神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)

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第四十七話 掘って掘りまくりましょう。

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 騒々しい外野をよそに、俺は快楽に酔いしれていた。

 久しぶりにイジるから凄く興奮する。かたい棒を両指で握り込み、馴染みのあるその感触に吐息を漏らす。
 ああ、たまらない。やっぱりイイ……最高だ。さあイクぞ……っ!
 ああイイ! 思った以上に深いトコロまで入ってく!
 こんなにスゴイの初めてっ!

 こんなに良質の土は初めて――っ!
 こんなにクワが入ってく! ふっかふか!
 土いじりって、本当に気持ちいいよねっ!

 ……というわけで、畑づくりを再開しました。
 この庭園の土は、野菜作りにはもってこいの腐葉土のようです。俺の細腕でもザクザク耕せてます。ああ楽し過ぎるっ!

「カルス様、ここの花壇にもお水を撒きますか?」
「うん。ミカエルごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「いえ、初めてのことで、とても楽しいです」
「あっ……足下気をつけて」
「は?」
「でっかいミミズがいるから」
「ふぎゃあああぁ――っ!」

 ひしゃくの水をばら撒きながら、少年は逃げ去っていった。
 軟弱な現代っ子め……鍛え直さないといけないな。

 三つ子は、小姓として当分俺に付くこととなった。
 護衛も兼ねてと彼らは張り切り、寝起きも食事も共にしている。じいちゃんたちは、可愛らしい家族が一気に増えたと大喜びだ。
 チビッコSPだけなら俺も癒されるし大歓迎なのだが、この城にはイカつい警備の騎士たちも、各要所にしっかり配置されている。侵入者どころか、蟻の這い出る隙もない。俺が黒神子の力を使って抜け出すにしても、多人数を相手にせねばならず、結構手間がかかりそうだ。

 そして最大の強敵オスカーだが、いまのところ週の半分以上は王都にいる。
 俺もそのうち、大神殿や医学図書館で勤めを始める予定ではいるが、なかなかお呼びがかからないので、かなり暇を持て余している状態だ。

 王都では、黒神子が職務を遂行しやすいように、万全の体制を整えているらしい。また逃げられたら、面目丸潰れだもんな。野菜農家に転職したい俺からすれば余計なお世話だ。高待遇よりも職業選択の自由をくれ。
 脳内でブチブチ文句を垂れ流しながら、ブチブチ雑草をむしっていると、

「失礼します、カルス様。アーチー様がおみえになりました。いかがいたしましょう?」

 しれっと復活したミカエルが、声をかけてきた。

「アーチーが? もちろんいいよ。ここまで通してくれる?」
「かしこまりました。ではそのように」

 ミカエルが目くばせをすると、後ろに控えていた使用人が足早に去っていく。庭が広いから、来訪者を迎えるのも大変だね。伝言ごくろうさま。

 しばらくすると、見慣れた長身が近づいてきた。
 高貴な領主の屋敷に出入りするとあって、今日はスタイリッシュな薄手のロングコートを羽織っている。腰で絞られたシルエットが、足の長さを強調していて非常に優美だ。
 「コッチコッチー」と手を振れば、穏やかな笑みが返ってきた。遠くから見ても眩しいほどにイケメンだな、こんちくしょう。

「ユキ」
「アーチー、また寄ってくれたんだ。悪いね」
「俺はユキに会えて嬉しいから、気にしなくていい」
「う、うん」

 ああもう、そういうストレートな甘い言葉やめて。
 おじさん慣れてないから照れちゃう。 

 アーチーは村出身の平民でありながら、王都で頂点に君臨している超難関医学校を一発で合格した優等生だ。その通学路を馬で往復するついでに、ここまで何度か様子を見に来てくれている。

 オスカーは約束通り、村長一家と神父様に関しては、俺やじいちゃんたちの許可だけで、出入りできるよう手配してくれていた。そのうち警護付きではあるが、村までの外出も可能になるらしい。そういうところは有言実行で、信用できる男だ。そういうとこだけはな。

「これはおじいさんが読みたがってた村の新聞で、こっちは前に話していた村固有の野菜の種だ。適当に見繕ってきたが大丈夫か?」
「うわっ、さすがアーチー! コレだよコレ! こればっかりは何処にも売ってないから、買い物でも頼みようがなくってさ」
「原種だからな。品種改良された種の方が、村や王都には出回っている。花付きが悪く育てにくいそうだが、こっちでいいのか?」
「うん大丈夫! ありがとうっ!」

 やったぁ! 欲しかった希少な種をゲットできたぞっ!
 前にちょこっと話しただけなのに、覚えてくれていたとは……。勉強で忙しいなか、探してここまで届けてくれて、本当に優しい青年だ。

「いくらだった? お金払わないと……あっ時間大丈夫? 良かったらお茶でも飲んでって」
「貰いものだからいい。それより俺も手伝うよ」

 アーチーは、似合っていたアウターを素早く脱ぎ捨てると、近くの木の枝にかけてしまった。上品な白シャツも腕まくりして、やる気満々のようだ。

「あれ? 学校は?」
「今日は休講日だから暇なんだ。昨日王都に泊まって、その帰り道に寄ってみた」
「それなら、お昼でも食べてかない?」
「……いいのか?」
「うん。世話になったし、俺の手料理で良ければ食べてってよ」
「それは楽しみだな」
「よし、決まりっ!」

 種のお礼だ。腕によりをかけて作らねばっ!
 するとアーチーが、一瞬腰を折って何かを拾い上げ、俺から隠すようにして、黙ったまま近くの草むらにそっと置いた。
 何気ない動作で気づきにくいが、俺にはまるっとお見通しだ。

 ……それさっきの巨大ミミズだよな?

 俺たちを驚かせないように、見えない場所へ移動してくれたの?
 しかも、なにそのミミズにまで優しいソフトタッチ……そういうトコだぞ。そういう所が本当に始末に負えない。どうしてくれる。

 ――惚れてまうやろっ!
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