神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)

文字の大きさ
上 下
29 / 59

第二十九話 可愛い天使たちが舞い降りました。

しおりを挟む
 そして翌朝になっても、俺は頭を抱えていた。

 夜明けと共に目覚めてしまって、オスカーが来るまで暇を持て余していたからだ。
 
 この二年間、お年寄りと寝食共にしていたら、俺はめちゃくちゃ健康的な早起き人間に生まれ変わっていた。
 本来ならばもう顔を洗ったり歯を磨いたり……テキパキと身だしなみを整えて、ばあちゃんと朝食の準備に入っている頃なのだ。
 
 ニワトリに餌あげるのも、今頃ばあちゃんがやってくれているのかな?
 目を閉じれば、毎朝通った馴染みのニワトリ小屋が浮かぶ。

 コケ子にコケ美、コケ之助に、コケ万次郎……コケレオン一世に、マリー=アンコケネット、フランシスコケ=ザビエル……みんな元気に卵を産んでいるだろうか?

 庭で朝日を浴びて健康体操……は、さすがに無理だよなあ。

 なら、久しぶりに神殿内を散歩してみたり……も駄目かな?
 当たって砕けろで聞いてみるか。

 服は……この部屋に着替えは無いから、寝間着のままでいいか。
 そういえば、昨日着ていたヒラヒラスカートはどうなったんだろう?
 ちゃんと洗濯して村長さんに返したい。汚れていたら買い取りたい……お金持ってないけど。それも聞いてみるか。

 意を決して、俺はおそるおそるドアを開けてみた。
 意外なことに鍵はかかっていない。監視はされているが、監禁されているわけではないらしい。犯罪者みたいな扱いではなく、少しだけホッとする。

 そのまま首をひょっこり出して廊下を覗いてみたら、ドアの両脇に立っていた騎士のふたりが、信じられないといった面持ちでこちらを凝視していた。
 俺が一度まばたきすると、慌てて視線をそらされたけど。

 それにしても、両人とも迫力が半端ない。
 まるで「北〇の拳」に出てくるキャラクターみたいだ。
 見事な巨漢の筋肉ダルマ……雷神風神か。

「あの……おはよう……ございます」

 思い切って部屋から踏み出し挨拶してみた。
 まだ早朝なので、声のトーンはやや抑え気味だ。

「……えっあ……お、おはようございますっ!」
「はようござぇやす!」

 てっきり無視されるかと思ったが、二人とも体育会系のノリで、声を張って挨拶を返してくれた。しかも両膝を折っての最敬礼だ。
 ……いやそれって、神様や王様相手にする最敬礼じゃなかったっけ? 朝っぱらからそれやる?
 それといま「ごぜえやす」って聞こえたんだけど空耳かな? 

「立ち上がって楽にしていただいて構いません。夜通しの警護ありがとうございます」
「はっ! 恐れ入ります!」

 バネが戻るように立ち上がった二人の顔は、目がうるんで頬が赤らんでいる。
 心なしか呼吸も荒い気がする……夜勤で疲れているのか?

「……お尋ねしたいことがあるのですが」
「はっ! 何なりと!」
「……あの、オスカー司教が来るまでの間、ほんの少しだけ神殿内を散策したいのです。可能でしょうか?」

 二人は困ったように顔を見合わせた。あっ……これ駄目なパターンだ。

「別に構いませんよ」

 背後から響いた第三者の低音に、雷神風神の顔に一気に緊張が走った。
 素早く元の位置へ戻ると、ビシッと二人揃って軍隊みたいな敬礼をする。

 ……オスカー様のご登場らしい。

 聖職者同士だと、身分の低い者から高い者へ、胸に手を当ててお辞儀する程度で大丈夫なはずなんだけど、聖騎士間はかなり上下関係が厳しいみたいだ。この世界の挨拶も、いろいろあってよくわからん。

「おはようございますカルス様。すいぶん早起きじゃないですか。もしや寝られなかったのですか?」
「いや、普通に寝られた……のですが……」
「いつものくだけた言葉遣いで大丈夫です。黒神子様が周囲に合わせる必要はありませんよ」
「え? そうなの? じゃあもう少し楽な口調で話させてもらう」
「そうしてください」

