神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)

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第三十話 自己紹介をしましょう。

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 身に覚えがなくてキョトンとしている俺に、三つ子は気を悪くするでもなく、涙ながらに事情を語り始めた。
 朝の爽やかな空気が、一気に重たくなっていく……どうしてこうなった。

「……恩人? 俺が?」
「はい。孤児院で神父に虐待されていた僕たちを、黒神子様が救いだしてくださいました」

 神父の虐待?

 ああ……あの胸糞悪い出来事か。さすがに思い出した。
 解決した後も、しばらく夢に見てうなされた……最悪の事件だった。

 いまから四年前……、王都近郊のとある小さな村で、原因不明の伝染病が蔓延した。

 王都へ拡がることを恐れた王は、まだ十五歳だった黒神子……つまり俺に、村人全員の治癒を懇願してきた。あのくそじじいは、便利屋みたいに何でも押し付けてきやがって、いま思い返してもハラワタが煮えくり返る。

 婚約者を死地へ向かわせることに、そばにいた第一王子は猛反対した。

 しかし結局は、肝心要の黒神子自身が行くことを承諾してしまったため、王子は受け入れざるをえなくなった。村人を救おうとする【私】の決意はダイヤモンドより硬く、黒神子を慕う者がいくら反対しようと、全く聞く耳を持たなかったのだ。

 ……黒神子ってやっぱり真正のドMなんだと思う。

 そんななかオスカーは特に異議も唱えず、数人の医師と聖騎士を引き連れて、黙って黒神子に同行した。それも王子は気に食わない様子だったが、奴はどこ吹く風だった。
 王族が相手だろうが、オスカーはどこまでも不遜でマイペースな男だった。

 少数精鋭で直ちに現地へ向かった俺達は、その村の孤児院を拠点にして、治療することに決めた。俺はひたすら村人を治癒し続け、オスカーは俺の意見を参考にして、病の原因をいち早く突きとめた。

 結局はひとつの井戸が腐っていたことが原因で、流行り病でも何でもないというお粗末な結果だった。なんでも現地へ行ってみないと分からないものだ。
 
 村での役目を終えた黒神子だったが、帰り間際に抜き打ちで、孤児院の子供たちを集めて、聞き取り調査をすることにした。
 流行り病を治癒している際に、数人の子供の手や足首に、ヒモで縛られたような跡や、身体のあちこちに鬱血痕があることに気づいていたからだ。

 そこで神父による大量の性的虐待が発覚し、子供たちは王都の孤児院へそのまま移送されることとなった。
 神父の処分がどうなったかまでは知らない。それは神父の上司であるオスカーの管轄だったからだ。

(……あのときの被害者の中に、この子らがいたってことか)

 じゃあ、あの神父の毒牙に、この子たちも……。

「……思い出したよ。そっか、あの流行り病のときの子供たちなんだね?」
「「「はいっ!」」」

 お返事もぴったり。

 クルクル巻き毛が天使みたいで本当に愛くるしい。だからこそ痛ましい。

 こんなにも愛すべき小さな存在なのに、大人の身勝手な欲望をぶつけられ、この子たちの心には、一生消えない傷がついてしまったんだ。それを思うと涙が滲んでくるがグッとこらえる。俺が泣いてどうするんだ。つらい目にあったのはこの子たちだ。

「……でもあの中に三つ子ちゃんなんていたかな? ごめんね、そこまで思い出せないんだ」

 いい加減で不誠実な自分に落ち込みかけたら、焦ったように三人が一斉に声をあげた。

「いいえ黒神子様! 当たり前です! あのときの僕らは、髪型も服装もバラバラでしたからっ!」
「そうです! 栄養失調やストレスのせいで体型も揃っていませんでした! 人相もぜんっぜん違ってましたから!」
「黒神子様にお会いした後、みるみる三人の容姿が変わりました! 本来の自分たちを取り戻すことが出来たんですっ!」
「全て黒神子様のおかげですっ! 再びお逢いできる日をずっと夢見ておりました」
「僕も!」
「僕もです! お慕いしております」
「僕だって! 大好きです!」
「「「末永くよろしくお願いいたしますっ!」」」

「……う、うん。……よろしく」

 またピタッと揃えてきたぞ。しかも長文! ブラボー!
 三方からの波状攻撃と、最後のユニゾンに意識全部持っていかれて、気づいたら頷いていた。さすがは天使といったところか、やるなっ、ミラクルボイス!

 でもこれだけ元気になってくれたのなら、おじさんもひと安心といったところだ。
 子供の笑顔は国の宝だからな。大人が守らないといけない。

 ところで、そろそろ君たちの名前を教えてくれるかな?
 散歩に行きたいんだけど。
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