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第二十九話 可愛い天使たちが舞い降りました。
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そして翌朝になっても、俺は頭を抱えていた。
夜明けと共に目覚めてしまって、オスカーが来るまで暇を持て余していたからだ。
この二年間、お年寄りと寝食共にしていたら、俺はめちゃくちゃ健康的な早起き人間に生まれ変わっていた。
本来ならばもう顔を洗ったり歯を磨いたり……テキパキと身だしなみを整えて、ばあちゃんと朝食の準備に入っている頃なのだ。
ニワトリに餌あげるのも、今頃ばあちゃんがやってくれているのかな?
目を閉じれば、毎朝通った馴染みのニワトリ小屋が浮かぶ。
コケ子にコケ美、コケ之助に、コケ万次郎……コケレオン一世に、マリー=アンコケネット、フランシスコケ=ザビエル……みんな元気に卵を産んでいるだろうか?
庭で朝日を浴びて健康体操……は、さすがに無理だよなあ。
なら、久しぶりに神殿内を散歩してみたり……も駄目かな?
当たって砕けろで聞いてみるか。
服は……この部屋に着替えは無いから、寝間着のままでいいか。
そういえば、昨日着ていたヒラヒラスカートはどうなったんだろう?
ちゃんと洗濯して村長さんに返したい。汚れていたら買い取りたい……お金持ってないけど。それも聞いてみるか。
意を決して、俺はおそるおそるドアを開けてみた。
意外なことに鍵はかかっていない。監視はされているが、監禁されているわけではないらしい。犯罪者みたいな扱いではなく、少しだけホッとする。
そのまま首をひょっこり出して廊下を覗いてみたら、ドアの両脇に立っていた騎士のふたりが、信じられないといった面持ちでこちらを凝視していた。
俺が一度まばたきすると、慌てて視線をそらされたけど。
それにしても、両人とも迫力が半端ない。
まるで「北〇の拳」に出てくるキャラクターみたいだ。
見事な巨漢の筋肉ダルマ……雷神風神か。
「あの……おはよう……ございます」
思い切って部屋から踏み出し挨拶してみた。
まだ早朝なので、声のトーンはやや抑え気味だ。
「……えっあ……お、おはようございますっ!」
「はようござぇやす!」
てっきり無視されるかと思ったが、二人とも体育会系のノリで、声を張って挨拶を返してくれた。しかも両膝を折っての最敬礼だ。
……いやそれって、神様や王様相手にする最敬礼じゃなかったっけ? 朝っぱらからそれやる?
それといま「ごぜえやす」って聞こえたんだけど空耳かな?
「立ち上がって楽にしていただいて構いません。夜通しの警護ありがとうございます」
「はっ! 恐れ入ります!」
バネが戻るように立ち上がった二人の顔は、目がうるんで頬が赤らんでいる。
心なしか呼吸も荒い気がする……夜勤で疲れているのか?
「……お尋ねしたいことがあるのですが」
「はっ! 何なりと!」
「……あの、オスカー司教が来るまでの間、ほんの少しだけ神殿内を散策したいのです。可能でしょうか?」
二人は困ったように顔を見合わせた。あっ……これ駄目なパターンだ。
「別に構いませんよ」
背後から響いた第三者の低音に、雷神風神の顔に一気に緊張が走った。
素早く元の位置へ戻ると、ビシッと二人揃って軍隊みたいな敬礼をする。
……オスカー様のご登場らしい。
聖職者同士だと、身分の低い者から高い者へ、胸に手を当ててお辞儀する程度で大丈夫なはずなんだけど、聖騎士間はかなり上下関係が厳しいみたいだ。この世界の挨拶も、いろいろあってよくわからん。
「おはようございますカルス様。すいぶん早起きじゃないですか。もしや寝られなかったのですか?」
「いや、普通に寝られた……のですが……」
「いつものくだけた言葉遣いで大丈夫です。黒神子様が周囲に合わせる必要はありませんよ」
「え? そうなの? じゃあもう少し楽な口調で話させてもらう」
「そうしてください」
急変した俺の態度に、雷神風神が目を丸くしているのが見えた。
ごめんね、こんな庶民的な黒神子で……。
