神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)

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第二十三話 選択を迫られました。

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 ……神様って、相当に粘着質な性格なんじゃない?

 確かに俺はさっき、孤児院前であんたを無視(シカト)しましたよ。
 思いっきりトンズラしましたよ。 
 でもだからって、ここまでの嫌がらせをするかね? やってくれるかね?


 目の前に広がる阿鼻叫喚の地獄絵図に、俺は絶句するしかなかった。

 パニックになった子供や女たちの悲鳴に、我先にと救助を求める人々の怒号。路面に飛び散った大量のドス黒い血痕。有り得ない方向に折れ曲がった身体や手足。激痛に白目をむく男。肋骨をやられて苦しそうな老人。見るも無残に破壊された屋台の数々……。
 数分前まで、すごく楽しい祭り風景だったのに……。
 
 ふたたび屋台通りへ戻った俺たちは、同じ広場で美味しい名物をつまんでいた。
 そんなときに事件は起こったのだ。

 段々と大きくなる悲鳴と共に、猛スピードでいきなり通りに現れた馬車は、屋台もろとも次々と、祭りで賑わっていた群衆を跳ね飛ばしていった。通りにいた人々は、混雑のなか咄嗟に避けることも出来なかっただろう。

 バランスを崩した馬車は、そのまま俺たちの横をスレスレで通過し、広場にいた人々までもトドメになぎ倒した後、車輪を跳ね飛ばしながらようやく停止した。
 大きな四輪車につながれていた馬たちは、傷だらけで泡を吹いて死んでいて、衝突した際に投げ出された御者も即死したようだった。

 すぐに俺の無事を確認したアーチーは、呆然とする俺にここにいるように念押しした後、医学生として事故現場へ向かって行った。
 もう姿は見えないが、いまごろ街の人々と共に、懸命に救助活動を始めているに違いない。

 ……だとしたら俺は?
 ……俺がすべきことは?

 通りすがりの一般人として、不自然だと思われない範囲で、適当に力を加減しながら救護を手伝い、良心の呵責を抱えつつ、そのまま村へと帰るか。
 黒神子として正体を明かし、通常なら消えるはずだった命までも治癒して、国の宝という檻の中でまた飼い殺しにされるのか。

(どっちも嫌だな。最悪じゃねえか)

 このまま座ってやり過ごしたいというのが本音だが、もう最初から答えは決まっていた。

 現場に走って行ったアーチーの背中を思い出す。
 あんなのを見せられちまったら、男としては、もうやるしかないだろう。

 あーあ。
 すごく幸せで充実した二年間だったなあ。

 最後に、友人から美味い名物を奢ってもらえたおかげで、体力は充分すぎるほど有り余っている。欲をいえば、夜の花火大会も楽しみたかったが、さすがに今日は中止になってしまうだろう。残念だが諦めるしかなさそうだ。

(……さてと、行きますかね)

 広場から出る際にふと、出入り口の両脇にたたずむ、小さな女神像に気づいてしまった。
 嫌いなものほど目に入る。こんなとこにもありやがった。【ウォー〇ーを探せ】かよ。

 俺はずっと重かったカツラを脱ぎ捨てると、その女神の頭に向かって、やや乱暴に放り投げた。
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