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第五十話 お散歩に誘われました。
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俺とオスカーが恋仲だと? 冗談じゃないっ!
なんてこった! パンナコッタ!(←古い)
三つ子から聞いた話だと、少なくともこの城の使用人たちは全員、主人であるオスカーと俺が、あ……あい、愛し合っている仲だと……勘違いしているらしい。
……フェイクニュースが、物凄い勢いで拡散(リツイート)されている。
いやだ怖い。異世界の伝染力を完全に舐めてた。
「いまの俺は誰とも付き合ってないし、誰にも恋なんかしてないって」
「「「本当ですか!」」」
いやホントだから。なにそのキラッキラな眼差しは?
三つ子は恋バナに興味津々らしい。まあ若いうちはこれが当たり前なのか。
俺の中身が枯れ過ぎているせいか、この手の話題には妙に気恥ずかしさを感じてしまう。転生して若返ったものの、青春のやり直し方がさっぱりわからん。
「そういう三人こそ、もう好きな子とかいるんじゃないの? どんな女の子がタイプなんだよ。お兄さんに聞かせてみ?」
ニヤニヤしながら反撃に出れば、三つ子はほんのりと顔を赤らめた。
ほっほう。こりゃ本当にいやがるな。
「……ぼ、僕たちがお慕いしているのは、昔からずっとカルス様です」
恥じらった様子のミカエルが、小さな声で模範解答を提出してきた。
残り二人も、横でコクコク頷いている。
なるほど、これは例のアレですね。
幼い娘が「将来はパパのお嫁さんになるの」宣言して、世の父親をメロメロにさせてしまう、例のお約束なアレですよね? しかし男は皆わかっているんだぞ。そう言ってくれるのは今だけなんだと。ある日突然、どこぞの馬の骨が現れて、「娘さんを俺にください」宣言して、父親を絶望の淵へと蹴り落とすことを……。
三つ子も、今はこんな可愛いことを言ってくれるが、身近な年上に憧れるのは一過性のもので、思春期に突入すればあっけなく目も覚めるだろう。
まあなんにしても、天使たちからの無垢な告白は素直に嬉しかった。
それだけ懐かれてるってことだもんな。
「そうなんだ。ふふ、嬉しいな。ミカエルたちがもっと大きくなって、立派な聖騎士になれたら、俺も好きになっちゃうかもしれないね」
「――ッ!」
なんの気なしに放ったこの言葉が、後々まで彼らの心に刻み込まれることになろうとは、この時の俺は考えもしなかった。
その日の夜、食後まったりしていたタイミングでオスカーが現れた。
顔を合わすのは三日ぶりだ。実に平和な三日間だった。
「ふたりだけで庭を少し散歩しませんか?」
「やだ」
「まあそう言わずに。星空が綺麗ですよ?」
渋る俺だったが、笑顔のオスカーに手首を掴まれ、あれよあれよという間に連れ出されてしまった。頼りのばあちゃんは気持ちよさそうに居眠りしてたし、じいちゃんは……風呂場から気持ちよさげな鼻歌が聞こえてくる。どちらも気持ちよさげで何よりですね。泣いていいですか?
「お待ちくださいっ!」
慌てた様子でガブリエルが追いかけてきた。
まさか止めに来てくれたのか?
「夜は冷えますのでコレを」
ニッコリと差し出されたストールに、俺はガックリと項垂れた。
オスカーに導かれるままに、庭をトボトボと歩く。
城に近づくにつれ、灯りは多くなり、だんだんと庭も貴族らしく豪奢になっていく。その一角に話をするのに丁度良さそうなベンチがあったので、オスカーとともに腰を下ろした。
目の前にはロマンチックに煌めく噴水があり、見上げれば星が無数に瞬いている。風も爽やかで心地よく、確かに散歩するには適した夜だ。
「お久しぶりですね」
「……そうだな」
座るときに肩からずり下がったストールを、オスカーが直してくれる。じっと横顔に視線を感じて、たまらずうつむいた。間が持たなくて、足元にある小石を軽く蹴ったら、思いのほか遠くへ転がっていった。
「ここでの生活には慣れましたか?」
「ああ。本当に良くしてもらっている。村出身の庭師さんや使用人さんと茶飲み友達になれたって、じいちゃんたちが喜んでた。三つ子も孫みたいに可愛がってるし」
「それは良かった。あなたご自身はどうです? 不自由はありませんか?」
「おまえがそれを言うのか?」
「まあ確かに。閉じ込めている張本人が言う台詞ではないですね」
軽く睨んでも、余裕の笑みでかわされてしまう。
子供の頃から、よくこうやってオスカーに庭へと連れ出されては、アレコレ現状報告や説教されていたのを思い出す。
そうだ。いっそコイツに聞いちまおう。
「なあオスカー。俺はこの先、どうすれば良いと思う?」
「……いきなり何ですか。あなたの方こそ、いまの俺にそれを聞きます?」
「だって自分で考えても、ちっともわかんねえんだもん」
「だもん、じゃありませんよ。二年も逃走した行動力はあるのですから、少しは頭も働かせてください。神子の能力といい、このままでは宝の持ち腐れですよ」
「そうなんだよなあ。女神ったら見る目なさ過ぎじゃね?」
「それに関しては激しく同意します」
満天の星空の下、俺のポンコツぶりについて、会話が弾んでしまっている。
ロマンチック何処いった?