「一人でなければ神殿内は自由に動き回っていただいて構いません。ただし、裏で警護は何人か付けさせていただきます。身の回りの世話をする者も新しくつけます。そんな扇情的な恰好で朝からうろつかれては困りますので、一旦部屋に戻ってください」
「扇情的って……おまえこそずいぶん早い時間に来たじゃないか。なんで?」
「村でのあなたは、そろそろ活動を開始する時間帯だと思いまして」
「そこまで知ってんのかよ! 怖っ!」
そんなわけで、オスカーの言いつけどおりに部屋で待つこと数分……、三人の少年が揃って挨拶にきてくれた。小姓として、交代でずっと付いていてくれるらしい。
え……なにこの生きものたち……超可愛いんですけど。
背格好も顔も瓜二つ……じゃなくて瓜三つ。
つまりは一卵性の三つ子ちゃんだったのだ。
両膝を地面につけて頭を下げながら、ひとりが代表して「麗しき御尊顔を拝しまして恐悦至極……」みたいな堅苦しい挨拶をしようとしたので、「そんな丁寧な挨拶しなくても大丈夫だよ」と遮って顔をあげさせた。
まだ子供なのに、こんな朝から働かされて大変だね。俺のせいなのかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
白っぽい銀色の巻き毛に紫色の瞳、まだ幼さの残るふっくらとした面差し……。
肌は異国めいてて少し浅黒く、良く見ると、そばかすが散らばっている。それもチャームポイントで実に愛くるしい。お菓子でもあげたい。むしろ俺が世話したい。
「三人とも気楽にしてもらって大丈夫だから。こんな朝っぱらから呼び出しちゃってごめんね。まずはお互いの自己紹介でもしようか。お茶でも出したいところだけど……入れる場所がわからないんだ。あとでいろいろと教えてくれるかな?」
「……」
ポリポリと頭をかきながら笑いかけたら、俺を見上げていた三人の眼差しが、一斉にウルウルと潤み始めた。
ええぇえ――――っ! 俺なんかしちゃった?
「「「お久しぶりです。黒神子様っ!」」」
声もシンクロしていた。お見事っ!
……でもごめんなさい。どちらさまでしたっけ?
夜明けと共に目覚めてしまって、オスカーが来るまで暇を持て余していたからだ。
この二年間、お年寄りと寝食共にしていたら、俺はめちゃくちゃ健康的な早起き人間に生まれ変わっていた。
本来ならばもう顔を洗ったり歯を磨いたり……テキパキと身だしなみを整えて、ばあちゃんと朝食の準備に入っている頃なのだ。
ニワトリに餌あげるのも、今頃ばあちゃんがやってくれているのかな?
目を閉じれば、毎朝通った馴染みのニワトリ小屋が浮かぶ。
コケ子にコケ美、コケ之助に、コケ万次郎……コケレオン一世に、マリー=アンコケネット、フランシスコケ=ザビエル……みんな元気に卵を産んでいるだろうか?
庭で朝日を浴びて健康体操……は、さすがに無理だよなあ。
なら、久しぶりに神殿内を散歩してみたり……も駄目かな?
当たって砕けろで聞いてみるか。
服は……この部屋に着替えは無いから、寝間着のままでいいか。
そういえば、昨日着ていたヒラヒラスカートはどうなったんだろう?
ちゃんと洗濯して村長さんに返したい。汚れていたら買い取りたい……お金持ってないけど。それも聞いてみるか。
意を決して、俺はおそるおそるドアを開けてみた。
意外なことに鍵はかかっていない。監視はされているが、監禁されているわけではないらしい。犯罪者みたいな扱いではなく、少しだけホッとする。
そのまま首をひょっこり出して廊下を覗いてみたら、ドアの両脇に立っていた騎士のふたりが、信じられないといった面持ちでこちらを凝視していた。
俺が一度まばたきすると、慌てて視線をそらされたけど。
それにしても、両人とも迫力が半端ない。
まるで「北〇の拳」に出てくるキャラクターみたいだ。
見事な巨漢の筋肉ダルマ……雷神風神か。
「あの……おはよう……ございます」
思い切って部屋から踏み出し挨拶してみた。
まだ早朝なので、声のトーンはやや抑え気味だ。
「……えっあ……お、おはようございますっ!」
「はようござぇやす!」
てっきり無視されるかと思ったが、二人とも体育会系のノリで、声を張って挨拶を返してくれた。しかも両膝を折っての最敬礼だ。
……いやそれって、神様や王様相手にする最敬礼じゃなかったっけ? 朝っぱらからそれやる?