 急変した俺の態度に、雷神風神が目を丸くしているのが見えた。
 ごめんね、こんな庶民的な黒神子で……。

「一人でなければ神殿内は自由に動き回っていただいて構いません。ただし、裏で警護は何人か付けさせていただきます。身の回りの世話をする者も新しくつけます。そんな扇情的な恰好で朝からうろつかれては困りますので、一旦部屋に戻ってください」
「扇情的って……おまえこそずいぶん早い時間に来たじゃないか。なんで?」
「村でのあなたは、そろそろ活動を開始する時間帯だと思いまして」
「そこまで知ってんのかよ! 怖っ!」

 そんなわけで、オスカーの言いつけどおりに部屋で待つこと数分……、三人の少年が揃って挨拶にきてくれた。小姓として、交代でずっと付いていてくれるらしい。

 え……なにこの生きものたち……超可愛いんですけど。

 背格好も顔も瓜二つ……じゃなくて瓜三つ。
 つまりは一卵性の三つ子ちゃんだったのだ。

 両膝を地面につけて頭を下げながら、ひとりが代表して「麗しき御尊顔を拝しまして恐悦至極……」みたいな堅苦しい挨拶をしようとしたので、「そんな丁寧な挨拶しなくても大丈夫だよ」と遮って顔をあげさせた。
 まだ子供なのに、こんな朝から働かされて大変だね。俺のせいなのかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 白っぽい銀色の巻き毛に紫色の瞳、まだ幼さの残るふっくらとした面差し……。

 肌は異国めいてて少し浅黒く、良く見ると、そばかすが散らばっている。それもチャームポイントで実に愛くるしい。お菓子でもあげたい。むしろ俺が世話したい。

「三人とも気楽にしてもらって大丈夫だから。こんな朝っぱらから呼び出しちゃってごめんね。まずはお互いの自己紹介でもしようか。お茶でも出したいところだけど……入れる場所がわからないんだ。あとでいろいろと教えてくれるかな?」
「……」

 ポリポリと頭をかきながら笑いかけたら、俺を見上げていた三人の眼差しが、一斉にウルウルと潤み始めた。
 ええぇえ――――っ! 俺なんかしちゃった? 

「「「お久しぶりです。黒神子様っ!」」」

 声もシンクロしていた。お見事っ!


 ……でもごめんなさい。どちらさまでしたっけ?
しおりを挟む
白光猫の小説情報を随時更新中です。
twitterアカウント ⇒ @shiromitsu_nyan
感想 25

あなたにおすすめの小説

イケメンは観賞用!

ミイ
BL
子爵家の次男として転生したオリバー・シェフィールドは前世の記憶があった。しかし、チートとしての能力は皆無。更にこれといって特技も無い。 只、彼の身体は普通ではなかった。 そんな普通ではない身体に生まれた自分の価値はこの身体しかないと思い悩む日々…を過ごすこともなく趣味に没頭する彼。 そんな彼の趣味は"美しい男性を観て楽しむ"ことだった。 生前、◯ャニーズJr.が大好きだった彼は今世でもその趣味を続け楽しく過ごしていたが、父親に持ってこられたお見合い話で運命の歯車が動き出す。 さらに成人を間近に迎えたある日、彼は衝撃の事実を知らされたのだった。 *タグは進む内に増やしていきます

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく
BL
ファンタジーな世界で第二王子が総受けな話。 ボーイズラブ BL 趣味詰め込みました。 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

あの夜の過ちから

誤魔化
BL
 とある仮面舞踏会の夜。  お互いの正体を知らぬままに熱い一夜を過ごした皇子と側近の2人。  翌朝に側近の男はその衝撃の事実に気づき、証拠隠滅を図ろうとするが、一方で気づかない殿下は「惚れた」と言って当の本人に正体の分からない”あの夜の人”を探すように頼む。  絶対にバレたくない側近(色男) VS 惚れた仮面の男を見つけ出したい殿下(色男)のBL。側近の男、一応転生者です。  側近「どうしてこうなったーッ!」

処理中です...