なんてこった! パンナコッタ!(←古い)
三つ子から聞いた話だと、少なくともこの城の使用人たちは全員、主人であるオスカーと俺が、あ……あい、愛し合っている仲だと……勘違いしているらしい。
……フェイクニュースが、物凄い勢いで拡散(リツイート)されている。
いやだ怖い。異世界の伝染力を完全に舐めてた。
「いまの俺は誰とも付き合ってないし、誰にも恋なんかしてないって」
「「「本当ですか!」」」
いやホントだから。なにそのキラッキラな眼差しは?
三つ子は恋バナに興味津々らしい。まあ若いうちはこれが当たり前なのか。
俺の中身が枯れ過ぎているせいか、この手の話題には妙に気恥ずかしさを感じてしまう。転生して若返ったものの、青春のやり直し方がさっぱりわからん。
「そういう三人こそ、もう好きな子とかいるんじゃないの? どんな女の子がタイプなんだよ。お兄さんに聞かせてみ?」
ニヤニヤしながら反撃に出れば、三つ子はほんのりと顔を赤らめた。
ほっほう。こりゃ本当にいやがるな。
「……ぼ、僕たちがお慕いしているのは、昔からずっとカルス様です」
恥じらった様子のミカエルが、小さな声で模範解答を提出してきた。
残り二人も、横でコクコク頷いている。
なるほど、これは例のアレですね。
幼い娘が「将来はパパのお嫁さんになるの」宣言して、世の父親をメロメロにさせてしまう、例のお約束なアレですよね? しかし男は皆わかっているんだぞ。そう言ってくれるのは今だけなんだと。ある日突然、どこぞの馬の骨が現れて、「娘さんを俺にください」宣言して、父親を絶望の淵へと蹴り落とすことを……。
三つ子も、今はこんな可愛いことを言ってくれるが、身近な年上に憧れるのは一過性のもので、思春期に突入すればあっけなく目も覚めるだろう。
まあなんにしても、天使たちからの無垢な告白は素直に嬉しかった。
それだけ懐かれてるってことだもんな。
「そうなんだ。ふふ、嬉しいな。ミカエルたちがもっと大きくなって、立派な聖騎士になれたら、俺も好きになっちゃうかもしれないね」
「――ッ!」
なんの気なしに放ったこの言葉が、後々まで彼らの心に刻み込まれることになろうとは、この時の俺は考えもしなかった。
その日の夜、食後まったりしていたタイミングでオスカーが現れた。
顔を合わすのは三日ぶりだ。実に平和な三日間だった。
「ふたりだけで庭を少し散歩しませんか?」
「やだ」
「まあそう言わずに。星空が綺麗ですよ?」
渋る俺だったが、笑顔のオスカーに手首を掴まれ、あれよあれよという間に連れ出されてしまった。頼りのばあちゃんは気持ちよさそうに居眠りしてたし、じいちゃんは……風呂場から気持ちよさげな鼻歌が聞こえてくる。どちらも気持ちよさげで何よりですね。泣いていいですか?
「お待ちくださいっ!」
慌てた様子でガブリエルが追いかけてきた。
まさか止めに来てくれたのか?
「夜は冷えますのでコレを」
ニッコリと差し出されたストールに、俺はガックリと項垂れた。
オスカーに導かれるままに、庭をトボトボと歩く。
城に近づくにつれ、灯りは多くなり、だんだんと庭も貴族らしく豪奢になっていく。その一角に話をするのに丁度良さそうなベンチがあったので、オスカーとともに腰を下ろした。
目の前にはロマンチックに煌めく噴水があり、見上げれば星が無数に瞬いている。風も爽やかで心地よく、確かに散歩するには適した夜だ。
「お久しぶりですね」
「……そうだな」
座るときに肩からずり下がったストールを、オスカーが直してくれる。じっと横顔に視線を感じて、たまらずうつむいた。間が持たなくて、足元にある小石を軽く蹴ったら、思いのほか遠くへ転がっていった。
「ここでの生活には慣れましたか?」
「ああ。本当に良くしてもらっている。村出身の庭師さんや使用人さんと茶飲み友達になれたって、じいちゃんたちが喜んでた。三つ子も孫みたいに可愛がってるし」
「それは良かった。あなたご自身はどうです? 不自由はありませんか?」
「おまえがそれを言うのか?」
「まあ確かに。閉じ込めている張本人が言う台詞ではないですね」
軽く睨んでも、余裕の笑みでかわされてしまう。
子供の頃から、よくこうやってオスカーに庭へと連れ出されては、アレコレ現状報告や説教されていたのを思い出す。
そうだ。いっそコイツに聞いちまおう。
「なあオスカー。俺はこの先、どうすれば良いと思う?」
「……いきなり何ですか。あなたの方こそ、いまの俺にそれを聞きます?」
「だって自分で考えても、ちっともわかんねえんだもん」
「だもん、じゃありませんよ。二年も逃走した行動力はあるのですから、少しは頭も働かせてください。神子の能力といい、このままでは宝の持ち腐れですよ」
「そうなんだよなあ。女神ったら見る目なさ過ぎじゃね?」
「それに関しては激しく同意します」
満天の星空の下、俺のポンコツぶりについて、会話が弾んでしまっている。
ロマンチック何処いった?
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