それといま「ごぜえやす」って聞こえたんだけど空耳かな?
「立ち上がって楽にしていただいて構いません。夜通しの警護ありがとうございます」
「はっ! 恐れ入ります!」
バネが戻るように立ち上がった二人の顔は、目がうるんで頬が赤らんでいる。
心なしか呼吸も荒い気がする……夜勤で疲れているのか?
「……お尋ねしたいことがあるのですが」
「はっ! 何なりと!」
「……あの、オスカー司教が来るまでの間、ほんの少しだけ神殿内を散策したいのです。可能でしょうか?」
二人は困ったように顔を見合わせた。あっ……これ駄目なパターンだ。
「別に構いませんよ」
背後から響いた第三者の低音に、雷神風神の顔に一気に緊張が走った。
素早く元の位置へ戻ると、ビシッと二人揃って軍隊みたいな敬礼をする。
……オスカー様のご登場らしい。
聖職者同士だと、身分の低い者から高い者へ、胸に手を当ててお辞儀する程度で大丈夫なはずなんだけど、聖騎士間はかなり上下関係が厳しいみたいだ。この世界の挨拶も、いろいろあってよくわからん。
「おはようございますカルス様。すいぶん早起きじゃないですか。もしや寝られなかったのですか?」
「いや、普通に寝られた……のですが……」
「いつものくだけた言葉遣いで大丈夫です。黒神子様が周囲に合わせる必要はありませんよ」
「え? そうなの? じゃあもう少し楽な口調で話させてもらう」
「そうしてください」
急変した俺の態度に、雷神風神が目を丸くしているのが見えた。
ごめんね、こんな庶民的な黒神子で……。
「一人でなければ神殿内は自由に動き回っていただいて構いません。ただし、裏で警護は何人か付けさせていただきます。身の回りの世話をする者も新しくつけます。そんな扇情的な恰好で朝からうろつかれては困りますので、一旦部屋に戻ってください」
「扇情的って……おまえこそずいぶん早い時間に来たじゃないか。なんで?」
「村でのあなたは、そろそろ活動を開始する時間帯だと思いまして」
「そこまで知ってんのかよ! 怖っ!」
そんなわけで、オスカーの言いつけどおりに部屋で待つこと数分……、三人の少年が揃って挨拶にきてくれた。小姓として、交代でずっと付いていてくれるらしい。
え……なにこの生きものたち……超可愛いんですけど。
背格好も顔も瓜二つ……じゃなくて瓜三つ。
つまりは一卵性の三つ子ちゃんだったのだ。
両膝を地面につけて頭を下げながら、ひとりが代表して「麗しき御尊顔を拝しまして恐悦至極……」みたいな堅苦しい挨拶をしようとしたので、「そんな丁寧な挨拶しなくても大丈夫だよ」と遮って顔をあげさせた。
まだ子供なのに、こんな朝から働かされて大変だね。俺のせいなのかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
白っぽい銀色の巻き毛に紫色の瞳、まだ幼さの残るふっくらとした面差し……。
肌は異国めいてて少し浅黒く、良く見ると、そばかすが散らばっている。それもチャームポイントで実に愛くるしい。お菓子でもあげたい。むしろ俺が世話したい。
「三人とも気楽にしてもらって大丈夫だから。こんな朝っぱらから呼び出しちゃってごめんね。まずはお互いの自己紹介でもしようか。お茶でも出したいところだけど……入れる場所がわからないんだ。あとでいろいろと教えてくれるかな?」
「……」
ポリポリと頭をかきながら笑いかけたら、俺を見上げていた三人の眼差しが、一斉にウルウルと潤み始めた。
ええぇえ――――っ! 俺なんかしちゃった?
「「「お久しぶりです。黒神子様っ!」」」
声もシンクロしていた。お見事っ!
……でもごめんなさい。どちらさまでしたっけ?
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