたのか?
 とんでもない! あのキセラって子は、俺にとっては救世主になるかもしれない。
 期待に胸を膨らませながら、俺はさりげなく肝心なことを尋ねてみる。

「……キセラにも治癒能力はあるの?」
「なんにも無いそうです」

 ないんかーいっ!
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